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森の遭難者~その3

ー翌朝

 目覚めた騎士団のゴルアとメルアに、昨夜組合の蟻人エレエや店員の鬼人イエロ、エルフの魔法使いスアらと話し合った内容を伝えた。
 2人は、食料の輸送に関しては、
「本当か!? それはとても助かる。ぜひお願いしたい」
 と、快諾してくれた。

 その後、あれこれ話をしていると

「しかし各方、あそこまで一方的に破れるとは、ちと腕に問題があるのでは?」
 イエロが、正論をドンと言ったもんだから
「無礼な……貴様らのような亜人の剣士くずれに言われねばならないほど落ちぶれてはおらぬわ」
 ゴルアの怒りを買ってしまい

 互いに引くに引けなくなった2人は結局手合わせをすることに

「発言を撤回するなら、ここで辞めてやってもいいのだぞ?」
「それはこちらの台詞でござる」
 あ~……なんかもう、映画かドラマでしか見たことがないような決闘シーンが始まっちゃうよ、これ、やばいんじゃないの?
「タクラ殿、落ち着きなって。こういう私闘は殺し合わないっていう暗黙のルールがあんだからさ」
 って、武器やのルアが言ってくれたんだけど、
 だからと言ってわざわざ野次馬にこなくてもいいんじゃないかな?
 ってか、みんな暇すぎでしょ、こんなに集まっちゃって。

 ……あれ

 そんな集まった人混みの中を、なんかスアのアナザーボディが箱を持って歩いてるけど……看板に『勝つのはどっちだ?』って、ちょっとスアさん、何賭けまで初めてんのさ!?
 そしたら、客の間を回ってたアナザーボディの1体が僕にまで賭けるように進めてくる。
 あのですね、こんな事をしてる場合じゃなんだけど、イエロの掛け率は?……ほう、3.6? じゃあ10口で……あ、いや、そうじゃなくてだね……

 なんてことがありながら始まった決闘は、結果から言うと、イエロの圧勝だった。

 イエロ曰く
 「こちらのお2人、拙者の剛剣を1発受けただけで手が痺れて動けなくなってしまうし、攻撃は教科書通りの素直すぎるものばかり。
 これでは、森の獣を狩るのも難しいのではござらぬか?」
 イエロの言葉を、騎士の2人は、倒れこみ、荒く息を吐きながら聞くしかなかった。

 実際、1対1では相手にならず、
 途中からゴルア側は、メルアも加えて、1対2となったにも関わらず、イエロがそれでも圧勝したのである。

 なんていうか……素人の僕が見ても、大人と子供といいますか、なんかそれくらい力量に差を感じたわけで……

 倒れたまま立ち上がれなくなってる2人をイエロが担ぎ上げて、ベンチへまで運んであげてたんだけど、マジかっこいいなぁって思ってしまった。


 ー営業4日目

「……こ、これは……」
 コンビニおもてなしの営業中。
 その店内の光景に、ゴルアとメルアが、なんかすごくびっくりしていた。
「お……王都でも、こんなにお客が殺到する店など、見たことがないですよ……ね……」
 店の外から店内の様子を見ていた2人は、その客足の多さに圧倒されていた。

 まあ、ちょうど朝一の弁当とパン類を求める客が殺到する時間帯だったしね。

 最近では、イエロがうまく客を誘導してくれている。
 この時間帯だけ店内への入場に制限をかけて、店内がギュウギュウ詰めにならないように、うまく調整してくれていた。

 お客の方も、
「アンタらがお行儀よくしなきゃ、弁当の販売なくなっちまうよ! それでもいいのかい?」
 と、向かいの武器屋の猫人・ルアの一喝のおかげで、非常にお行儀よく待ってくれるようになっていた。

 まぁ、本当に弁当の販売やめて困るのは僕の方なんで、何があっても辞めないけどね。

 スアによる、光の分体・アナザーボディによる商品追加作業もスムーズになっており、今日からは弁当の詰め込み作業も試験的に手伝ってもらっているのだが、これも問題なくこなせている。

 レジに関しては、相変わらず組合からの蟻人の派遣さん3人が手際よくこなしてくれている。
 いっそのこと、このまま店員に引き抜きたいくらいである。

 最近では、この店内製造弁当の噂が近隣の村落にまで伝わっているらしく、昼前になると、馬車や馬で駆け付けたと思われる一行の姿も複数見受けられるようになっている。

 ……っていうか、店の前にそれを横付けされると、通行の邪魔になって困るんだけどね。
 この対応も何か考えないとなぁ。

 そんな中
 ゴルアは、お昼用にって渡して置いた弁当を一口食べて、なんかまじまじと見つめた。
 騎士団でも、こういった弁当の支給はあるらしい……でも、こんな味は一度も経験がないそうだ。

