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花祭り その2

 ブラコンベでの花祭りは、僕が想像していた以上ににぎやかに始まった。

 辺境5都市とその周辺の町や村の住民が大挙して訪れるというこの祭り。
 僕自身は、この世界に来て初めての経験だっただけに、その雰囲気を全く想像出来ていなかった。 
 僕が元いた世界の秋祭りくらいのものを当初想像していたのだけど、

 実際に始まって、体感してみると、秋祭りの何倍もの規模だったわけです、はい。

 そんな賑やかな人混みの中
 コンビニおもてなしのテントは、祭り開始直後から大盛況で、弁当類やパン類が飛ぶように売れていく。

 というのも、この世界で一般的に作られているパンっていうのが、総じて固いものばかりだからっていうのも影響していると思う。

 コンビニおもてなしでは
 僕の元の世界での製法で、ふっくらとしたパンを製造している。

 やっぱり固いだけのパンよりは、柔らかくて香ばしいパンの方が、買う方も嬉しいと思うしね。


 猫人(キャットピープル)・ルアに製造を依頼している、鉄製の農具もかなり好評だ。

 この世界の農具って、木製なのがあたりまえらしく
 鉄で農具を作る発想が、そもそもなかったらしい。
 そんなわけで、ルアが作っている鉄製の農具を求める人達が、後から後から押し寄せてきたわけです、はい。

 パンや弁当と違い、その場で生産して追加するわけにも行かず、
 鉄製の農具は、ほどなくして完売してしまった。

 ルアは、一度ガタコンベに戻って鉄製農具を追加生産してくると言って戻っていった。
 なんというか、気合い入ってるなぁ、と思わず感心してしまう。

これ以外にも、僕がもう着なくなった服なんかも売ったりしてみたんだけど、
 以前福袋に入っていたヒョウ柄のジャージなんかも並べておいたら、
「うわ! なんやこれ、めっちゃいかすやんか!」
 って、えらく感動しながら買っていった女の人もいたりして、以外と好評だったわけです。


 そんなこんなで、大量のお客様でごった返し続けていたコンビニおもてなしのテントも
 昼をかなり回ったくらいの時間になったあたりで、ようやく客足が段落した。

 僕は、これを機会に
 店のテントを、エレエ・ゴルア・メルアにまかせて、僕は周辺の屋台を見て回ることにした。

 ちなみに
 おもてなし1号の社内に隠れながらアナザーボディを駆使し続けていたスアは
 この頃になると車中で完全にくたばっていた……
 とはいえ、一番客が多かった時間帯での、アナザーボディの活躍はすごかったわけで、
 スアが起きたらしっかりお礼をいっておかないと、と思った次第です。


 そんなわけで
 僕1人で近くの店がどんな感じなのか見学するために移動。

 何しろ僕は、この世界のことをまだほとんど知らないわけだし、
 こういう機会にあれこれ情報収集をしたかったわけです。


 中央広場の周辺の屋台は、どこも盛況だった。
 まぁ、それもそうだ。
 辺境5都市の店の中でも、売り上げ上位の店の屋台が集結している場所なわけだし、この盛況ぶりも納得といえば納得である。

 屋台で売られているものは、やはり食べ物類が多い。
 野菜や果物系が多く、中にはガタコンベのズアーズ市場ではみたことがない野菜や果物類も結構な種類見つける事が出来た。
 早速、それらのいくつか購入していく。
 あとで味を見て、調理方法なんかを研究してみようか、などと考えつつ、さらに屋台を見て回る。

 武具や、薬草類を販売している店も結構あったのだが、
 身内びいきを抜きにしても、
 武具の品質に関しては、やはりルアの方が
 薬草などは、ウチの店のスアの物の方が質がいいと、素人の僕が見ても一目でわかる。

 武具は、曲線の綺麗さや仕上げの丁寧さが全然違うし、薬草にしても祭りで売られている薬は、僕のような素人が一目見ただけでその中にかなりの不純物が混入しているのがわかる。

 改めて、2人のすごさを再認識しつつ、2人に出会えたことに感謝しきりだったりする。

 あちこちウロウロしていると、不意に、えらく人通りが少ない場所にたどり着いていた。
 そういえば、市場の蟻人(アントピープル)・エレエから聞いていたのだが、
 裏通りにも出店はあるのだが、だいたいはこの街の一般市民による出店らしい。
 手作りの品を売っている店がほとんどらしく、わざわざここまで出向く客はかなり少ないらしい。

 僕は改めて周囲を見回してみる
 よく見ると、僕の周囲の道の上には、まばらにだけど、店らしきものがいくつか並んでいた。
 その店は、どれも通路に敷物をしいただけの貧相な作りで、
 そこに、出店者が手作りしたと思われる売り物が陳列されており、元の世界で言うところのフリーマーケットみたいな感じといえばわかりやすいだろうか。
 
