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で、それを肴にまた集まる面々

 僕とスアが婚姻届を提出したその夜。

「まぁ、祝いはしないとな」
 って、向かいの工房の猫人(キャトピープル)ルアが、酒樽を持ってやってきた。

 それを皮切りに、
 役場のエレエや、商店街のみんなが次々に祝いの品を持参してやってきてくれるわけで

 で

 結局、昨夜の熊鍋に引き続き
 2夜連続での宴会に突入したわけです。

 スアが極度の対人恐怖症なのは皆周知の事実なので、隣席は勘弁してもらおう。

 そう思っていたところに、
 尖り帽子を目深に被ったスアがひょこっと現れた。
「無理しなくていいんだよ?」
 そう言う僕に、スア
「……おくさん……だか……ら」
 そう言いながら、僕にすり寄ってきた。

 そう言いながらも、やっぱスアは相当無理をしているみたいで、
 僕の腕を掴んでいる手が小刻みに震え続けている。

 みんなには悪いけど、これは早いとこ退散させてもらった方がいいかも……

 そう思ってるところに
「さぁさぁ、奥さんも少しは飲みなさいって」
 ルアが、いきなり酒瓶を

 スアの口に突っ込んだ!? って、うぉい!?酔っ払い! 人の嫁に何しやがる!?
 ルアの首根っこ掴む僕 

 と

 なんかそんな僕の肩を、ポンポンと叩く手が……
 振り返ると
「にゃはぁ……あなたぁ……」
 なんか、スアが、その顔を真っ赤にして、
 なんか、ふらっふらしながら、にへらぁって笑ってる……おいおい、大丈夫か?
「うん……大丈夫……よ」
 って、言いながら僕に抱きつくスアなんだけど

 僕はよく知ってる。
【酔っ払いの自己申告ほどあてにならないものはない】

 さぁ、スア、部屋に戻ろうか
 
 僕はスアを御姫様抱っこして巨木の家につれて行こうとしたんだけど
「やだ……あなたと……いっしょ……に……のむ……のぉ」
 って、なんか腕の中で可愛い生き物がじたばたしてるんですけど。

「いよ! 新婚さん、見せつけてくれるねぇ!ひゅ~ひゅ~!」
 って、ルア、てめぇ! 元はと言えばお前のせいだろうが!
「まぁまぁダーリン、そう怒らずにキ」
 そんな僕の肩を、猿人のセーテンが満面に笑みを浮かべながら叩いた。

 その顔を見て、僕はちょっとバツが悪いというか……
 まぁ、セーテンにしてみれば挨拶の一環みたいなもんだったんだろうけど、
 いつも「ダーリン」だの「愛してる」だの言ってくれてるセーテンなわけだし、
 そんな彼女の前で、新婚者面するっていうのも……

「あぁ、そんなこと心配しなくても大丈夫キ」
 セーテン、そんな僕にニカッと笑って
「アタシは、愛人でオッケーキ!」
 すかさず僕の首に抱きつき、キスをし

 がしっ

 って、
 僕に抱っこされて、フラフラだったはずのスアが、
 その手に光の盾を出現させてセーテンのアタックをガードした。

 なんか、ぶちゅ!ってな感じで僕に迫ってたセーテン、
「いったいキ!? 少しは手加減してほしいキ、本妻さん」
 顔をさすりながらスアに文句を言うセーテンなんだけど、

「愛人なんて認めない……」
 スア
 僕に御姫様抱っこされたままの格好で、なんかやばい雰囲気満々の魔法陣を展開してて……

 ちょ!? スアさん!? 僕もなんか巻き込まれてるってば? 


 身の危険を察知したセーテンが退散すると

 入れ替わるように鬼人(オーガピープル)のイエロが酒を持ってやってきた。
「いやぁ、ご主人殿のご結婚を見届ける事が出来るとは、このイエロ、この上なき喜びでござるよ」
 なんかもう、相当飲んでるらしいイエロは、若干ろれつが……

 って、イエロがさっきまでいたあたりに、なんか空になった酒樽が2つ転がってるんですけどぉ!?

 でもまぁ
 イエロの酒は、いつも陽気だし、僕はイエロに絡まれるのは嫌いではない。

 イエロは、僕の横にどっかと座ると。
「懐かしいですなぁ……腹を空かせたこの私に、ご主人殿が、弁当を恵んでくださったのが、この良縁のはじまりでござった」
 そう言いながら、酒をグイッと煽り、その湯飲みを、今度は僕に勧めていく。
 僕は、それを受け取り、イエロに酌をしてもらった。
 イエロは、そんな僕の様子を、うんうんと頷きながら見つめてて、
「人族の御方が、我のような卑しき身分の者の酌を受けてくださるなぞ……夢のようです……それが、人として惚れ申した相手だけに、なおさらでござるよ」
 イエロは、なんか酔いのせいか、えらく大げさなことを言いながら、なんか涙まで流していた。


