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次の手1

 大和に戻った弾正は城に籠って恭順を示して、すべての兵も引き揚げさせた。再び織田の軍が京を占領した。だが大和に向かった織田の軍は筒井と同じように大和の国境に留まっている。鼠は年寄りの元に戻り、狗は駆り出された人夫に混じり城に入った。それで夜に城の下にある倉庫で先に戻っていた狐と会う。
「弾正はどうしている?」
「天守閣で毎晩揚羽を抱いているわ。心配している様子がない」
「胡蝶は?」
「連れてきた 子供の面倒を見ているわ。毒を飲む子や暗殺を教えられている子もいる。式神の中では胡蝶が一番妖力が強いらしい。それと長女の黒揚羽が戻ってきている」
「毒使いの?」
「弾正との話では今晩に信長の元に潜るようだわ」
「まさか、信長を毒殺する?」
「その準備に入るのだと思うわ」
 確かに三好一族の暗殺にも10年も時間をかけているのだ。
「黒揚羽も揚羽と同じように変装を得意としている。昔は揚羽のように弾正に抱かれていた」
「狐は疑われていないのか?」
「前回狗を助けた時は危なかったわ。だが家老を上手く抱き込んでいるから安心よ。この家老は弾正が三好の番頭の頃の同僚でかなり弾正の秘密を共有している」
「抱かれたのか?」
「妬いている?」
 その夜黒揚羽が弾正の忍者に囲まれて密かに城を抜け出した。この動きを見ると明らかに信長に囲まれて敗北する弾正とは考えられない。次に手を打ったのだ。

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