 使わなくなった服や、家具、日用品を売っていたり、手作りの装飾品を売っている店もある。
 売っている人も多種多様だが、この裏通りで店を出している者達は、そのほぼ全員が亜人だった。

 皆、花祭りの雰囲気を満喫し、周囲の雰囲気を楽しんでいた。
 個人的には、表通りの混雑ぶりより、こういったのんびりな雰囲気の方が性にあっているなぁ……
 
 そんなことを考えながら歩いていた僕は
 と、ある店の前で立ち止まった。

 そこには、みすぼらしい服に身を包んだ亜人の少女が座っていて、何やら小さなカップに入った物を並べて売っていた。
「これは何なの?」
 と、聞いてみると、
 その少女は、質問されたことに対してびっくりしたらしく、
「ほ、ほにゃああああああ!?」
 すごい声を上げながら後方に転がっていった。
「お、お、お……お客様でごじゃりますかぁ!? あ、あ、あ……あの、こ、こ、これはですね、その……手作りのお菓子なのでごじゃりますぅ」
 そう言いながら、すごい勢いで土下座してしまう。
 いや、その……そんな卑屈になられると逆に恐縮してしまうわけで……

 とにもかくにも、そのお菓子である。
 形は不格好なのだが、何より匂いがいい。
 元の世界で言うところのカップケーキといった感じの品物だ。

 とりあえず、1つ購入し、早速食べてみる。
 
……ん~………味は、正直、いまいちだった。

 全体的にもそっとしていて、甘味も薄いためどこか野暮ったい感じになっている。
 すぐに飲み物を飲みたくなってしまう。

 ただ

 その点をのぞけば、なかなかしっかりと出来てるんじゃない? うん。
 僕の店で使っている材料を使ってこれを作ったら、結構いい物が出来るんじゃないかな?
 
 そんなことを考えてたら

「あ、あ、あ……あのですね、お客様ぁ……な、な、な……何か混ざりものでも入ってましたでごじゃりますか? でしたらその、た、た、た……大変に申し訳ごじゃりませぬのですぅ」
 そう言いながら、再び激しく土下座してしまう……この少女、すぐ土下座しちゃうなぁ……

 僕は、
 彼女に、ウチの店でもう一回作ってみない?と、誘って見た
 すると、少女は、例によって激しく動揺し、土下座しつつも、
「ど、ど、ど……どうか、ぜひやらせてみてほしいのでごりゃりまするぅ」
 そう言いながら、僕の足下ににじりよってきた。

 なんかもう、別な生き物に見えてきてしまう……

 早速店のテントまで戻ってきた僕と、その少女。
 店のテントは、相変わらず盛況だったものの、一番忙しかった昼前後から比べればかなり少ない感じだ。
 店を引き続き皆に任せて、僕は、その少女と一緒に、早速カップケーキの作成に取り掛かった。

 少女に、ウチの店の小麦粉やイーストといった、パンを作成するために持って来ておいた材料を使用してもらったんだけど
「な、な、な……なんですとぉ!? みたことがないくらいお菓子がふっくらなっていくごじゃりまするぅ!?」
 といって、今度は製造途中のお菓子に向かって土下座しちゃう少女
 ……なんかもう、これは1つの芸だよねって苦笑するしかなかったり……

 そうこうしながらも、試作品が出来上がった

 一緒に作っていてわかったんだけど、少女のお菓子作りの手際はかなり良い。
 多分、裕福でないために、材料として粗悪な物しか使用出来ていなかったのと、作成方法がかなり自己流だったせいで、最初に彼女が売っていたお菓子は、かなりいまいちな出来上がりになっていたようだ。

 この出来上がったばかりの試作品を、早速店の皆に試食してもらうと
「これはまた!うまいでありますな!」
「お茶と一緒にいただきたい味ですね」
 と、皆、美味しそうに口に運んでいた。

 で、まぁ、そんな皆を前にして、その少女は
「そ、そ、そ……そんな、すごい評価をもらえるなんて、お、お、お……おそれ多いでごじゃりまするぅ」
 そう言いながら、再びその場で土下座していくわけで……

 その、すぐに土下座につながっていく大仰な言動に翻弄されてしまってて、ついつい聞きそびれていたのだが、
「そういえば、君、名前は?」
「は、は、は、はいぃ!? と、と、と、殿方に名前をお教えするなんて、なんて恐れ多いぃ!!!このヤルメキス、困ってしまうでおじゃりまするぅ」
 そう言いながら、またも土下座していくヤルメキス。

 ちなみに、蛙人(フロッグピープル)だそうだ。

 僕が、その試作品を食べながら味のチェックをしていると
 いつのまにか僕の背後に、まるで背後霊のようにスアが出現。
「……誰……あの女……ねぇ? 浮気?」
 とかなんとか、僕の耳元で囁いて……

 なんかもう、僕、
「ごめんなさいっ」
て言いながら、ヤルメキスの横で思わず土下座してしまったわけで……
 

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