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魔女の夫、本を売る その1

 そこに行けば確実に本を購入出来る場所
 普段人が寝ている時間でも、応対出来る人がいる
 出来れば郊外で

 そんな条件をあれこれ反復していている僕の目の前に、木人形のエレがいた。

「……で、ご主人様……ここで本を売る、というのですか?」
 そう言いながら小首をかしげるエレ。

 まぁ、そうなるな。
 
 僕達が今いる、この場所は、恩賞で貰った別荘である。

 直行出来る道は、あるにはあるけど
 途中からは獣道になるため、馬での通ることは不可能。
 周囲には巨大な害獣たちも跋扈している……そんな僻地であるこの別荘には、エレ曰く

「以前のご主人様が、お見えにならなくなってから、ご主人様がお見えになられるまで、この屋敷を訪れたのは、山賊や物取りの類いのみです」
 
 との事だった。

 あぁ、無茶な考えだよな、ってのは僕も思ってる。

 半分は思いつき。
 あと半分は、無駄に開いている部屋の有効利用を考えてのこと。

 無理にここで売れなくても
 在庫置き場として考えておけばいいんじゃないかとも思っている。

 と、いうのも
 この魔女魔法出版の本を仕入れる時って、
 1冊で買うより、10冊単位で買った方が仕入値が安くなる仕組みになっている。
 
 合わせ
 10年以上前から、魔女魔法出版の倉庫の肥やしになっている不良在庫を
「よかったらこれも差し上げますから」
 そう、表で笑って、裏で

……いい処分先が見つかったわぁ

 って、考えが露骨にその顔に浮かんでいるダンダリンダが、
 事あるごとに、この不良在庫の山を僕に託そうとしてきているので
 いっそ、それらもここに並べて置いて
 気まぐれにどっかの魔女が買いにきてくれないかな、と思ったわけです。

 魔女なら
 空飛ぶし
 転移魔法使えるし

 こんな僻地でも来てくれるんじゃないか、と思ったわけです。


 そんなわけで、
 エレに、屋敷の一室
 本来応接間に使用していた、広い部屋に屋敷内の本棚を集め
 そこに本をどんどん並べていった。

 ダンダリンダが
「お手伝いしますわ」
 といって出現したんだけど
 
 なんか振り向く度に、棚に陳列するために置いている本の数が増え始めた気がするんだが……

 結局
 書店スペースとして使用するのは、この応接間のみとした。
 この部屋の控えの間が別にあったので、そこを在庫置き場にしたんだけど
 
 まぁ、書店スペースがかなり広く取れたこともあって、持って来ていた本は、ほぼ全部並べられたし、今のところ在庫は残ってな

 ……おい、なんで一杯になってんだ、この在庫置き場

「え~、何いってるんですかぁ、旦那さんってばぁ、
 最初からこれくらいあったじゃないですかぁ」

 しれっと言い放つダンダリンダに明確な殺意を向けながらも
 僕はエレと簡単に打ち合わせ。

 エレには、仕事の合間にここの管理もしてもらえたら、と伝えたんだけど
「お客様をお相手するとなると、ここ専属の者を1名配置していただきたいですね……私も最近は何かと忙しいもそですから」
 と、エレ。

 と、言うのも

 この屋敷を購入した際に植えたプラントの木達がどんどん大きくなっており
 その枝打ちだの
 その害獣対策だの
 その木に益虫をすまわせる作業だの、と
 結構その手間が大変らしい。

 さもありなん
 スアが
「何本かは枯れるかも」
 そう言って、すごい数の苗木を植えたんだけど

 それがことごとく育ったもんだから、その数たるや……なわけです、はい

 しかしまぁ、
 こんな辺鄙な場所に勤務してくれる人ねぇ……

 そう思案していると
 僕が教えた本のポップ作りを嬉々として行っていたスアがおもむろにエレに寄っていくと
「木人形、ある?」
 そう、エレに尋ねた。
 そんなスアに、エレは
「正確には、『木人形だった物』なら、地下倉庫に保管しておりますが」
 そう応えた。

