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魔女の夫、本を売る その2


 コンビニおもてなし書店。

 恩賞でもらった屋敷の1室を丸々書店にしてしまったわけです。
 屋敷自体がすっごい辺鄙な場所にあるため、普通の客相手の書店をこんなとこにオープンしたって、どう考えても誰も来るわけがない。

 でも
 この書店で扱う本って、すべて魔女や魔法使いが書いた魔法の書や実用書みたいなもの。
 あと、魔女魔法出版が定期的に発行している新聞なんかも置くことにしている。

 これらの書籍の一部と、新聞はコンビニおもてなし本店でも若干扱っている。

 ただ、書籍の扱い冊数は圧倒的にこっちが上。
 まぁ、結構な広さがある応接間を全部書籍コーナーにしちゃったわけだしね。

 魔女魔法出版の方とも、すでに契約を交わしてるけど
 主に、魔女魔法出版の倉庫の中で眠っていた本が大半とはいえ、全部で言えば1000冊以上である。

「まぁ、魔女や魔法使いさんの何人かが気に入ってくれたら」
 くらいに思っている訳です。

 具体的に言いますと……
 あ、ちょうどいい見本が、本店の書籍コーナーにいました。

「うわぁ……、師匠の姿形変化魔法に関する考察シリーズが全部揃ってる……これ王都の書店の予約が多すぎて、一般にはほとんど出回らなかったんですよぉ……あぁ!? こっちは光魔法大全集!? ページ数が多すぎてなかなか再版されない幻の1冊じゃないですか!……あぁ、しかもこっちには……」
 
 はい
 自称スアの一番弟子、ブリリアンによります、理想的な書店の客実演なわけですが、
 最近のブリリアンは、仕事時間以外は、この書籍コーナーに浸りっぱなしなわけです、はい。

 しかし、
 王都や、いくつかの大きな都市には、書店がいくつかあるんだろ?
 そんなに珍しくもないんじゃあ……

 なんて思っていると
 ブリリアン、カッとその目を見開くと
「駄目なんですよ! 王都のミヤンワッキー大図書店が、いくつか支店をだしてますけど
 あの書店には、王都の上流貴族お抱えの上級魔法使い達が入り浸っておりまして、私のような下級魔法使いが店に入ろうとすると、客であるはずの上級魔法使いの手で放り出されてしまうのですから……」

 はぁ?
 客が客を追い出す?

 なんかすごい話だな。
 でも、それって営業妨害なんじゃ?

「いえいえ、その者達は、気になった本は全て買いますので……
 恥ずかしながら、私のような下級魔法使いは、収入もそれなりですので、興味を持った本をすべて買うことは出来ません……そのため、立ち読み目的で書店を利用したいという気持ちもありますので、店的にも、むしろ彼女達の方が好ましい客なのかもしれませんし……」
 そう言い、自嘲気味に笑うブリリアン。

 なるほどねぇ……言われてみれば確かにそうかもしれない。

 でもまぁ、
 元いた世界では、僕自身、よく本屋は利用してたし
 雑誌の立ち読みなんかもよくしたもんだ。

 まぁ、どうなるかはわかんないけど
 とにかく、ま、やってみようと言うわけです。


 コンビニおもてなし書店は、基本24時間営業。
 店員はスシスがこのフロアをメインで担当。
 エレが、屋敷とプラントの木の世話の合間に補佐する形。

 書籍コーナーの中には、ちょっとしたソファと椅子もしつらえてあり、
 そこで、本を試し読みすることも可能としておいた。

 まぁ
 立地が壊滅的に悪いため、どんだけ人……というか、魔女や魔法使いの関係者がどれほど来てくれるかって心配はあるけど
 最悪、本店の書籍コーナーに置くための本の倉庫代わりにしておいてもいいし……

 というのも
 本店の書籍コーナーには、本の取り扱いをはじめてまだ間がないにも関わらず、すでに結構な数の常連さんが出来ているので、こちらは新しい在庫を並べるだけで、即売れていく……そんな嬉しい状況になっているわけです。

 ……まぁ、その買っていく方々の来店時間と、来店方法に問題がありすぎるせいで、
 今回の書店開始と相成ったわけなんですけどね。

 で、
 本店の外に、魔女や魔法使いなら読めるチラシを貼った。

『コンビニおもてなし書店開店
 24時間営業しております。
 本店営業時間以外の時間に書籍の購入を希望されるお客様は、ブラマウロ休火山側にあります、この書店までお越しください』

