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第四十八話 喉が渇いた

 生徒会室に招かれた焔は……会長たちと談笑していた。

 焔は会長、副会長とテーブルを介し対峙していた。ソファーに座り、茶菓子片手に体育祭の話をしていた。

「いやーあの時の焔にはビックリしたよ!! まさかあんな化け物がうちの高校にいるなんてな。ハーハッハッハッハ!!」

「いやいや、俺も会長がこんなに熱くて面白い人なんて知りませんでしたよ」

「この私がこんな人材を無視していたとは……どうだ? 副会長にでもなるか?」

「会長!? 僕の立場はどうなるんですか!?」

「……冗談だよ」

「もうビックリさせないでくださいよ……」

「すまんすまん。ところで焔君、その茶菓子はうまいか?」

「こりゃうまいですね」

「それは良かった。これまたしぶーいお茶とよく合うんだよ」

「お、それはそれは」

 そう言って、3人は同時にお茶をすする。

「ズズズ……ホッ」

 ほのぼのとした雰囲気に浸っているとき、やっと焔が我に返った。

「って、ちがーう!! 会長、何で俺のこと呼んだんですか!?」

 2人はその言葉を聞き、ゆっくりと顔を見合わせた。

「そうだった!!」
「そうでした!!」

 やっと話が進みそうだと再び焔はホッとした。会長は真剣な表情に戻り、焔に話し始める。

「焔、君には体育祭大いに盛り上げてもらった。感謝してるよ」

「いや、俺も堪能させてもらいましたし、会長と副会長のコンビも中々味があって楽しかったですよ」

「それはどうも」

「きょ、恐縮です!!」

「でだ、そんな君には是非もう一つのイベント事、つまりは文化祭でも活躍してほしいんだが……」

「いいですよ」

 焔はすんなりと答える。それに会長は少し焦ってしまった。

「い、いや待て!? まだどんなことをするかも言ってないんだぞ……本当に良いのか?」

 正直言って、めんどくさい。この会長のことだ。俺に無茶ぶりを強いるんだろう。

 でも……もうあの時の感覚を覚えてしまったからな……

「美味しい茶菓子の礼です。俺のできる範囲でしたら協力しますよ」

「ヤッター!! サンキュー焔!! これで文化祭盛り上がるぞー!!」

 会長と副会長は2人でずーっと万歳万歳言って、はしゃいでいた。

「ハハ……めんどくせえー」

 そう言って、焔は2人の喜んでる姿を見てニヤニヤしていた。


 ―――ようやく落ち着いた会長と副会長。文化祭で焔にやってほしい内容を話し出す。

「焔君。うちの文化祭どう思う?」

 唐突に質問する会長。だが、焔も間髪入れずに返す。

「正直言って、あんまし楽しくはないですね」

「そうなんだよなー。全体的にしょぼいし、皆やる気ないんだよなー。それもこれもやたらと規制が厳しいからなんだと私は思うんだが、焔君はどう思う?」

「そうですね。確かに、出店できる店とか制限されてるし、やったらだめなことがやたらと多いし、服装も厳しく管理されるし、軽音部のライブでも立たずに、椅子に座って聞かなきゃダメとかで盛り上がらないし……」

「マジでそれな!! だけどそれも前回までだ!!」

 前回まで……ということは……

「え? まさか会長?」

 少し驚いたような焔に会長は自信満々に言い放つ。

「頭でっかちの先生どもを論破してやったわ!! ハーハッハッハッハ!!」

 すげー……やっぱしこの会長すげーわ。

「元々私の考えに賛成してくれていた先生もいたんだけどな。その先生たちが味方してくれたのもあって今年から諸々の規制を全部取っ払ってもらった。服装の規制なし、着ぐるみや仮装あり。出店店舗の規制もなし。メイドカフェも、コスプレもライブで騒ぎ立てるのもオールオッケー!!」

 そう言って、会長はピースサインを焔に向けた。

「ハハ。あんたやっぱすげーわ」

「もっと褒めろ。崇め奉れ。ハーハッハッハッハ!!」

 すぐ調子に乗りやがって。しかし、これで文化祭は絶対に盛り上がるな……ん?

