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教会の学校 その3

 シングリランの教会学校に、詐欺の上に恐喝にやってきた紫スーツのイケてない2人組を前に……
 
 着流しを粋になびかせ、腰の長剣を構えた姿の、イケてる鬼人・イエロが対峙。

 1対2の状況です。
 そんな数で不利なイエロを、僕は絶賛応援してます。
 
 ……ただし、教会の影から

 だ、だってしょうがないでしょ?
 武術の心得のない僕が加勢しても、イエロの邪魔にしかならないわけだし……

 僕としては最善の選択をした、と、満足げにうなずいていたんだけど
 なんか、スアの視線が妙に突き刺さるんだけど……


 で、まぁ
 この1対2の変則マッチは、まさに瞬殺でした。

 当然のようにイエロWIN

 紫スーツの2人が、
「往生せいやぁ」
 と、怒鳴り声を上げながらイエロに襲いかかったんだけど

 ってか、この世界でもこんなベタな台詞言う人がいるんだ……と、妙なとこに感心したわけで

 イエロはこれを長剣一振りでなぎ払い、その場に叩きつけていった。
「安心するでござる、峰打ちでござる」
 そう言って、居合いの要領で刀を振るったイエロは、チン、と腰の鞘へと刀をもどした。

 で

 本人は「峰打ち」って言ってますけど、その峰打ちの一撃をですね……

 腕にくらった一人は、その腕が本来あり得ない向きに曲がっており、そこを押さえて悶絶してるし
 腰にくらったもう一人は、なんか、不自然に陥没した脇腹あたりを押さえて倒れ込んでいるし

 ……そうだね
 気のせいだよね

 スアも、何度もうなずいて僕の考えを了承してくれているので、そういうことで、自分を納得させていると
 ここで辺境駐屯地のゴルアが到着。

 まぁ、到着といっても、すでに教会の脇に隠れて待機してもらってたんだけどね。
 というのも
 最初から辺境駐屯地の面々がこれ見よがしに待ち構えてたら、そんなとこに詐欺やってる連中が来るはずがない。
 向こうは、悪いことしてる気は重々承知しているはずだからね。

 そこで、イエロが犯人を無力化するまで、隠れて控えてもらってたんだけど、
 ゴルアは、登場するなり
「イエロお姉様、相変わらずの太刀さばき……このゴルア、もう感激の極みでございますわ、さぁ、この胸に手をお当てください、おわかりでしょう? はじけ飛ばないばかりに躍動を続けている我が心臓の鼓動が……」
 なんかね、鼻血を流しながら、荒い息を吐き続けているゴルアは
 ドン引きしてるイエロの様子を物ともせずに、どんどん迫ってるんだけど

 辺境駐屯地の隊長さ~ん
 詐欺犯ここで~す
 とっとと捕縛して連れてってくださ~い

「あぁ、タクラ殿、大丈夫だ。
 その者達を捕縛し連行する部隊は別途呼んでいるので、その者達にまかせてある」

 そう言うと、ゴルアはその視線をイエロに戻し
「さぁ、お姉様、このまま以前のように、この私の体を堪能いただきたく……」
 とか言いながら、完全に逃走モードに移行しているイエロに、どんどん迫っている。

 ……っていうか、他の者に任せてあるのなら、お前は何しに来た?

「そんなの、イエロお姉様の雄志を見に来たに決まっているではないか!」

 あぁ、
 言い切ったよ、この人。
 ドヤ顔で言い切ったよ、この人。

 あの辺境駐屯地で隊長になる人って
 得てしてこう、どっかおかしくなるんですかね?

 あ、

 でも、ゴルアの場合は、最初からこうだったか……むしろ、ぶれてない?

 なんて思っていると
 辺境駐屯地からの捕縛部隊が到着。

 やれやれ、と思っていると
「ゴルアお姉様ばかりずるいです! イエロお姉様をお慕いしているのは、この私も同じでございますわ」
 そう言いながら、捕縛部隊を率いてきたメルアが、なんか目から涙をこぼしながらイエロに駆け寄っていく。

 ……すまない
 なぜ、こんな人選をした?

 なんて思ったものの
 そもそも、ここでこの痴態を繰り広げ始めた張本人が、そこの隊長なわけだし……

 で、メルアの連れてきた4人の女騎士達が、てきぱきと詐欺犯の紫スーツ2人を捕縛。
 作業を終え、荷馬車に2人の身柄を移すと、
「では、隊長と副隊長をよろしくお願いします」
 そう言って、とっとと帰って行った……お、おい!?

