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影法師と人形遣い4

「・・・・・・んー?」

 魔法の修練を独りでしていたある日の事。魔法の特性をとにかく研究していたら、何故か知らないがやりたかった事が上手くいった。

「んー・・・んー?」

 今度はその原因について調べてみるが、これが上手くいかない。やっていた事も行き詰ったので、丁度初心に帰ってみようと思っていたので、そこまで変わった事はしていなかったはずだが。

「・・・・・・むむむ」

 頭が痛くなりそうなほど集中して考えてみるも、答えが導き出せない。
 まぁ、使う分にはそんな事どうだっていいのだが。何度か試してみたが、全て上手くいったし。

「使える事が一番大事なのは分かっているのだが、何かこう、何かがのどに詰まっているようなもやもやした感じがするな」

 背中が痒いのに手が届かないようなもどかしさを覚えながらも、まあいいかと息を吐く。

「もう一回してみるかな」

 妙に凝り固まっている頭を少しでも解す為に、先程何回も試した事を行う。その前に準備を済ませた。
 やる事は難しい事ではない。ただ単に、魔法を的である人形目掛けて放つだけだ。
 その際に対象の魔力だけを吸収して、人形を粉砕する予定。この人形は自前で用意した。流石にプラタが用意してくれた的を破壊するのは申し訳なかったから。今回は最初から対象の破壊が目的な訳だし。
 それはそうと、魔力吸収の効率化も上手くいった。これで魔法の吸収速度が上昇して、数や質にも更に対処可能となった。
 今回行う対象の魔力のみを吸収というのは、魔力特性を理解してからの初期の頃からの念願だったやつだ。魔法に魔力特性を持たせるだけではなく、見境なく魔力を吸収してしまわないように調整をしたのだ。それまででも大変だったが。
 しかし今回はプラタとの模擬戦で学んだことを活かして、魔法が触れるよりも前に対象から魔力を吸収出来るようになった。これにより、ボク自身に向かってきた魔法がボクに接触するまでに大抵の魔法を無力化することが出来るようになった訳だ。
 守りでの安全性が向上したのと共に、攻めでもぶつかった後に吸収するまでの消耗が抑えられるようになった事になる。
 後は吸収した魔力の変換速度の向上だが、これはまだ上手くいっていない。
 そういう訳で、今回は狙った対象の魔力のみを吸収するというのを行う。つまりは遠隔でも任意で魔力を吸収する相手を選べるという訳だ。これはとても強力な手札になるだろう。
 そう思いながら、準備を済ませたので早速人形から離れて魔法を行使する。
 ボクが行使する魔法であれば特性は何にでも付加出来るので、人形に向かって行使する魔法は何でもいいのだが、少し考えて無属性魔法に挑戦してみる事にした。そういえば、無属性魔法に特性を載せるなんてしてなかったなと思い出したから。

「果たして上手くいくのかどうか・・・」

 問題ないとは思うが、それでも初めての試みなので少し緊張する。
 一度深呼吸した後、人形に向かって特性を付加した魔力の塊を放つ。飛んでいく魔力が魔力視で確認出来る。
 そして魔法が人形に衝突する直前、特性が働き魔力を一瞬のうちに吸収してしまった。しかも全体ではなく一部のみ。結界を全て吸収しようとすると、たとえ可能でも時間が掛かるのでお勧めは出来ない。
 それに、大抵の結界は損傷すれば勝手に修復するが、それでも一定以上の損傷だと修復が間に合わずに破壊されてしまう。なので、結界の破壊だけを目的とするならば、一部を吸収する方が効率がいいのだ。
 もっとも、今回の結界はそこまで強いものではないので、全て吸収して威力を上げるという選択もあるのだが。
 まあそれはそれとして、結界を突破して人形に魔法が衝突する。人形は何か重たい物がぶつかったかのように派手に吹き飛んだ。
 これにて実験は終了。成功に終わったという訳だ。しっかりと結界からしか魔力吸収を行わなかったのは確認済みである。

「うん。問題ないな。しかし、やはり急にどうしたんだろうか?」

 少し前までは、ある程度時間差で特性を開放する以外に遠距離で特性を開放する手段がなかったのだが、今は実験の結果通りに可能となっている。
 記憶を辿ってこれが出来るようになった切っ掛けを探っているのだが、今のところ何も成果なしだった。

