第265話 デバッグ★パッション②
「どうして、みんな、そんな装備が充実しているの!?」
本パーティーのメンバー全員が集っての、三回目の合同
「お肉の調達をしていたら、自然と」
「どんだけ!? ねえ、それ、どんだけ!? みんな、三ヶ月間毎日肉パしてたっていうの!? ねえ? ねえ!?」
素っ頓狂な声を上げてわななくピエロに、マッコイとサーシャと権左衛門が苦笑いを浮かべた。
「新鮮で美味しいやき、つい」
「ストレス発散にもなるし、お肉代はGM持ちだからお財布にも優しくてありがたいよね」
「ホントね。だから、うちの寮はよく食べる子が多いのもあって、みんなで手分けしての一大プロジェクト状態でね。おかげさまで、効率良く倒せる方法が分かって秒で
マッコイのガチな発言にサーシャと権左衛門もさすがに驚いたようで、マッコイは驚愕の表情で注視してくる者が増えたことに顔をしかめた。
「何よ。アタシ、何か、おかしいこと言ったかしら?」
「だからメンバー内唯一、装備がまるっと更新されているんだね……」
「あしんところも同じような感じじゃったが、
「マコちん、それはさすがに〈凄い〉を通り越して〈怖い〉だよ!? まるで、家事の合間にミッション周回する、ネトゲのガチ廃主婦みだいだよ!?」
「失礼ね。仕事も料理も暗殺も、効率化は大切でしょう? それに、ガチ廃の人は〈ゆったり楽しむ〉ということはしないと思うけれど」
マッコイがムッとすると、死神ちゃんとクリスが苦笑いを浮かべて「経験値、ごちそうさまでした」と言った。
「すごいんだぜ、うちの寮のお料理クラブの肉ハント。もう、精肉工場も真っ青のレベルでさ。本当に、秒で
「
第二班の面々は各々の食欲と狩猟本能が勝ってしまいフリーダムな狩りとなりがちだったそうだが、アイテム分配などは第三と同じように行っていたようだ。死神ちゃんたちの話を聞いて、権左衛門はにこやかな笑みを浮かべてウンウンとうなずいていた。対して、ピエロは悔しそうにグッと息を呑んでいた。どうやら、第一班ではそうはいかなかったらしい。
「軍曹ってば正真正銘のガチ廃なうえに、軍隊モード全開だったからアイテムは功労者への報酬って感じだったんだよね……。あちし、そういう堅苦しいの苦手だから、あまり参加しなかったんだよね……」
「ああ、あの子、仕事が絡むと、どうしてもそうなりがちだから……。そんなことだろうと思って、魔法使い用の装備をいくつかとっておいたんだけれど」
「うわーん! マコちん、さすがは〈みんなのお母さん〉だよー! 愛してるぅ!」
ピエロは顔をクシャクシャにして笑うと、マッコイに飛びついた。マッコイはギュウギュウと抱きしめられながら、「それから、リドル品もあるわよ。一応、人数分」と笑って言った。すると、彼は仲間たち――というよりも、主にピエロ――から「やっぱりガチ廃だ。怖い」とでも言いたげな唖然とした表情で再び見つめられた。マッコイはムスッと口を尖らせると、完全に拗ねてへそを曲げた。
「もう、いい! 分配なんて、しないんだから!」
**********
ピエロとマッコイが仲直りすると、一行はアイテムの分配を行い、そして祭壇のある場所へと移動を開始した。途中、自動開閉式の扉のある場所にて一人で狩りをしている鉄砲玉と遭遇した。彼は本日は休日だそうなのだが、探索を優位に進めるためにアイテム掘りに来たのだそうだ。そのようなことを通りかかった死神ちゃんに対して彼は得意げに話していたのだが、ミノタウロスが姿を現した途端に短剣を持って慌てふためいた。
「おい、マサ。さすがに盗賊一人で倒すのは骨が折れるだろう。手伝おうか?」
「いや、大丈夫だから。お構いなく、お構いなく」
「またまた、そんな。強がっちゃってー。別に、同じ班のよしみで、助けてあげちゃうよん?」
「いや、本当に大丈夫だから」
「遠慮すんなって。別に俺ら、そのくらいの余裕はあるし。なあ?」
