バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

魔女、本を出す その3

 そんなわけで
 コンビニおもてなしの一角に、書籍コーナーが設置されました。

 置いてある商品はというと、
 伝説の魔法使いであるステル=アム先生こと、僕の嫁の著作がずらっと、と
 魔女魔法出版に残っていた在庫を、僕が店として買い取った物
 それに加えて、魔女魔法出版が週刊や隔週刊で発行している雑誌的な物

 それらをずらっと並べてみると
 意外に、それっぽいコーナーが出来上がったような気がする。

 こういった魔法使い向けの書籍に、どれほどの需要があるのかさっぱりわからないけど
 まぁ、僕としては、妻の本を扱えるというだけで満足しているので、まぁいいんだけどね。


 ダンダリンダを介し、魔女魔法出版と結んだ契約では

 ・基本的に在庫品として倉庫に眠っている品を卸す
 ・それを卸すために、毎月、僕の元いた世界でいうところの、約5万円を魔女魔法出版に支払う。
 ・新刊は基本的には流さないが
  ・客が、店に新刊を注文した場合
  ・店長タクラの妻であるスアの著作物
  上記2点の場合に限り、定価の半額で卸売りする

 基本的には、まぁ、そんな感じ。
 月5万円って、結構辛いかな、と思ってたんだけど、
 初日にブリリアンが買いあさった本の売り上げだけで、すでに50万近くになっていたので……うん、しばらくは気にしなくても良さそうです、はい。


 そんな、卸してもらえた刊行物の中に、
 僕的にも少し興味を持ったのが

『隔週刊 木人形をつくる』
 
 なんでもこれ、毎号、木人形のパーツが付いてきて、
 木人形の作り方が、順番に紹介されているらしい。
 魔力を込める必要があるため、僕には作成出来ないわけなんだけど
 この世界にも、デア○ステ○ーニみたいな物があるんだな、と、妙な感動を覚えたわけです、はい。

 ちなみに、これ
 過去の在庫らしく、
 1号から最終の10号までがセットで納品されていた。

 よく見ると
『監修・協力:ステル=アム』
 って、しっかり入ってるし。

 ちなみにこれ、
 全号そろえようとした場合、

 僕の元いた世界の通貨で、約1000万近くするわけで

 ……おいおい、こんな馬鹿高いの、誰が買うんだ?……って思ってたら

「……それ、すっごく……売れた、の」
 って、スア

 げ、マジ?


 とまぁ、こうして始まった書籍コーナー。
 最初は、魔女魔法出版が卸してきた品を適当に並べてたんだけど
 いつの間にか、スアが
「……これ……とこれ、……あと……これも置きたい、の」
 と、スアがダンダリンダと直接交渉し始め
 