「本当に、何で急に出来るようになったのだろうな? 長いこと上手くいっていなかったというのに」

 出来なかった事が出来るようになったのは別に悪い事ではないのだが、それでも気になってしまうのは仕方のない事だろう。ただ、いくら考えても答えが出ないので、そろそろ諦めようかと思ってはいるが。

「こういうのはいつか不意に思い出したりするものだしな」

 小さく息を吐き出すと、散らかした人形の片付けをしっかりと行い、今日の魔法の修練を終えて自室に戻る事にした。その前に、訓練場の傷ついた部分も修復出来る部分は修復しておかないとな。





 また別のある日。兄さんが残した背嚢の解析を行う。
 最近はプラタはタシを連れまわしていて忙しそうで、朝と夜しか顔を合わせていない。
 背嚢の解析を一人で行うのは中々骨が折れるが、それでも少しずつやっていけば何とかなるだろう。無理そうなら直ぐにやめればいい訳だし。
 それに今回手をつけるのも今まで通り収納部分なので、無理かどうかは直ぐに解る。この背嚢の解析を始めて、以前よりも慎重に調べるのが上手くなった。無理かどうかの見極めもかなりのものだ。

「まぁ、あれだけ痛い目に遭えばな」

 解析を少し行い休憩に入ったところで、ふと思い出してやや遠い目になる。
 この背嚢に挑み始めて、幾度も幾度も頭痛に吐き気にと襲われたものだ。酷い時には脳が限界に達したのか、意識を失って二日ほど目を覚まさなかったほど。
 そんな事を一回や二回どころか十回やニ十回では利かない回数経験したのだ。何度頭が割れると思った事か。あれは直接頭を掴んでぐるぐる振られるよりも辛いと思う。
 自分の脳を心配する日々。幸い後遺症のようなものは出ていないが、あれで大分記憶が飛んだ気がする。
 吐き気だって尋常ではなく、毎回胃を掴まれて中身を押し上げられたように痛みと共に吐き気がやって来るし、吐いた時も毎回胃が口から出てくるのではないかと真面目に心配したほど。
 それぐらい酷い目に何度も何度も遭った為に、嫌でも危険に対しての勘が働くようになったものだ。今ではそれらもいい思い出・・・・・・にはならないが、必要な事だったとは思っているので後悔はしていない。
 そんな事があったので、危ないと少しでも感じたら手を引くようにしている。そのおかげで、最近はそんなキツイ症状には悩まされていないが、その代わりに解析の進捗速度は落ちてしまっていた。
 そこにプラタが加わると、途端に楽になる。それだけ大規模な処理を行っているプラタに感謝しつつ、今では比較的楽な方となった解析に勤しんでいた。
 それだけプラタの処理能力が高いという事だが、実際そうだしな。今でもボクは時間に関する部分の解析がほとんど行えていない。あれに手を出せるのだから凄いものだ。
 それぐらい、この背嚢の解析においてプラタの存在は大きい。それでもまぁ、居ないものはしょうがないのだが。
 出来る事だけやろう。あれだけ痛い目に遭ったのだから、無理はもうしない。そう決めて休憩を終えると、解析を再開する。
 頭に流れてくる情報の波に必死に抗いながら解析を進めていく。ただそれだけではあるが、三十分もすれば同じだけ休憩しなければ処理が追いついてはくれない。
 無理なく解析出来る部分でも、兄さん作の背嚢は情報の塊なので、脳への負担が大きすぎる。休憩中はついボーっとしてしまうし、これも日が進むと疲労の蓄積からか休憩時間が長くなっていくんだよな。
 小さく気合いを入れると、休憩を終えてまた解析。今日は一日それに費やした。昼食は朝に用意されていた物を背嚢に収納していたので、それを食べた。