死神ちゃんとピエロがにこやかな笑みを浮かべて鉄砲玉の腰辺りをポンポンと叩くと、他のメンバーも笑顔でうなずいた。鉄砲玉は心なしか苛立たしげに舌打ちをすると「大丈夫だから、見てろ」と言って戦闘態勢に入った。
彼はミノタウロスの気を引くと、そのまま扉の外へと出ていった。すると、彼を追いかけていったミノタウロスが扉に引っかかった。自動開閉するはずの扉はミノタウロスを挟んだまま動かなくなり、ミノタウロスもまたその場で足踏みする以外の動きを止めた。そこに、鉄砲玉はいろいろな罠を仕掛けた。もぞもぞと足踏みを続けるミノタウロスはまんまと罠を踏み、しばらくすると地響きのような音を立ててその場に倒れた。
アイテムへと姿を変えていくミノタウロスをまたぎながら死神ちゃんたちの元へと戻ってきた鉄砲玉は、不服そうな顔でボソリと言った。
「お前らに、これを見られたくなかったからとっとと立ち去って欲しかったんだよ。……どうだ、すげえだろ。さすがは俺様じゃねえ? こんな、一人でも楽勝に狩れる方法を編み出すなんてよ」
「ていうか、これ、
「へっ?」
「GMさんGMさーん、
「おい馬鹿、ピエロ、やめろ! やめ―― ああああああ! いやだああああ! わざとじゃあないんです! ロールバックだけは! ロールバックだけは勘弁してくれえええええ!」
ピエロが通報の無線を入れると、〈あろけーしょんせんたー〉の担当者が数人やって来た。そして一人が鉄砲玉を問答無用で連れ去り、残りが不具合修正のための現場検証を始めた。死神ちゃんとピエロは呆れ顔で鼻を鳴らすと、仲間を伴って祭壇を目指した。
祭壇に到着すると、さっそく第一関門の試練を受けるための準備に入った。リドル品はパーティーで一セット必要なのか、それとも一人一セットずつ必要なのかが分からないため、とりあえず一人分だけ作業を行った。
「ピエロ十三体を集めるのも大変だったけどさ、杭を十三本集めるのも地味に大変だったよね。そこらじゅうに点在しているガラクタ置き場を漁らなくちゃいけないとかさ」
「漁ったらガスが噴出して毒を食らったり、手先をちょっと怪我したりとかな。地味にイライラしたよな」
死神ちゃんとクリスが苦笑いを浮かべてそのような話をする横で、サーシャがぬいぐるみをしげしげと眺めていた。胸の辺りにスリットがあることに気がつくと、彼女は「ここにハツを入れたら良いのかな?」と言いながらハツのパックを開封した。
ぬいぐるみにハツを挿入した途端、ぬいぐるみがフルフルと震えだした。直後、ぬいぐるみはギョロギョロと目を動かし、刺繍のはずの口がガパアと開いて牙を剥いた。サーシャは声もなく驚愕して顔を青ざめさせると、咄嗟に杭を手にとり、そしてそれを思いっきりぬいぐるみへと打ち付けた。すると、ぬいぐるみは血を流しながら断末魔を上げた。サーシャは無残な姿となったピエロ人形に視線を落とすと、頬を引きつらせてポツリと言った。
「これ、あと十二回繰り返さないといけないの……? かなり、トラウマなんだけど……」
「すごく悪趣味だな……。心を折りにくる気、満々だな……」
サーシャは乾いた声で短く笑うと、表情もなく淡々と〈生贄製造作業〉を行い、祭壇に人形を並べていった。十三体分並び終えると祭壇が発光し、血染めのピエロは跡形もなく消えた。すると、サーシャが「あっ」と声を上げた。
「〈汝は試練を受ける資格を得た〉ってメッセージが見えます!」
「アタシたちは何も見えないわ。ということは、一人一セットずつ必要なのね」
「マジか。あの作業、俺らもしなくちゃあならないのかよ」
「えー、そんなあ。自分を串刺しにするとか、そんなえげつないことしたくないよー」
死神ちゃんたちは肩を落とすと、ピエロを串刺しにする作業に取り掛かった。全員が試練を受ける資格を得ると、一行は水晶の嵌め込まれた彫像のあるところまで移動した。
