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51.紋章

 翌日、怜央はギルドメンバー(ギルメン)に招集を掛けて、何でもいいからとアイデアを募った。

「――って事なんだけど、いい案ない?」

 怜央が問いかけると、テミスが食い気味に手を挙げた。

「あるあるある! あるわよ!」
「はい、テミス」

 怜央に指名されたテミスは、前日に渡された紋章申し込み用紙のコピーを取り出し、机の上に置いた。
皆が覗き込んだ用紙には、上側に1本の(ライン)と、真ん中に天秤が描かれていた。

「……これは?」
「一晩考えに考え抜いたテミス教のシンボルよ!」

 テミスはニヤニヤして、それが極めて良案であると誇らしげである。
だが皆の反応はどんよりとしたもの。
またかこいつ、いつまでその設定引っ張るんだよと言いたげであった。

「絵は評価するけどそれはちょっとなー。俺ら信者じゃないし」
「そこは心配しなくていいわ。今ならもれなく役職もつけましょう! 怜央は法王、ベルちゃんは枢機卿、コバートは助祭ね」
「おいちょっとまて、俺だけやたら低いのなんで?」
「流石にこれだけ大盤振る舞いすれば文句ないでしょ?」
「ねぇ聞いてる? ねぇってば」

 コバートを無視するテミスはアリータと怜央に同意を求める視線を送った。

「そもそもそんな目的で作ったギルドじゃないし却下」
「枢機卿という響きはちょっといいけど、やっぱりダメね。怜央との――先約もあるし」

 拒絶されたテミスは真顔で下唇を噛み、無言で自分のベットに行った。
何をするかと思えば、怜央を見ながら無言で武器研ぎを始める。
ギャリンギャリンと金属音を立てる圧力に、呆れはするも屈する怜央ではない。

「はい、じゃあ次コバート」
「お、おう……。俺はあれだ。こんな感じ」

コバートの紙には四葉のクローバーを加えたフクロウがデザインされていた。

「これにはどんな意味が?」
「うちの里ではフクロウは守り神だったんだ。それと四葉のシロツメクサは縁起がいい。紋章にするのも悪くないだろ?」
「……意外にまともだ」
「まともね」
「まともさ」

 誰とは言わないが、3人の中では比較対象が存在し、部屋の一角で不機嫌そうにしている女性を一瞥した。

「まあでも、ギルド名となんの関連もないのはちょっとな。とりあえず保留としてアリータのも見てみよう」
「ん、私のはこれよ」

 アリータの紙にはカットされたダイアモンドが4つ、菱形状に配置されるよう中心にどかんと描かれていた。

 今のところ1番マシに思える作品だが画力に問題があった。
まるで幼稚園生が描いたようなお世辞にも上手いとは言えない代物。

「「……」」
「ちょっと、何とか言いなさいよ。私の作品が今のところ1番良いでしょうが!」
「テーマはそうだね、文句の付けようもなく1番良い。だけど絵が……ちょっとなー」
「へぇー? じゃあ貴方はこれより上手いっていうの? 」
「勿論だとも」
「ふん、面白いわ。なら見せて頂戴」

 自分の絵を貶されたアリータはいつもより落ち着いていた。
普段なら軽くキレても可笑しくないところだが、今回は事情が違う。
なぜなら昨夜、怜央がデザインしているのを後ろから覗いていたのである。
そこで見た怜央の絵もなかなかの下手くそさで、自分と大差ないと確信していたのだ。

「ん、別にいいけど? 俺の絵の出来に期待してるなら無駄なことだ。ほら」

 そう言って取り出した紙には6個の小さなダイアモンドが描かれていた。
問題の画力は――とてつもなく上手かった。

「……は? ――はぁー!?」

 アリータは思わずその紙を持ち上げマジマジと見つめてしまった。

「ちょ、なによこれ。昨日見たのと全然違うじゃないのよ!」
「(やはり昨日の気配はアリータか……)ふ、昨日のは言うなればラフ。俺が本気を出せばこの程度、なんてことはないのだよ」
「キィー! 悔しい゛ぃぃ〜……」