「やはり時間停止はいい機能だ。以前から似たようなモノではあったが、それでもプラタのおかげで完成したから、こうして朝用意した料理がまだ温かい」

 昼食を満足しながら食べたところで、ふとそう言えばと思い出す。

「この時間停止の魔法を解析すれば、局所的に時間を進めるような魔法も出来るのだろうか?」

 昔から欲しかった時間を進ませる魔法。プラタ達ですら存在を知らないと言っていた魔法ではあるが、目の前にはその時間を止めるという機能が備わった背嚢。
 ボクではまだ時間関係の解析は難しいが、既にプラタが解析を行っている。あれからそこそこ経つが、今のプラタに局所的に時間を進める魔法の存在について質問すれば、何かしら答えが得られるかもしれない。
 時間の巻き戻しもあればいいが、優先順位としては時間の早送りの方だろう。そうすれば色々な実験が捗るはず。
 今夜か明日の朝にでも訊いてみるかと思いながら、午後も背嚢の解析を行っていく。午前を終えただけでも休憩時間が十分ぐらい伸びていた。
 それでもめげずに夕方ぐらいまで解析を行い、休憩後に後片付けを行う。背嚢の解析時には用心の為に中身の一部を外に出しているからな。解析を終えたら邪魔なので、それを背嚢の中に戻さなければならない。
 そういった片付けを済ませたところで、お風呂に入る。
 プラタは夕食までには帰ってくるのだろうか? 念の為に朝に夕食分まで用意してくれていたけれど、プラタの戻りはまちまちだからな。それでも朝には必ず戻っているので、特に問題はないのだが。
 そんな事を考えながら入浴を終えたが、夕食は一人で摂る事になった。最近は一人の時間が増えたが、何だか懐かしいものだ。プラタが地下で暮らすようになってまだ一年ちょっとぐらいしか経過していないというのに。
 食休みを挿んで寝台に移動する。寝る前にも何かしようと思ったが、流石に一日解析に集中して頭が疲れたので、眠気が襲ってくるまでボーっとして過ごす事にした。今日もまた平和に一日が過ぎていく。ずっとこうならいいのだが、きっとそうはならないんだろうな。





 晴れの日もあれば雨の日もある。季節は移り変わり、同じ日など一日たりともありはしない。時は流れてゆくのだから、変化しないモノなどありはしない。
 もっとも、ボクが居るのは地下なので天気は関係ないし、温度も湿度も魔法道具によって一定に保たれている。光はこちらで光量を調節出来るが、そういった自然の変化は当然ない。ここではあっても自分の肉体の変化ぐらいか。
 突然何故そんな事を考えたかと思うも、何となくだろう。不意にそう思ったので、そういう気分だったのだろうさ。決して人間界に居た頃よりも集中力が続かないなとか思った訳ではない。体力についてはまぁ、運動不足だろう。ここでは移動以外はプラタとの修練ぐらいしか運動していない気がするし・・・いや、頭脳労働も結構疲れるのよ? ボクは誰に対して言い訳しているのだろうか。
 とにかく、変化というのは変わらない環境でも起きるらしい。

「もう少し運動した方がいいのかな。せめて体力ぐらいはあった方がいいと思うし・・・でもなぁ、その時間で魔法の開発とか魔法道具の作製とかしたいし・・・うーん」

 第一訓練部屋の床に腰を下ろしながら、腕を組んで考える。現在は休憩中なので別に集中力が切れた訳ではない。やる気はあるのだ。
 プラタとの模擬戦では近接を主軸にしていたので、そろそろ体力づくりもした方がいいかもしれない。しかし、最近は遠距離でも特性を開放出来るようになってきたしな。
 移動は中・長距離ならタシが居るし、近距離なら自分の足で移動出来る。流石にそこまでは衰えていない。だが、戦闘となると流石に厳しくなってきた。

「動きながら魔法の研究や魔法道具の作製をする? ここなら何も無いし、うろうろしていても何かにぶつかるという事はないだろうけれど」

 今後の事を思えば、やはり少しぐらいは体力をつけていた方がいいだろう。現在の体力では、一日街中を見て回るのが精一杯だと思うし、日常生活ならまだしも、その程度では戦うには体力不足だよな。
 はぁと息を吐いた後、休憩を終える。早速思いつきのうろうろ修練をしてみようかな!
 という訳で、変に気合いを入れたところで今は魔法の修練中なので、的目掛けて魔法を放つ。勿論適当にその場を移動しながら。
 的から離れた場所の狭い範囲を行ったり来たり、時にはぐるぐると小さな円を足元に描きながら的目掛けて魔法を放っていく。動いているので、的に狙いを定めるのに少し苦労する。それでも自分で移動しているので調節は楽だが。