「ちょ、ちょっと待ってください」

 焔は会長の高笑いを遮る。

「お……れの必要性って何ですか?」

「何って……文化祭の盛り上げ役だけど?」

「いや、会長が文化祭の規制をなくしてくれただけで大分盛り上がると思うんですけど」

「確かにそうかもしれんが、君が協力してくれればもっと盛り上がると思うんだよ。いや、確実に盛り上がる」

「はあ、そうですか。で、俺何やれば良いんですか?」

「鬼ごっことドッジボール!!」

 えー……ガキくせ。

 明らかに焔の表情がくもる。そのあからさまな表情を見て会長は少しムッとする。

「お前今ガキくせーと思っただろ」

「……バレましたか」

「分かってないなー。ガキの遊びほど面白いものはないだろ?」

 ガキの遊び……か。

「そりゃそうか」


 ―――会長からの話が終わり、焔は生徒会室を後にした。

 ふー……寒いな。しかももう暗くなり始めてる。

 携帯を確認する焔。そこにはシンさんからのメッセージが入っていた。

 『今日の特訓は休みで良いよ。文化祭しっかり頑張んなよ。』

 やっぱりバレてたか。明日は倍頑張ろ。

 焔が校舎から出るころにはもう暗かった。

 はあ……生徒会室に長くいすぎた。

 俺が文化祭でやることは鬼ごっことドッジボール。鬼ごっこはグラウンドのレーンの中でやるみたいだ。俺と会長と副会長が鬼で参加人数は200人。制限時間は1時間。

 ドッジボールも俺と会長と副会長が味方で、対戦相手は50人。これを計2回。

 景品も出るから来ると思うが……本当に盛り上がるんだろうか。ま、今不安になっても仕方ない。あの会長に任せりゃいいや。

 帰路に着く焔だったが、生徒会室で熱いお茶を飲んだせいか、喉が渇いてきた。

 やべーな。喉渇いた。あ、そういやここの奥に小っちゃい公園あったな。その脇に龍二から教えてもらった安い自販機があったはずだ。久しぶりに炭酸飲もうかな。

 焔は方向転換し、公園に向かう。住宅地から離れたところに公園はあった。焔は自販機の明かりを見つけるとそこに自転車を走らせた。

 そんな時……

「もう止めてよー!! 弟を返してー!!」

「おっと行かせねえよ」
「あいつが倒れたら可愛がってやるからな。ハハハハ」

「おねえ……ちゃん……ガハッ!!」

「おいおい倒れんなよ。倒れたら次はお姉ちゃんの番なんだからな」

 おいおい、穏やかじゃねえな……

 焔は自転車を置き、そっと公園の様子を伺う。

 そこには2人の男が1人の女の子の行く手を阻んでいた。そして、複数人の男が1人の男をいたぶっていると言う光景が焔の目に映った。暗がりで顔を認識することはできなかったが、制服からして中学生のようだった。女の子は焔と同じ高校の生徒だった。

 このまま止めに入るか、それとも最初に警察に電話しておいたほうが良いか……まずは警察だな。

 ポケットから携帯を出そうとした時だった。暗がりから目が慣れ、もう一度公園の方に目を向ける。

 絹子……

 さっきから叫んでいた女子生徒は絹子だった。焔は出しかけた携帯を再びポケットにしまった。

「ロック解除」

 焔がそう言うと、自動負荷装置の効力が消えた。焔は骨をボキボキ鳴らし、息を大きく吸い込んだ。

 
 さて、あいつらどうやって殺してやろうか……


 暗くてよく焔の顔は見れなかった。だが、鬼の形相……おそらくこの言葉が一番適切だろう。




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