 そりゃそうだろう
 この世界には、調味料という概念が薄くて、味付けといえば、素材の味そのものをいかした素朴なものがほとんど。
 ウチの店の弁当のように、塩やコショウ、ケチャップやマヨネーズ、ドレッシングなどといった調味料がほどよく使用されている食べ物が大ヒットするのもさもありなんなわけだしね。

 これも、コンビニおもてなしが、弁当・パンの店内製造を売りにしていた店舗だったことと、太陽光発電によるオール電化がなされていたことがすっごく大きい。
 
 こういうとなんか先見の明的でカッコイイんだけど、
 どっちも用は経費節減のためにやむにやまれず導入した手法だったわけで……外注の弁当は無駄が多かったから、だし……太陽光は、あわよくば売電収入で少しでも売り上げの足しにとか思った訳だし。
 人生、ホント何が幸いするかわからないもんです。


 夕刻になり、いつもより若干早めに店じまいした僕は、電気自動車おもてなし1号に、ゴルアとメルア、用心棒役のイエロと、道案内兼周囲索敵役としてスアを乗せ、いざ駐屯地へと向かって出発した。

 途中、市場によって、組合から回してもらった駐屯地へ届ける物資を積み込むと、車の荷台は満杯になり、後部座席に座っている騎士とイエロの3人は、荷物の山に周囲とひざ上まで占拠されていた。
 「ち……ちょっとこれは多すぎではござらぬか?」
 「イエロ殿……も、申し訳ございません……」
 文句を言うイエロに、謝罪するゴルア。
 まぁ、しょうがない、この量を指定したのはゴルアなんだし。

 昨日の撃退の影響もあってか、この日は途中で盗賊団の襲撃を受けることもなく、スムーズにゴルア達が所属している騎士団の辺境駐屯地までたどり着くことができた。

 もっとも、スアの魔法索敵によると、
 「……寄っては……来た……見たら……逃げた……」
 とのことなので、
 やはり例の盗賊団は、今もこの駐屯地への荷を狙ってはいるみたいだ
 ただ、このおもてなし1号には痛い目にあったもんだから恐れをなしている、といったとこなんだろうな。
 
 はぁ……ホントありがたい……なんかもう、昨日のあのカーアクション思い出しただけで、また鼻水が……あ、スア、ハンカチありがとう。

 さて、駐屯地の方だけdp
 いきなり現れた見慣れない鉄の乗り物を前にして、当然最初はすっごく警戒されたんだけど、社内からゴルアとメルアが姿を見せたことで、どうにか中に入れてもらえた。

 こうして無事物資が届いたことで、騎士団員らは歓喜の声をあげていた。
 なんでも、猿人盗賊団による襲撃は相変わらず続いていて、そのせいで食料のほとんどを奪われているため、駐屯地の皆は、昨日から飲まず食わずになっていたというのである。

 おいおい、大丈夫なのか、この駐屯地……盗賊団にそこまで徹底的に強奪していかれるってさぁ


 そんな中
「な……なんだこの弁当!?すごいうまい!!」
 おもてなしでいつも販売している弁当もいくつか持ってきておいたのだが、これが騎士団員には大好評となって、なんか一部では取り合いが始まってるし……おいおい。
 んでもって、その矛先はすぐ僕に向かってきたわけで
「これのおかわりはないのか!?」
「追加を頼みたい! すぐもってこい!」
 って、ちょっとぉ、ちょっとちょっとぉ、いきなり人取り囲んだ上で更に無茶いわんといてくださいよぉ。


 この後、
 ゴルアが上層部に掛け合った結果、騎士団から正式に食料・物資の納品業務を承ることになったんだけど。その際に、この弁当も必ず一緒に納品するよう厳命されたわけで……まぁ、ありがたいことなんでいいけどね。

 その後、ゴルアの案内で、この砦の騎士団長との面会した。
「君がオモテナシのタクラ殿か、今回は食料・物資の納品で大変お世話になった」
 と、今日の食料・物資の納品のお礼を述べられた。
 なんでも、ゴルア達の救出の件も含めた感謝状が、後日、王都の騎士団本部より、都市ガタコンベに対して発行されるとのことであった。

 あぁ、こういうときも個人じゃなくて、都市あてなのね……なんか理不尽なんだけど、まぁ、そういう仕組みなんだろう、ってことで納得するしかないか。
 それに、個人を表彰ってなっても、僕じゃなくてスアやイエロ、ルアを表彰してもらわなきゃな。
 彼女達の労は、あとで個人的にねぎらっておこう。

 今回の物資に対する支払いは、王都割符というもので支払われた。
 これは、元の世界で言うところの小切手のようなもので、これを王都の騎士団本部へ提出すれば現金化できるという代物であった。
 事前に、組合のエレエから、多分そうなるであろうと聞いていたので、特に混乱はしなかった。