「おお、水晶が赤く光っておるね」
「これを触ったら試練を受けられるのかなあ?」
何気なく水晶に触れたクリスは、忽然と姿を消した。一同が驚いて目を丸くしていると、次の瞬間にステータス妖精さんを伴ったクリスが姿を現した。
* 錬金術師は 死亡 したよ! *
「一体何が起こったんだよ……?」
「待って、あとでにして! 死神がすぐ側にいる!」
走り去るクリスの背中を、死神ちゃんたちは呆然と見つめた。サーシャが妖精さんに対して蘇生魔法をかけると、妖精さんが手を振りながら姿を消し、入れ替わりにクリスが出現した。クリスは驚愕で目を見開くと、カタカタと震えながらボソボソと言った。
「水晶に触るの、いっせーので触んないと駄目だ。触るとね、なんか、広い部屋に飛ばされてね。それで、ピエロに襲われた」
「またぬいぐるみと戦わなくちゃならないのかよ」
「ううん、違う。美少女のほう」
死神ちゃんたちが呆気にとられてピエロを見つめると、ピエロは照れくさそうに頭を掻いた。
「えへへ、実はあちしも今年、拷問診断受けたんだよねー。まさか、こんな形で実装されるとは思ってもみなかったよー」
「ぬいぐるみよりもヤバかった。何あれ……」
ピエロ以外の面々は、眉根を寄せてゴクリと唾を飲み込んだ。クリスは震える手でポーチから粘土を取り出すと、戦力を増やすと言って〈死神ちゃん〉を作った。得意げに胸を張って「ヨウジョー!」と鳴く粘土に癒やされながら、一同はタイミングを合わせて一斉に水晶に触れた。
クリスが言っていた通り、ピエロ(美少女)が試練の間にて転送された一同を待ち受けていた。ピエロは美しい見た目とは裏腹な禍々しい笑みを浮かべると、お得意の〈大火力ブッパ〉を連発してきた。何とかそれに耐えながら一同が応戦していると、敵のピエロが不自然にビクビクと痙攣しながら宙に浮かび上がった。
仰け反った状態で痙攣が止むと、正中線に沿って真っ直ぐに亀裂が入った。そして紫がかった暗い光が亀裂から漏れ、そこから何かが脱皮するように姿を現した。えぐい演出に一同がげんなりとしている中、ピエロだけは嬉々とした表情を浮かべた。
「うっそ、マッジでー!? あちしの〈本来の姿〉じゃん、あれー! うわあ、久々に見たよ! 我ながら、超絶美人ー!」
ピエロ(本来の姿)は蠱惑的な笑みを浮かべると、何もない空間から魔法の杖を呼び出して手にとり、そして何やら呪文を詠唱し始めた。
「あっ、やっば。マズいの来るよ。みんな、死ぬ準備はいい?」
「死亡確定かよ!?」
「えっ、これ、防ぎよう、ないの――」
サーシャの声はピエロ(本来の姿)が放った魔法が起こした爆撃音でかき消された。全員がその眩しさに目を閉じ、再び目を開くと目の前には彫像があった。そしてさらに、六人の妖精さんが宙を浮いていた。そのうちの一人と目が合った死神ちゃんは、小馬鹿にするように鼻で笑われたことに憤慨した。
「何でいつも、若干上から目線なんだよ!」
「あ、死神に見つかったわ! 早いとこ、GMのところまで移動しましょう!」
「しかも、
「
「絶対嘘だ! ふざけるな!」
死神ちゃんは死神ちゃんに追われながら、必死に七階入り口まで戻った。GMに蘇生をしてもらい再び彫像のところまでやってくると、寂しそうに膝を抱えて座っていた幼女が嬉しそうに立ち上がり、「ヨウジョヨウジョ」と鳴きながら死神ちゃんにすがってきた。
「おお、お前、待っていてくれたのか。お利口さんだな」
「ヨウジョー!」
「ほら、薫。こっちにおいで。一人で待たせて、ごめんね」
創作者であるクリスがしゃがみ込んで幼女に声をかけると、幼女は権左衛門に走り寄り、抱っこしてもらいながらヘッと鼻を鳴らした。クリスはショックを露わにすると「何で!?」と声をひっくり返した。
幼女を抱きかかえた権左衛門は苦笑いを浮かべながら、彫像に視線を移した。そして首を傾げると、尻尾と耳をしょんぼりと垂れた。
