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第四十一話 2学期始動

 暗脚法

 月影家に伝わる特殊な足運び。音もなく迅速に動くことを目的として作られた一子相伝の技術。

 そして、暗脚法が応用して作られたのが『疾兎暗脚』と『死背暗脚』。

 疾兎暗脚とは音もなく一瞬で相手の間合いに入り込む技術。ノーモーションからいきなり目の前まで距離を詰め隙だらけの相手を一撃で鎮める、または先手を取ることが目的。もう焔は完璧に対応することができる。

 死背暗脚とは相手の目の前から忽然と消え、背後に回り込む技術。これは相手の目を欺き、一瞬の目の動きもちゃんと把握しないと背後に回り込むことがばれてしまう。焔はギリギリ反応することができたが、シンのあまりにも速すぎる動きに次の攻撃でやられてしまった。

 疾兎暗脚を使えるのに5年、死背暗脚に10年以上はかかるとされているところ、シンはたった2年で両方とも会得してしまった。要するに天才だった。だが、初めての実戦のときシンはある人物にこの2つの技を完璧に見切られてしまい、手も足も出すことができなかった。

 これがシンが組織に入るきっかけになった出来事だった。


 ―――ピピピピ

 朝4時半。焔はいつものようにベッドから起き上がり、素早く準備を整え天満山へ向かった。

 いつもの日課となった山登り。淡々と登っていき頂上までたどり着いた。もうすでに日は出てきていた。そこにはシンが朝日を浴び、焔のことを待っていた。

「やあ、焔君。毎度毎度お疲れ様。夏休みが終わった感想は?」

 シンは焔に背を向けながら尋ねた。焔は息を整えながら答えた。

「正直……名残惜しいですね。まだまだやり残したことがあったので」

 その焔の表情は残念、悔しいというような感情が見て取れた。

「ま、やり残したことは次の機会にお預けだね」

 そう言うと、シンはくるっと焔の方に向きなおると今後のことについて話し始めた。

「さ、夏休みも終わり学校が始まってしまう。てことで今までみたいに一日フルに時間を使うことができなくなる。だからちょっと新しいメニューを考えてきました」

「新しいメニューですか」

 焔は少しソワソワしていた。どんなことをやるのかという好奇心とどんなきついことなんだろうという感情が混ざり合っていた。

「ま、新しいって言っても新たに付け加えた特訓は1つだけなんだけどね」

「あ、そうなんですね」

 ホッとしたのも束の間だった。その特訓の内容を聞いた焔は開いた口が閉じられなかった。

「特訓の内容は銃弾を避けるってやつなんだけど」

「は?」

「ああ、銃弾はゴムみたいなもんだから痛いけど怪我することないし、弾はちゃんと土に還るようになってるから安心して」

 いやいや、そんなことを心配してるんじゃないんですよ。

「そもそも銃弾を避けることなんてできるんですか?」

「できるよ」

 シンはあっさりと答えた。

「もちろん撃たれた銃弾に対応することはさすがに難しいけど、撃つ直前の弾道とタイミングさえわかれば避けることは可能だよ(ま、普通は無理だけど)」

「なるほど!!」

(あ、納得してくれたみたいだ)

 シンは顔を隠しながらクスクスと笑っていた。そして、改めて焔の方に向き返った。

「で、避けるためのポイントとしてはまず銃口そして引き金を引く指をよく見ること。銃口から弾の弾道を予測し、指を見ることで弾が発射されるタイミングを見極めること。これさえ完璧に見抜くことができれば銃弾も避けることができる」

「へー」

「ま、実際にやってみてコツをつかむといいよ。あとこれメニュー表」

 そう言われ、焔はシンから紙を渡された。

 月曜日:全力山登り&全力山下り
 火曜日:素振り&弾避け
 水曜日:実践
 木曜日:全力山登り&全力山下り
 金曜日:素振り&弾避け
 土曜日:全部
 日曜日:全部

「月から金曜日は学校が終わったらこのメニュー通りに、土日は全てのメニューをやってもらう。いいね?」

「了解です」

 正直、夏休みと比べるとめちゃめちゃ楽だし。だけど、その分一つのメニューに集中することができるな。

「そんじゃまたね」

 そう言って、消えていくシンさんだったが、最後に言い残したことがあったらしく慌てた様子で言った。

「あ、でも朝のランニングはちゃんと毎日やるからね!!」

 そう言い残すとシンさんは消えた。ま、言われなくてももう日課になってるからやるけどね。


 ―――ガラガラ

 2学期最初の学校ということもあり、クラスの中はいつもより騒がしかった。夏を満喫したのだろうか黒く日焼けしている奴らが何人もいた。ま、俺も焼けたけど。満喫は……しなかったな。

 席に座ると龍二が早速話しかけてきた。

「よ! 焔。昨日ぶりだな」

「そうだな」

「もう2学期だぜ!? 夏休みも終わってみればあっという間だったな」

「確かにあっという間だったよ」

 他愛もない話を龍二としていると、綾香と絹子が近づいてきた。

「焔、龍二おはよう」

「ああ、おはよう」

「よ! 綾香、絹子ちゃん。昨日ぶりだな」

「うん。そうだね」

 相変わらず絹子は感情を表に出さないな。

「そう言えば、絹子。金魚はどうだった?」

「お父さんが喜んでた。焔君にありがとうって言っといてって言ってた」

「ほんじゃ、どういたしましてって言っといて」

「わかった」

 ここで龍二が話題を変えた。

「でも、2学期ってけっこうイベント多いよな」

 それに綾香が食いついた。

「あー、確かに。まず9月の末に体育祭があるよね」

「10月には文化祭」

 絹子が付け足した。

「そんで11月に修学旅行……やっぱりこれが一番の楽しみだな」

「そうだな。体育祭はきついし、文化祭は正直言ってしょぼいからな」

「修学旅行って東京なんだよね!! 楽しみだなー」

 綾香が目をキラキラさせながら言った。ま、それも無理はない。俺たち田舎者にとって東京なんてほぼ別世界だからな。俺も楽しみだ。

 修学旅行についてあーだこーだしゃべっているうちにもうチャイムが鳴ってしまった。

「あ、もうそんな時間!? じゃあね」

 そう言って、綾香と絹子は自分の席に戻った。

 チャイムが鳴り終わる直前、龍二が俺に一言言った。

「じゃ、2学期もよろしく頼むぜ。焔」

「……ああ」

 
 2学期始まり

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