 そんな感じで面会は滞りなく終了し、ここで次回の搬入希望物資のリストを手渡される。
 「出来れば、1週間以内にお願いしたいのでだが……」
 という、騎士団長。

 なんか、すっごく恐縮してるけど……よくよく聞いて見ると、例の盗賊団の襲撃を交わしながらの納品作業だから大変だろう? 的な意味合いがこもっているらしい。

 なので
「この物資種類の、この量でしたら、多分明日の今くらいにはまたお持ち出来ると思いますよ」
 そう伝えたら、なんか騎士団長、今度は一転して『ホントに大丈夫か?こいつ』という疑惑に満ちた表情を浮かべてきた。
 まぁ、騎士団長さんは、どうにもおもてなし1号のことがよく理解出来てないみたいだしね。
 そのあたりのことを理解して貰おうとするとめんどくさいので、とにかく結果でお答えしようと思っている。

 こうして、物資の運送に関してはうまく話をまとめることが出来た。

 ただ、僕のあずかり知らないところで、なんか一悶着起きていたようで……
 
 イエロの剣術の腕にすっかり見惚れてしまったゴルアとメルア。
 なんでも、イエロによる訓練指南を騎士団相手にしてほしいと言い出したらしいのだが、これが大問題になったというか、問題にすらしてもらえなかったというか……

「われら、栄光ある王都騎士団が、一介の剣士風情に……しかも鬼族などに教えを乞うなど、ありえないですな」
 と、先ほどの騎士団長。
 ……まったく聞く気もなさそうだ。

 イエロと対峙した経験者である、発案者のゴルアとメルアは、
 自分達の経験したことをそのまま正直に伝え、その有益生・必要性を必死にといていたのだが、
「そんなに教えを請いたいのなら、お前らだけで受けてくればよかろう!」
 と、その場で、この駐屯地勤務からガタコンベの警護役へと配置転換されてしまった2人。

 え? そんなことしちゃっていいの?

 ただ、ゴルアとメルアの様子を見ていると、どうやらこの配置転換は想定の範囲内だったらしく、それ以上の懇願することもなく、この配置転換を
「わかりました。我ら両名本日よりガタコンベ警備の任務につきます」
 と、あっさり了承してた。
 なんか、事前に荷物もまとめてたくさいし、この2人結構したたかだなぁ、って思った訳で。

 イエロが、
「騎士団長殿と手合わせ願ってもよろしいですかな?」
 と申し出たりもしたんだけど
 騎士団長ときたら
「き、今日はな、田舎の叔父の命日にあたるのであってだな、その日は叔父の遺言で手合わせはしてはならぬと厳命されていおるのだ……いや、残念残念……」
 とかなんとか、声を裏返らせながら言い訳してたんだが、あんな漫画みたいな言い訳する人間を始めて見た僕は笑いをこらえるのに必死だったわけで。

「……我が上官とはいえ……あの言い訳は傑作でしたな」
 と、帰りの車中でゴルアとメルアも大笑いしていた。

 結局
 ガタコンベ警備の任につくことになったゴルアとメルアなのだが、
 当然そんな宿泊施設があるわけもなく、おもてなしの1室に住み込む事になった。
 なんでも、ゴルアが警備宿泊施設として届け出すれば、施設使用料が騎士団から支払ってもらえるらしいので、まぁ、いいか、と思ったわけで……また1部屋、荷物をどうにかしなきゃいけないなぁ。

 帰りの車内で
「皆さまには、お手数をおかけいたしますが、なにとぞよろしくお願いいたします」
 メルアが丁寧に頭を下げる。
「これで、イエロ殿にしっかり鍛えなおしていただけるのが、個人的には嬉しくもありますので」
 ゴルアも、同様に頭を下げる。

 2人は、車内の皆に向かって丁寧に頭を下げた後
 2人揃ってイエロに向き直り……あぁ、そうそう、この3人は後部座席に、イエロを中心にして3人横並びに座っていたんだが、そんな真ん中に座っているイエロの手をギュッと握ったかと思うと
 「「……もし、よろしければ……今後『お姉さま』とお呼びさせていただいてもよろしいでしょうか?……お姉様」」
 ……初めて見たよ、目の前でのリアル百合展開とか。

 2人の言葉に、
「……せめて、『師範』か『師匠』ぐらいにとどめてはくださいませぬか?」
 明らかに狼狽しきりなイエロだが、2人は、イエロの腕を左右からつかみ……というか抱きつき、必死に懇願してた。
 ……スアさん、メーター見つめながら『カガク、カガク』言ってないで助けてあげたら? 僕、運転に集中しなきゃいけないしさ。

 僕の小声を当然のようにスルーするスア。

「ご、ご主人殿、お助けくだされぇ!?」
 後部座席から必死に懇願してくるイエロ
「お姉様ぁ!」
「よろしくお願いいたしますわぁ」
 そのイエロに抱きついて離れないゴルアとメルア。

 
 なんか、
 コンビニおもてなしって、どうなっていくんだ?
 なんかすっごい不安しかないわけで……


 まぁ、なんのかんのあったけど
 森の遭難者の一件は、どうにか落着したわけです、はい。

しおり