 なんか、書籍コーナーが日に日に充実しています。

 それを受けて、自称スアの弟子・ブリリアンが、
 毎日閉店と同時に、そこで立ち読みしています。

 そこは買ってくれよ、って言いたいんだけど

 この魔女魔法出版の本って、1冊が結構高い。
 こないだスアが出版したばかりの本も、1冊だいたい2万円。

 それでも、ダンダリンダの話によると
「魔女魔法出版には確認と注文の連絡が殺到していますわ」
 とのことだった。


 で
 この無駄に充実化した書籍コーナーを設置してから数日。

 店の客層というか、来客層に変な変化が起き始めました。
 と、いうのが
 この無駄に充実した書籍コーナーに

 妙に幼い女の子とか
 頭に角の生えた男の子とか
 背中に羽の生えた中性的な子とか

 なんか、
 見るからに亜人だよね? しかも、滅多に見ない種族
 そんな客が多く来店するようになり

 まず、在庫をメモして帰る
 次に、翌日、金を持って来店して、いくつか書籍を買って帰る
 で、その時に新しい本が並んでいたら、それをまたメモして帰り……

 ってな行動を繰り返している。

 なんなんだ、あれ?
 って思ってたら

「……あれ、全員、……魔法使いの……使い魔だ、よ」
 と、スア

 へぇ、使い魔ってことは
 魔法使いの代わりに買いに来てるってことか。

 なんて思ってると
 この、来店する使い魔の数が
 スアによる書籍コーナーの充実化に比例するように増えていく。

 で

 最初は、まぁ、
 よく売れて、ありがたいな

 くらいに思っていたんだけど
 この使い魔達

 開店前に、厨房で朝一番に販売する弁当を作成していると
 そんなのお構いなしに戸を叩きまくり、
「本を売ってください!」
 って、うるさい。

 閉店し、巨木の家でスアと一緒に、パラナミオの相手をしていると
 そんなのお構いなしに、家の戸を叩きまくり、
「店の本を売ってください!」
 って、うるさい。

 時には、夜半過ぎに
 僕とスアが、愛の結晶を授かるため、日々のたゆまぬ努力を行っている最中に
 その部屋の窓を叩きまくり、
「店の本を売ってください!」
 って来た奴もいた。

 でも、この時の使い魔って、
 声が聞こえたって思った次の瞬間には、その姿が見えなくなってた。

 その時
 スアが、窓の方に右手を向けてた気がしないでもないんだけど

 うん、気のせいだよね。


 で、まぁ
 一応、営業時間は伝えてはいるんだけど
「ご主人様が、今やっている実験の参考書としてほしいそうなのです」
 とか
「今すぐこの本を手に入れて、調べ物を解決しないと、夜も寝られないそうなのです」
 とか

 お前ら、自分の使い魔だからってフリーダム過ぎだろう?
 って、突っ込みたくなる案件続出。


 ちなみにこいつら
 スアによると、魔法を駆使して、店の中に勝手に入り込もうともしているらしいんだけど
 スアが、きっちり結界を張ってくれているため
 全員弾かれていて、仕方なく、戸や窓を叩くしか手がないそうな。

 さすが、スア。
 僕の奥さんにしておくのがもったいない。

 なんて、本気で思ってたら
 スア、僕にぎゅって抱きついてきて
「……もっと……もっと頑張る……から、捨てない、で?」
 って

 いや、スアさん
 それは僕が言うべき言葉であって……ってかもう、どんだけ可愛いのよ、僕の奥さんは!?


 とはいえ、
 これは何か手をうたないとなぁ、
 せめて、コンビニおもてなしが閉店している時間帯だけでも、どっか余所で買える場所があれば……

 いっそ、
 魔女魔法出版に直接注文すればいいのでは?
 とかも思ったんだけど

 スアに聞いて見たら

 魔女魔法出版に頼むと、

 早ければ5秒で届き
 遅ければ10年かかっても届かない

「全ては、……注文を受けた……魔女の……気分次第、だよ?」

 ……おいおい
 なんて会社だ、それ……

 スア曰く
 出版社がそんなだから、こうしてコンビニおもてなしのように
『そこに行けば確実に購入出来る場所』
 というのは、かなり貴重なのだとか。

 ……あれ?
 でも、書店って王都とか、でかい都市にはあるんじゃなかったっけ?

「ああいった……お店は、……上級の魔法使い……の……独占購入場所化してる……
 ……中堅以下……の……魔法使いは、……利用すら出来ない、の」
 だそうだ。

 魔法使いは
『そこに行けば確実に購入出来る場所』
 があれば、こうして使い魔を使ってどこであろうと買いに来るそうだ。

 もっとも
 コンビニおもてなしは、スアという伝説的な魔法使いがいるおかげで、魔女魔法出版が便宜を図ってくれてるわけであって
 そこらのポッと出の人が
「本を売らせてください!」
 って、魔女魔法出版に申請しようとしても

 そもそも、連絡の仕方がわからないらしい……

 で、まぁ
 とりあえず、僕は考えた

『そこに行けば確実に購入出来る場所』であれば、場所がどこかというのは問わない。

 ……ふむ?

 となると、普段人が寝ている時間でも、応対出来る人がいないといけない。

 ……ふむ?

 時間帯を問わず、戸や窓を叩くし、
 場合によっては、閉門時間を無視して街に侵入してくるので、出来れば郊外で

 ……ふむ?

 こうしてあれこれ考えこんでいく僕。

 まぁ、普通こんな条件を満たす場所、あるはずがない
 そう思うんだけど

 なんか僕の頭の中に1箇所思い当たる場所があったわけで……

しおり