 この世界は
 なんか、亜人と人族の間の格差というか差別が結構ひどい。

 それは、今までにも何度か見たし、体験もした……この街でじゃないんだけどね。

 スアの話だと、
 スアのような偉大な魔法使いでも、地域によっては迫害されることがあると言っていた。

 この商店街で、唯一の人族である僕……
 って言っても、この世界の住人じゃないんだし、人族と言って良いのかどうかも怪しいんだけど、

 でも
 一つだけ言えるのは、

 僕は、そんなことは全然気にしない。
 相手が、鬼人のイエロだろうが、魔法使いのスアだろうが、猿人のセーテンだろうが
 僕は、みんなと同じように話し、同じように笑い、同じように酒を飲む
 そんだけだ。

 そんなことを話していたら、
 腕の中のスアが、そっと手を伸ばしてきた、
「そんな……りょういち……だから……すき」
 スアは、そう言いながらニッコリ微笑み

 そして、寝た……

 その後
 店の在庫の肉を大盤振る舞いしながら宴会は続いていった。

 調理は、すべて猿人4人娘がやってくれて、僕は
「「「「主賓は座っててくださいキ」」」」
 って言われて、厨房に入ることすら許してもらえなかったわけで。

「師匠~、よかったですね~」
 スアに勝手に弟子入り志願を続けているブリリアンが、泥酔状態で、べろんべろんになりながらやってきた。
 ブリリアンは、お酒は好きで、よく飲むんだけど、弱いもんだからすぐ泥酔状態になるんだよなぁ
「あのな、タクラ……師匠泣かしたらゆるさらいからら……」
 最後は、まったくろれつが回らない状態のまま、ずるずると地面に倒れ込んでいき、お尻を突き上げた格好のまま寝息を立て始めてしまった……一応、君も嫁入り前だろうに……

「タクラ殿、タクラ殿!」
 皆からお酌されまくっている僕の元に、蛙人のヤルメキスが、ぴょんぴょん跳ねながらやってきた。
「なんでも、タクラ殿の元いた世界では、結婚したらケーキを食べるのでおじゃりましょう?」
 って、あぁ、ウェディングケーキのことか。
 そういえば、ヤルメキスのお菓子作りの参考にって、ケーキ作りの本とかあげたんだけど、その中にあったんだっけ、ウエディングケーキ。

 ヤルメキスは、なんか小さな皿に乗っかったカップケーキの親玉みたいなのにろうそくをさして持って来てくれてた。
「わ、わ、わ、私、まだまだ未熟でおじゃりますよって、今はこれが精一杯でおじゃりますけど、どうか食べてほしいでおじゃりまするぅ」
 なんか
 正直、見た目はいまいちだけど、その気持ちがもう最高に嬉しかった。

 スアが寝ているので、僕は、まず1口いただいた。

 うん、なかなかいける。
「ほ、ほ、ほ、本当でおじゃりまするかぁ!」
 僕の言葉に、感涙を流し、その場に土下座していくヤルメキス。

 やっぱ、
 ヤルメキスは、どこに行っても土下座だなぁ。


 その後
 宴は夜半前に終了になった。

 昨日の熊鍋パーティは、未明まで続いてたのに、って思ってたら
 ルアが、ニヘラって笑いながら僕の耳元に
「新婚さんの初夜を邪魔しちゃ悪いだろ?」
 って

 お前、やっぱり親父だろ? 実は?

 で、まぁ、
 ざっと片付けをした僕は、スアを抱きかかえて、スアの巨木の家へ

 ってか
 家に入る僕と、僕に抱っこされてるスアに

「お2人の元気な子作りを願ってぇ、バンザイ三唱いくでござるぅ!」
 いや、イエロ、そういうのはいいから! 

 なんかもう、最初から最後まで賑やかだったなぁ

 僕は、スアをソファに降ろした。
 
 スアは、いつもはハンモックで寝起きしていたため、僕と2人で眠れる場所って、このソファしかないんだよな。
 大きなベッドも買った方がいいのかな、なんて思ってたら

 なんかスアがうっすらと目を開けてた。
 なんか、僕の様子をうかがってる感じだ

 ……あ~、そっか
 ……スアも、最初の夜ってのを意識してんのかな

 僕は、スアに体を寄せると
「これからよろしくお願いしますね、奥さん」
 スアの耳元でそう言った。
 スアは、コクンと頷き、僕の首にギュッと抱きついた。

 ここから、朝までの内容はすべて黙秘します。

 翌朝、差し込んで来た朝日で目を覚ました僕は、
 腕の中で眠り続けているスアの姿を見つめながら、なんか胸の中が満たされた気分になっていた。

 某ゲームで言ってた
【昨夜はお楽しみでしたね】
 あの台詞……学生時代は、うっせぇ、とか思ってたけど
 今の僕なら

 えぇ、とっても

 って、笑顔で言える。

 いまだに僕の腕の中で眠っているスアの顔を見つめながら、僕は、今日の弁当はお赤飯にしてみようかな、なんて思ったりしていたわけで。

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