 で
 エレに案内され、僕とスアは、その地下倉庫へ

 するとそこには、
 屋敷内に今は飾られていない調度品の数々が収納されており
 その一角に、なんかマネキンの残骸みたいなのものが積み上げられていた。

 それが
 かつて木人形だった物らしい

 エレとともにこの屋敷を山賊達の襲撃から守っていた彼女達は
 その戦いの最中に破壊されたり、木人形としての寿命を全うしたため、動作を停止したり、と
 様々な理由でここに運ばれたらしい。

 なんか、ちょっと切なくもあり
 僕は思わず手を合わせた。

 するとスア
 その木人形の残骸に歩み寄ると、何やらゴソゴソやり始めた。

 しばし後
 スアがその残骸を寄せ集めて
 床の上に、1体の木人形の姿を形作った。

 ただ
 木人形に詳しくない僕が見ても、
 その木人形は、いくつかのパーツが欠損している。
 おそらく、スアが探しても、その部分に使用出来るパーツがなかったんだろう。

 スアは
「あてがある……まかせて、ね」
 そう言うと、そそくさと階段を上がっていった。

 待つことしばし
 スアはその手に、なんか大きなパッケージに包まれた書籍をいくつか持って来た。

 スアのその手には
『隔週刊 木人形をつくる』
 が、数冊握られており、

「これ……を……足りない……パーツの……足しにする、の」
 そう言うと、スアは
 その本を数冊開き、各号のおまけでついてきている木人形のパーツをとりだしていく。

 その姿を見つめながら
 僕、真っ青

 スアが手にしている『隔週刊 木人形をつくる』って
 全10冊
 全部買うと、元僕がいた世界のお金で、約1000万
 つまり

 1冊100万する本を
 スア、無造作に開封してるわけで……って、あぁ!?また開けたぁ!?

 ダンダリンダ曰く
「あの隔週刊シリーズは、売れた分、払ってくださいね」
 だったわけで……え、何? 今スアがあけたあれって、店で負担すんの!?

 ムンクの叫びも真っ青なポーズを決めてる僕。

 そんな僕の前で
 本のパーツで、木人形の欠損を補ったスアは
 その上でおもむろに詠唱を始めた。

 その詠唱で呼び出された魔法陣が、その木人形を包んでいくと
 しばし後

 パチ

 その木人形が目を開いた。
 その木人形は、起き上がると、しばし周囲を見回していき。
「……おや? 私、再起動出来たのです?」
 そう、困惑した声をあげていく。

 そんなその木人形に、エレが歩み寄っていき。
「あなたは、スアーラ? マッシマム? デレナミース?」
 そう声をかけていく。

 どうやら、あの木人形は、その3体の残骸だったらしい。
 
 で
 そう聞かれた、その木人形
 
 しばし考え込んだ後
「……強いて言えば……全員?」
 そう言った。

 なんでも
 いろんな人形の使えそうなパーツを組み合わせたせいで、その記憶が混在しているのだという。

 で、エレ
 その木人形を抱きしめた。
「……おかえりなさい」
 そう言いながら抱きしめ続ける。

 その木人形も
「……またお会い出来て、光栄です」
 そう言いながら、エレを抱きしめ返している。

 多分……2人、というか、4人の間には、4人の時間があったんだろう。
 それが、3人が破損したせいで、その時間が止まった。

 そんな時が、今また動き始めた……

 ……スアさん、ハンカチかティッシュ持ってませんか? 
 え?、使用中? 

◇◇

 その新たな木人形は、以前の3人の名前から「スシス」となった。

「ご主人様のため、馬車馬のように働きますわ」
 そう言い、恭しく一礼してくれるスシス。

 で

 エレと交代で、この屋敷の管理をしつつ
 書籍コーナーの管理もしてもらうことに。

 これで
 人材に目処をついたし
 さて、まぁ、やってみますか、コンビニおもてなし書店。

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