 アリータはベットに突っ込んで枕に顔を埋めた。
アリータとて、自分に画力が無いことなど百も承知。
ただ怜央という下手くそ仲間がいることで安心してあの紙を出したのに、まさかの勘違いで自分の画力をさらけ出したことを大いに後悔していた。

 だが、これには裏があった。
それは怜央がシエロに送る、アイコンタクトからも明らか。
実の所怜央の下手くそさは本物で、仕上げをシエロにお願いしていたのだ。
アリータの様を見て2人はこっそりと微笑んでいた。

「じゃあ最後にミカエルだな」
「いえ、マスター。私はマスターのデザインに賛成です。ですがその紙、昨日のとはデザインがことな――」

 秘密を喋られそうになったシエロはミカエルの口をそっと抑えて首を振った。
ミカエルとしては、下手くそであっても怜央本人がデザインした紋章案が良かったのだが、怜央の『言っちゃダメ』というジェスチャーから(おもんぱか)って口を閉じたのだった。

「しかしまあ、色々案を出してもらったけどなんだかなー。どうにもこれといって決め手に欠ける……」

 腕を組み悩んでますアピールをする怜央に、ミカエルは挙手をして意見を述べた。

「マスター。お困りでしたら程よく皆様の意見を反映してみたら如何でしょうか」
「ん、このクセの強い案をまとめられそう?」
「はい、善処します」

声音・表情は相変わらず平坦で変化に乏しいミカエルだったが、その積極性に熱意を感じた怜央はまっさらな紙を渡した。

 ミカエルはペンを両手に持つと、凄い勢いで描画した。
激しく左右に揺らす両手に寸分の(たが)いは無く、精密なプリンターのように線だけで『絵』が出来た。

「如何でしょうか」

怜央とコバートが顔を覗かせると、中心にコバートのフクロウが居て、そのフクロウはアリータの描いたダイアモンドを足に挟んでいる。
さらにその周りに怜央が描いた小さなダイアモンドが囲み、見事に調和した一体感のあるデザインが完成した。

「「おお!」」

あまりの出来栄えに2人は声を漏らした。

「すごいよこれ! めっちゃいい!」
「描き方キモかったけどいいじゃん! フクロウもバッチしだ!」

 怜央はその紙を持って未だ倒れ込むアリータの横へ行った。
頭を2回ほどワシワシと摘んで起こさせて、怜央の持ったデザインを確認させた。
しばらくして再び枕に顔を埋めたものの、小さな頷きを確認できた怜央は了承を得たものとした。

「よし、それじゃ我らがギルド『ホワイトダイアモンド』の紋章はこれに決定!」
「っしゃ!」

怜央を初め、コバート・シエロ・ミカエルが拍手をする中テミスは砥石をほっぽり投げて、ミカエルの肩を掴む。

「ちょっと――」

そう言って首を振り、こっちに来いと合図したテミスは怜央からデザインの紙を取り上げると廊下へと出て行った。
それから暫くして戻ってきた2人に先程の紙を渡されると、そこにはテミス原案の天秤がフクロウの止まり木のようにして追加されていたのである。

「うお、なんか追加されてるやん! テミス教に侵食されてんぜこれ!」
「一体とびらの向こうで何があったのか……」
「申し訳ありませんマスター。テミス様との取引に乗っかってしまいました」
「アンドロイドを誘惑する程の取引……一体何をもちかけたんだ?」
「私とミカちゃんだけの秘密よ」
「はい」

怜央は渋い顔して頭を搔いた。

「……まあいいか。1人だけ除け者みたいでそれもそれだったしな」
「それにさっきより収まりもいいわ♪」
「いやそれはない。ちょっと窮屈になったぞ」

 自分の意見が反映されて、テミスは上機嫌だ。
その様子を見た怜央は丸く収まったこともあり、鼻で笑って良しとした。

何はともあれ、『ホワイトダイアモンド』の紋章は無事に決まった。

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