「・・・うーん。意外とこれはこれでいいかも?」

 実戦的とまではいかないが、それでも変化が在るのはいい事だ。動かない的相手に狙いを定めて魔法を放つよりはマシだろう。しかし。

「でも、これなら動く的を用意した方がいいような? それとも併用すればいいのか? 的と自分が動きながら標的に攻撃するという・・・」

 一考の価値があるような、ないような。そんな何とも微妙な感じの方法だが、試してみる事にした。
 動く的はプラタが何種類か用意してくれているので、その中で左右に移動する的を設置する。
 的は棒の先に円を付けた単純な物。円の部分には大小様々な同心円が何重にも描かれていて、それが中てる場所の目安になるので、魔法はこの部分に中てるように狙いをつける。
 そんな的の足下には、長い半円の板が横たわっている。丸太を縦半分にして床に置いたようなそれの中央には一直線に溝が彫られ、その溝から的が伸びている形だ。
 的は溝に沿って左右に動く仕掛けなので、的は左右にだけ動く。動く仕掛けだけ魔法道具になっているので、起動すれば止めるまでずっと動いている的の完成。
 これを起動後、ボクもその場で先ほどと同じように適当に移動していく。
 的は左右にしか動かないと言っても、その速度や移動方向は不規則なので、中々に予測が難しい。的の移動は必ず端まで行くというものではなく、途中で移動を止めて反対側に移動を始めたり、その場で小刻みに左右に移動したりするので、予測が乱れる。それでも平時では簡単に中てられるのだが、こちらも動きながらだと意外と予測が難しい。
 足を止めること無く、的を凝視して狙いを定める。
 今回は中てる事を重視しているので、放つ魔法は強くなくても良い。とにかく足が早くて真っ直ぐ飛びさえすればいいので、風の矢を選択。
 的に中てるように集中するも、それで足の運びが疎かになってはいけないと、適度に意識を足にも向ける。これは意外といい修練になるかもしれない。これをどんどん難しくしていけばいい訳だし。
 そんな評価を頭に思い浮かべながら、風の矢を放つ。
 風の矢は一瞬で的目掛けて飛んでいき、見事に的に命中した。しかし、的中央を狙ったのに少しずれてしまった。まだまだ修練不足であるという事か。
 的に魔法が中った事を感知して、的を動かしていた魔法道具が動いていた的を自動で停止させる。
 それを確認した後、意外に疲れたのでその場で立ったまま少し休憩した。意外なところで新しい修練方法を思いついたな。驚きである。


 休憩後、的を修復してから再起動させて先程と同じ位置に移動すると、もう一度同じように的を狙う。
 今度は先程よりはマシな結果に終わったが、やはりまだ慣れないようだ。的の動く速度は変えられるので、慣れたら慣れたで変えればいいのだが。今よりも遅くも速くも可能だし。
 それに、的の中には左右だけではなく、前後や円を描くように動く的も用意されている。この辺りは用意する手間がかかるも、動く的というのも結構面白い。
 それに的の種類はそれだけではなく、ジグザグと動く的に上下に動く的まである。本当に種類が豊富だな。そして、この的の部分は差し替え可能なので、強度は別の的を使えば変更可能という優れもの。ホント、プラタはいい仕事をするな。
 さて、それはそれとしてだ。それから数回同じ事を行ってみたのだが、的の起動や修復など面倒な点も多いがそれよりもだ、これは実際効果があるのだろうかと不意に思った。
 運動といっても、うろうろ狭い範囲で歩き回っているだけ。無意味とまでは言わないが、効果があるのかどうかは微妙なところ。

「まぁ、まだ初日だし。それに、やらないよりはいいだろう」

 運動不足といっても、だからといって外に出てまで何かやろうというほど深刻ではない。
 模擬戦を増やすという手もあるが、最近はプラタも忙しそうなので相手がいない。シトリーとかフェンやセルパン辺りで暇しているのは居ないのだろうか? それともまた魔物創造でもしてみようか。