 書店の場所も
 チラシの『 ブラマウロ休火山 』の部分を触れば、触った者の脳内に地図がインプットされるよう、スアの案内魔法がしこまれている。

 スア曰く

 転移魔法を使用出来る魔女や、魔法使い、その使い魔であれば
 その脳内地図を使用して一瞬で転移出来るそうだ。

 まぁ、その当たりは、ただの平民である僕にはよくわからないのです
 スアにおまかせ状態です。

◇◇

 そんなチラシを貼り
 いよいよ、ブラマウロ休火山脇のお屋敷で、コンビニおもてなし書店、開店しました。

「あぁ、……早く営業時間が終わらないかな……早く書店に行きたい……」
 と、ブリリアンが店内で働きながら、すっごくソワソワしていたんだけど
 ……ごめんよ、せめて昼のかき入れ時が済むまでは頑張ってくれ。

 と、まぁ、
 そんなこんなで、本店の営業終了時間。
 僕は、店の閉店作業を終えると、まずはブラコンベにある、コンビニおもてなし2号店へ

「これはこれは店長様!」
 2号店も閉店作業を終えたばかりだったらしく
 一息ついていたシャルンエッセンスと、彼女のメイド達が、皆笑顔で僕を出迎えてくれた。

 スアの転移魔法でやってきた僕なんだけど
 スアは、相変わらず、おもてなし1号の後部座席に隠れていたため
「しかし店長様はほんとうにすごいですわね……こんな転移魔法を、こんなにあっさりご使用になられるなんて……」
 この転移魔法を、僕が使用したと勘違いされて、すっごい感動の眼見つめられてしまうわけです。

 すでに何度も違う、と、言ってるんだけど
 もう、何を言っても聞いてもらえないので、説得は諦めてますが(乾いた笑


 で
 シャルンエッセンスと話をし
 2号店が、予想を遙かに上回って好業績を記録していることを確認。

 一応、週ごとの売り上げ目標とか、立ててもらってるんだけど、
 毎週それ上回る結果を出し続けてる、シャルンエッセンス。

 まぁ、確かに
 今、僕の目の前にいるシャルンエッセンスは、言葉遣いこそ、以前のお嬢様然とした口調ではあるものの、その物腰や態度は、以前のあの

 超高飛車+見下し+お~ほっほっほっほ

 の、三連コンボ炸裂だった面影はほとんどない。
 エレの指導の賜ってのもあったとは思うけど、まぁ、シャルンエッセンス達が心を入れ替えて頑張ってるからこその結果だろう、と、思う。

 そうこうしながら、2号店を後にした僕とスアは、
 おもてなし1号ともども、スアの転移魔法でブラマウロ休火山脇にある、屋敷へ移動。

 で

 そこで僕とスア、目を見開き、その場でフリーズ。

 僕達の眼前にある、僕達の別荘であるお屋敷。
 その書店スペースへ直接出入りできるようにしつらえておいた、書店専用出入り口の前に、

 ずら~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っと長蛇の列。

 ってか、どこまで続いてんだ? これ?

 よく見ると、
 その列の中には、本店の書籍コーナーに足繁く通ってくれてた使い魔達の姿も見える。

 しかし、この列はいったいどうしたんだ?
 そう思って書店内に入ってみると

「あ、店長、ご苦労様です」
 そういって出迎えてくれたスシス。

 その眼前
 書店内は、立錐の余地がないほどに、お客さんが殺到していて、芋洗いといいますか、通勤時間帯の満員電車とでもいいますか……

 スシスによると
「開店直後は、パラパラとしかお客様がお見えにならなかったのですが
 このお客様方、
 長時間店内に居座り、立ち読みし続けられておりまして、まったく帰る様子がないのです。
 そこに、次々と新規のお客様がお見えになり、また同じように居座られ始め……」

 要はあれだ
 来店者はあるんだけど、帰る客がいないんだ……おいおい。

 しかも、ソファや、サービスでお茶を出したりしたもんだから
 最初に陣取った魔法使いらしい女の子なんか
 自分が座ってる横に、山のように本を積み上げてるし……

 さすがにあれはまずいだろうと思い声をかけたところ
「はわ!? ここは図書館ではないのですか!?」

 違います。
 本屋です。
 なので、お客様がそこに山積みにされてるのは店の売り物なんですよぉ、
 なので、そんな扱いされると困るんですよぉ

 そう、伝えたところ、

「はぁ、そうなんですねぇ、大変ですねぇ、ご苦労様ですねぇ」
 そう言いながら

 露骨に、僕の存在を視界から消していきながら、
 読書に戻っていく、そのお客様……もとい、迷惑客。

 
 ……ただ
 よく見て見ると、この魔法使いらしい女の子
 着ている服とか、すっごくみすぼらしい。
 店内を見回してみると、そんな魔法使いがかなりの数いるわけで……

 これって、あれか
 ダンダリンダとの話の中で出てきた、王都の上級魔法使いが入り浸ってる書店からつまみ出されちゃうランクの魔法使いさん達ってわけか……

 確かに迷惑客だけど
 知的探究心を満たしたいっていう、その気持ちもわからないでもないわけで……


 さてさて、どうしたもんか……

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