「赤い光が消えちょるね。もけんどて、リドル品、集め直しかぇ?」
マッコイはギョッとすると、GMに連絡を入れた。すると、やはり試練に失敗すると一から集め直しということだった。マッコイは呆れ顔を浮かべると、GMに苦情を入れた。
「冒険者相手ではそれでもいいですけれどもね。今はデバッグの最中なんですし、どうにかできません? いちいち集め直していたら、デバッグの工程が進められないですよね? それって、非効率的だと思うんですけれど。――え? 〈関門突破にどのくらいの時間がかかるのか知りたい〉? そんなの、リドル品を集め終えるまでに要する時間と、関門突破までにかかる〈試練の間〉の試行回数から割り出せるじゃないですか! だから、デバッグ専用モードということで〈一度集めたらそれで終わり〉にできませんか?」
GM担当と押し問答を続けたマッコイは苛立たしげに通信を切断すると、デバッグ用の緑の腕輪ではなく黒い腕輪のほうを操作した。埒が明かないと思った彼は、ここぞとばかりに監督者権限を利用して〈上〉に話を通すことにしたらしい。結果、マッコイの主張が通って〈集め直し〉は免れた。
気を取り直して何度か試練に臨み、死神ちゃんたちはことごとく失敗した。そして気分転換を兼ねてお昼休憩をすることになり、焼肉パーティーで憂さ晴らしをした。
「ほら、薫。あなたは粘土なんだから、お肉は食べられないよ。食べるなら、こっちにしようね」
「ヨウジョー!」
マッコイとサーシャがお肉を焼く傍らで、幼女が物欲しげに肉を見つめていた。クリスが魔法土の塊と魔法水を差し出すと、幼女は嬉しそうに土塊に手を伸ばした。
まるでおにぎりでも食べるかのように、幼女は口の周りを土で汚しながらもくもくと食べた。そしてコップをひと煽りして魔法水を飲み干した幼女は、何故かドヤ顔で全身の筋肉をムキムキにした。
「何でコイツ、パンプアップしたみたいにムキッとしてるんだよ……」
「さあ、栄養とったからじゃあないの……?」
食事を取り終えると、死神ちゃんたちは〈試練〉を再開させた。何度も挑んだおかげで、ピエロの形態が変わるのはどうやら時間経過によるらしいというのと、形態が変わると強さが格段に上がるということが分かった。また攻撃にはパターンがあり、試練の間の中には安全地帯も存在するらしいということも分かってきた。
何とかコツを掴んできたことで全員のテンションも上がってきたのだが、一同は再び心をボッキボキに折られた。試練の間にいられるのは三十分までと決まっているようで、それを過ぎてしまうと生き残ることができていたとしても〈失敗〉と見なされると分かったからだ。
「今日はもう、帰りましょうか……」
「だな……」
「装備も、もっといいものに更新して、冒険者レベルも上げないと駄目っぽいね……」
「ごめんねえ、あちしが強いばっかりに~」
「本当だよ! あんた、強すぎだよ! 本人がいるから他のパーティーよりも有利だと思ったのに、全然そんなこと無いし! 何なの、一体!」
弱音や愚痴を吐きながら、一同は肩を落として入り口に向かった。その途中、彼らは鉄砲玉と再び遭遇した。鉄砲玉は背丈ほどもある瓦礫の上にデコイを設置していた。どうやら、そうすることによってデコイが長持ちするらしい。
「それだけじゃあなくてな、あそこにああやって設置するとミノタウロスが足踏みしたまま動かなくなるんだぜ。すげえだろ!」
「GMさーん。マサちゃんがまた不正利用しているんですけどー」
「あっ、小花、てめえ! ――ああああああ! 待って、ロールバックだけは! ロールバックだけはやめてええええええ!」
ひっ捕らえられ連行されていく鉄砲玉を眺めてヘッと鼻を鳴らすと、死神ちゃんは仲間とともに悠々と帰っていったのだった。
――――物事を進めていくということにおいて、効率化はある程度必要。でも、ズルはいけないのDEATH。