「うーん。大人しくここでも走ってみる? いや、それだと似たようなものか」

 考えてみても特に名案も浮かばないので、今は暫く同じ事を繰り返す事にした。
 的を動かし、自分も動きながら狙いを的に定める。遊びの延長みたいで面白いので、このままでもいいかな。速度を変える事も出来るし、的の種類は豊富だ。休憩中に的を動かしている魔法道具を調べてみたが、どうやら設定次第ではもっと速度に緩急をつける事が出来るようだ。今でも速度は変わっているが、変化は僅かでしかないからな。
 プラタは本当に凄いなと思いながらも、面白かったので結局その日一日は同じ修練を行った。





 また数日が経過した。プラタは変わらず忙しそうだが、今でも朝夜は帰ってきているらしい。朝は会うが、夜は寝た後に帰ってきているようで、会う機会はない。
 それでも前よりは一緒に居る気がする。プラタが地下で暮らす前は、報告をたまに受けるだけで数日声を聞かないという事も珍しくはなかったからな。
 それにしてもどうしたのかと思うも、現在は確認中という事で詳しくは聞けなかった。それでも南の方で何かが起きたらしい、もしくは起こりそうだという事を聞いた。
 場所でいえばいつもの事だと思うが、そう思うのも凄い事だろう。慣れって恐い。
 さて、忙しいプラタの手を煩わせるわけにもいかないので、さっさと身支度を済ませて午前の修練をするとしよう。
 朝食を終えた後の食休みの最中、そう思ってそろそろ修練をしようかなと思ったところで、背嚢の方へと視線を移す。基本的に外に出る時ぐらいしか使わない背嚢だが、最近は朝食時にプラタが昼食と夕食も一緒に用意してくれるので、そちらを収納しておくのに大活躍している。
 修練に行く時にこの背嚢を持っていっておけば、わざわざ自室に戻らなくてもその場で昼食が食べられる。ものぐさだとは思うが、時間の節約にはなる。
 やっぱり容量が途方もなく多くて、更には時間停止機能まで備えていると便利だなと改めて思う。

「・・・・・・そういえば、この背嚢の容量はどうやって確保しているのだろうか?」

 背嚢というか魔法道具全般に共通する事だが、魔法を組み込むにはそれ相応の容量が必要になってくる。
 その容量は主に素材によって確保し、その容量を使って魔法を組み込む。それが魔法道具だ。
 容量は素材の劣化と共に減るので、容量限界まで魔法を組み込むと、魔法道具の寿命が短くなってしまう。それだけではなく、組み込んだ魔法を起動させるにも容量に余裕が必要になってくるので、その分の容量を計算して確保する必要がある。
 つまり、何をするにも容量の確保が第一だという事になるのだが、この背嚢はその原則に沿っていないように思われた。

「どんなに頑張っても収納量や時間停止、その他の機能とどれか一つでも厳しそうなんだけれど。いや、収納量と時間停止は片方だけでも明らかに容量が足りていないはず」

 今までの解析や自分の知識と照らし合わせても、明らかに作製不可能な魔法道具だという事しか解らない。
 食休みを終えてプラタが用事で出ていった後、背嚢を手にボクは第一訓練部屋に移動する。今日はとりあえずこの背嚢の容量について調べてみるとするかな。
 そう思い、第一訓練部屋の床に中身を出す。これを何度も繰り返していく内に荷物の整理まで出来てしまった。容量を調べる為に放り込んでいた物や、とりあえず保管していた物など結構な量になってしまった。
 今でも少しずつ掃除しているが、これはまだ続きそう。まぁ、最初の頃の粗大ごみ入れみたいな中身よりかはマシになったとは思う。
 そうしてある程度は中身を整理したので、外に出す量は最初の頃より大分減った。それでも一山ぐらい出来る量を外に出すと、早速背嚢を調べていく。
 今回の目的は容量の確保についてなので今まで通りに解析ではあるが、組み込まれている魔法については横に措く。これだけで気分的には大分楽だ。
 それで、今回の目的である容量の確保について調べる為に、まずは背嚢の材質について探っていく。

