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ハーフ円卓会議 5

 結局宴会(最早ハーフ円卓会議とは呼ぶまい)は明け方まで続き、その頃には黄の王と橙の王はべろんべろんになって死体の如くといった様子であった。なお、美容にこだわる薄紅の女王は、夜が更けて来たあたりで自分に割り振られている部屋にさっさと退散していた。曰く、夜更かしは大敵だそうだ。
 ギルヴィスはギルヴィスで、急ぎ旅の疲れもあってか、途中からうたた寝をしてしまっていたらしい。鳥が囀る音にゆるゆると覚醒すれば、床で丸まって寝ていた身体には大きな外套が掛けられていた。それが赤の王の物だと気づいた彼が慌てて飛び起きて部屋を見回すと、無様に転がっている死体二つと、黙々と片づけをしている赤の王の姿が目に入った。
「す、すみません!」
 外套を抱えて赤の王の元へ駆け寄ると、赤の王はにこりと微笑んで返した。
「おや、お疲れだろう。もう少し寝ていても良いのだぞ?」
「ロステアール王一人に片づけを任せるなど、そういう訳にはいきません」
「私がたまたま起きていたからやっているだけだ。貴殿が気にすることではない」
「それでも駄目です」
 引く気がないギルヴィスに、赤の王がまた笑みを浮かべる。
「それでは、残りの酒瓶を全て回収して、この袋に入れて頂こうか。その間に、私はあの二人を部屋まで運ぼう」
「あの二人って、……お一人で大丈夫ですか?」
「クラリオ王は全く問題ない。ライオテッド王も、さすがに重いだろうが、まあ大丈夫だ」
 そう言いきった赤の王に、ギルヴィスはまた感嘆してしまう。
 この王は、王として他の追随を許さない程に優れている上に、武人としても大層優れているのだ。本当に、こんな王は、もう二度と誕生しないのではないだろうか。
 赤の王が言葉通り黄の王と橙の王を部屋に運んでいる間、ギルヴィスは酒瓶やら酒樽やらの片付けに勤しんだ。黄の王が赤の王に横抱きにされている様に少し笑ってしまったのは、内緒だ。なお橙の王はさしもの赤の王も大変だったのか、俵担ぎで部屋に運ばれて行った。そして、これにもギルヴィスは笑いを禁じ得ないのであった。
「片付けを手伝わせてしまってすまないな、ギルヴィス王」
 国王二人を運び終えて再び部屋の片付けに戻った赤の王が、そう言いながら端に寄せられた机や椅子を元の位置に戻していく。そこまでする必要はないのではないかと思ったギルヴィスだったが、出来るだけ宿の人間に負担を掛けないように、という配慮なのだろう。さすがは赤の王である。
「いえ、お気になさらず。……そんなことより、ハーフ円卓会議とは、いつもこうなのでしょうか」
「まあ、どの国で開催しても、大体毎度こんな感じになるな」
「……会議、というか、宴会ですね……」
 疲れたように言ったギルヴィスに、赤の王が笑う。
「とは言え、皆、今回は特にハメを外しておられたな。貴殿がいたからだろう」
「私、ですか?」
「ああ。今回の宴は、いつもの会議に加え、貴殿の歓迎会という面もあったからな。からかうようなことを言ってばかりだが、皆、貴殿の即位を喜び、心から祝福しているのだ。少々おふざけが過ぎるところもあるが、それも貴殿の緊張を和らげようと思ってのこと。その点、ご理解頂けると有難い」
 優しい声に、ギルヴィスの胸がぎゅうと締め付けられる。
 赤の王の言葉は、全てを物語っていた。一日も早く国王として認められるような人間にならねば、と奮闘してきたギルヴィスだったが、なんのことはない。
「……皆様、もう、僕のことを認めてくれていたんですね」
「当然だろう。貴殿は確かに、まだ幼く頼りない面もある。しかし、心持ちや素質は十分に王のそれであると、皆判っているのだ。ならば、経験の低さを理由にそれを認めないなど、あろうはずもない。……これを言っては怒られそうだが、発言に棘のあるエルキディタータリエンデ王とて、貴殿を本当に認めていない訳ではないのだ。あの御仁が本当に王として不足と考えたならば、それこそ容赦なく玉座から引き摺り下ろしにかかるだろうからな」
「……そう、でしょうか。……僕、王として、きちんと立てているでしょうか……?」
 ほんの僅か、縋るような目で見上げてきた幼き王の頭を撫でてやり、赤の王が微笑む。
「勿論だとも。私が保証しよう」
 その言葉に、ギルヴィスの顔が明るくなる。そして、彼は美少女さながらの笑みを浮かべた。
「それでは、皆様方と肩を並べられる王になれるよう、更に精進致します」
「ははは、これは、私もうかうかしていたら追い越されてしまうかもしれないな。……まあ、しかし、」
 ぽんぽん、と、大きな掌が金の王の頭を滑る。
「取り敢えずは、気が緩んだときに“僕”と言ってしまう癖を改めようか?」
 茶目っ気をたっぷり含んだ言葉に、自分の発言を遡った金の王は、かあっと顔を紅潮させるのであった。

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