 で

 結局この日
 ほぼ1日、ガタコンベに居座ったゴルアとメルアは、
 1日中
「イエロお姉様~」
「お待ちくださいまし~」
 そんな声を上げながらイエロを追いかけ回していたわけです。

 お前ら駐屯地に戻って、きちんと仕事してるんだろうな?

◇◇

 でまぁ、
 とにかく、シングリランの教会学校が無事救われたわけで
「本当にお世話になりました~」
 って、
 シングリランが涙を流しながらお礼を言ってくれた。
 僕としては、
 すべきことをしただけというか、頑張っている人を助けることが出来ただけで十分と思っていたわけです。

 あ、そうそう
「それでですね、教会と学校の存続に見通しが立ったわけなんで、1つお願いなんですが……」
 そう切り出した僕は、
 シングリランに、改めてパラナミオを紹介し
「この子を学校に通わせたいのですが……」
 そう申し出たところ
「それはもう大歓迎ですわ~」
 って、大喜びしてくれたわけです。

 聴けば
 この世界では、学校に通うというのは義務ではないそうで
 中央の王都に住んでいる貴族さんの子供とかならいざ知らず
 こんな辺境で、しかも亜人の子供に教育を受けさせようって人は、希なんだそうだ。

 こういったところでも
 元いた僕の世界がいかに恵まれていたのか、を、実感したわけです。

 義務教育として、普通に中学校までを卒業し、高校大学まで出た僕としては、
 なんかそのことが妙に誇らしくなったわけですが

 ……伝説の魔法使いである妻・スアの前では、僕にどんな実績があろうとも霞んでしまうのは目に見えているので、言いませんがね。

 ただ
 当のパラナミオ本人が
「パパとママと一緒にいる方が、私はうれしいです……」
 と言ってなんかすごく消極的になっていまして……

 ただ
 パラナミオを学校に通わせることに関しては、スアも賛成なため

 シングリランを前にし、
 パラナミオを交えた僕とスアで話し合った結果、

 とりあえずお試しで何日か通ってみることになりました。

◇◇

 家に戻ると、パラナミオは
「本当に、私なんかが学校に通わせてもらっていいのでしょうか?」
 と、なんかいまだに困惑しきりというか、申し訳なさそうなパラナミオなんだけど

 スアは、
 そんなパラナミオをぎゅって抱きしめて、その頭をポンポンと叩いていく。

 言葉は一切発していないんだけど
 なんていうのかな……すごく温かい光景といいますか

 そうして、スアに抱かれているパラナミオも
 なんかすごく嬉しそうに微笑みながら、スアのまな板の胸に顔をうず

 バチンっ

 ……えっと、一部訂正します。
 スアの胸に顔をうずめているパラナミオ……と、これでいい? スア?

 僕は
 左頬に綺麗に咲いたもみじの張り手跡をさすりながらスアに問いかけたんだけど、

 スアは、そっぽを向いたわけで……

 はつられ損の、言い直し損ですかい。

 若干やさぐれモードに入りかけた僕の前で
 パラナミオはスアに抱きついたまま
「……とにかく、行ってみます。頑張ります」
 そう笑顔で言ったパラナミオだったわけです、はい。

 そんなパラナミオの様子に、安堵しきりな僕だったわけです。

 で
 その夜
 
 いつものように、スアの巨木の家のベッドで

 僕・パラナミオ・スア

 の順に、川の字になって眠っていると
 スアが、ベッドから出て、ぐるっと回って僕の背中にぴたっと……

 僕の耳元に口を寄せたスアは
「……巨乳でなくて、ごめん……ね」
 
 ……いつも思うんですが
 ……なんなんでしょうかね、僕の奥さんは、なんでこう可愛い生き物なんでしょうかね?

 この一言で火がついた僕は……

 はい、ここからの内容は、いつものように黙秘します。

 翌朝、目が覚めると、

 僕を真ん中にして
 スアとパラナミオが左右から抱きつく格好で寝ていました。

 そんな2人の真ん中にいることを実感した僕は
 幸せを噛みしめていたわけです。

 が

 スアさん、服は着とこうよ! パラナミオがそろそろ起きちゃうから!

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