「・・・・・・うーん、見た目はただの布製の背嚢だが」

 手触りとしてはざらざらとしているが、それでも丈夫そうな感じがしている。何かしら表面に塗っているような艶があるも、その辺りは詳しくないのでよく解らない。
 改めて見た目や感触を確かめた後、とりあえず材質を調べてみると布製ではあるが、包帯のように薄い布を何重にも重ねて作られているようだ。その際に予め布に接着剤となる液体に浸しているようで、それが表面の艶となっているみたいだな。
 そうして完成したものが、今調べている背嚢らしいが、それだけでは中身と容量の差に説明がつかない。
 確かに布を何重にも重ねる事で容量は上がるし、そこに液体を用いると隙間が埋まりその分容量が増えるというのは盲点だったが、それらを加えても容量が足りない。それどころか同じ大きさの背嚢であれば、ボクが技術の粋を集めて創造した方が圧倒的に容量が多いぐらいだろう。
 しかし、実際にそんな背嚢で想像を絶する大容量を実現しているのだから理解不能の一品に仕上がっている。

「どうなっているんだ? 調べた限りでは容量は大したことなさそうだが・・・使用している容量はっと・・・うーむ?」

 背嚢の材質について調べた後、容量の使用率について調べてみる。魔法道具を一から創れる者であれば、これぐらいは割と出来る・・・と、思う。
 そうして調べてみた結果、容量の六割ほどしか使用されていないのが分かった。しかし、十割でも確実に足りていないはずなので、それがまた不可解な結果だった。

「どういう事だ? 本当に六割程度しか使用していないのか?」

 考えられるのは、まず本当に六割の使用率で背嚢を完成させている事。他は、実際とは異なる情報を掴まされているという事。この辺りは技術の漏洩を警戒する目的で隠蔽する方法もなくはない。ただし、非常に高度な技術を要するというのに、ある程度の腕がある相手には通用しないというあまり意味のないモノ。それでいて結構容量を必要とする微妙な技術。
 しかし、今回の背嚢の製作者は兄さんだ。であれば、ボクの知らない技術が使われていても何ら不思議ではないだろう。
 それ以外に考えられる可能性としては、外側と内側が別の造りになっている。だろうか。
 これについては考えていてなんだが、自分でもよく解っていない。つまりは六割使用しているというこの部分は隠蔽用の外殻で、実は別に内殻が存在していて、そちらが本命みたいな感じだ。・・・うん、改めて考えてみてもよく解らない発想だな。
 後は単純にボクが発見出来ていない素材があって、それを含めて全体の六割みたいな感じだろうか? いや、それなら気がつきそうなものだが。
 うーんと首を捻って考えてみるも、どんどん変な方向へと思考が進んでいっている気がする。せめてもう少し現実的な方法を思案しなければ。
 思考を切り替えるようにふるふると頭を振ると、もう一度考えてみる。しかし、思いつく案に大して変わりはない。

「しょうがない、一旦休憩にするか」

 今のまま思考を続けても同じ考えを行ったり来たりするだけなので、とりあえず休憩する事にする。
 しかし時間を確認すると、既に昼が少し過ぎていた。
 やはり集中すると直ぐに時間が過ぎるなと思いながら、背嚢から昼食を取り出す。これはプラタが朝に用意してくれたやつだ。
 まだ温かい料理を食べた後、食休みを挿む。そうして少し休んだ後で横になってみた。それで僅かにホッとして身体の力を抜く。

「うーん、難しい。何か考えれば考えるほどにドツボにはまっているような気がするぞ」

 何度調べても不可解な結果に、魔法について調べている時とはまた違った感じで頭が痛くなってくる。これはあれだろうか、あまり難しく考えてはいけない類いのやつなのだろうか? そうなってくると、実は調べた通りの結果だという事になるのだが・・・。
 いや、製作者が兄さんである以上、それを不可能だと断じる事も難しいだろうな。困ったものだ。

「仮にそのままの結果だとしたら、兄さんはそこそこの容量でこの背嚢の魔法を組み上げたという事になるのか」

 仮に本当にそうだとすれば、それはまた凄まじい話だ。なにせ、その程度の容量で組み上がる魔法ですらボクではごくごく一部しか解析出来ないのだから。
 それに、頭がはじけ飛びそうなほどに複雑な魔法がそんなに少ない容量で組める魔法だとすると、かなり自信を喪失しそうだな。
 うーん、やはり厄介なものだ。それとも、単純に知らない魔法だから頭が痛くなるのかな?

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