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第2話

 今のすずかは、澄人を嫌悪していた。しかし、当初はそうではなかった。

 目覚めたばかりの頃は、すずかは澄人を本物の父親として見ることができていた。

「すずか、もう一度自分の名前を言ってごらん」
「す……す、ず……」
「す、ず、か」
「す、ず……か。すず、か」
「お、今度はちゃんと言えたね。いい子だ」
「すず、か……いいこ?」
「ああ。すずかは、とってもいい子だよ」

 澄人は、すずかの頭を優しく撫でながら褒めた。

 すずかが目覚めてから二日。澄人は四六時中と言って良いくらい、すずかのいるRAY・プロジェクトの部屋にいた。

 すずかはまだメンテナンスベッドから、うまく起き上がることができないため、その横にイスを置いて座り、こうして話しかけたり、絵本を読み聞かせたりしていた。

「そうだ。今日はうまく自分の名前を言えたから、すずかにご褒美をあげよう」
「ごほぅ……び?」

 澄人はイスの横に置いてあった紙袋の中から、いくつかのおもちゃを出して、メンテナンスベッドの上に置いた。

「気に入ってくれるものが、あるといいんだけど」

 アニメキャラクターの人形、角が丸い積み木、音が鳴るボール、子犬のぬいぐるみなど、どれも対象年齢三歳未満のものだ。

「おも、ちゃ……」

 すずかは並べられたおもちゃを順番に触っていった。すると、子犬のぬいぐるみに興味が行き、ぽんぽんと何度か手で触れては離すを繰り返した。

 愛くるしい白い見た目と、ふわふわとした感触がとても心地よいものに感じたのだ。

「ぬいぐるみが気に入ったのか?」
「ぬい、ぐ、るみ?」
「そう。これは、子犬のぬいぐるみだよ」

 澄人は子犬のぬいぐるみを持つと、その顔をすずかに向け、少し声を高くして喋ってみせる。

「わんわん。はじめまして、すずかちゃん。ぼくはハッピー。すずかちゃんと、お友達になりたいな」
「わんわん……は、ぴー……おとも、だち」

 澄人は子犬のぬいぐるみを、すずかの手に持たせた。

「おともだち……なに?」
「すごく仲のいい人のことだよ。一緒におしゃべりしたり、遊んだりするんだ」
「いっしょ……おしゃ、べり…………おとーさんも、おともだち……?」
「友達とは違うな。お父さんはすずかの父親で、家族だよ」
「か、ぞく……」

 家族という言葉の意味を、この時のすずかは、まだ正確には理解できなかった。しかし、他にも――澄人以外にも、自分には家族というものが存在しているような気がしたた。

「かぞく……おとーさん、だけ?」
「いいや。俺以外にもすずかの家族はいるよ。妹のそらはと、お母さんのはるがね」
「いもう、と……おかー、さん……どこ……?」
「そらはは、まだ体を持っていないんだ。だから会えるのは、ずっと先になる。はるは……どこにいるか、わからなくてね」
「わからない……?」
「ずっと探してはいるんだけど、今のところ、手がかりは何ひとつ掴めていなくて……」

 澄人は落ち込むように視線を下げる。

 それを見たすずかは、澄人がどこか痛みを感じて、そうなっているのだと思った。

「おとーさん……いたい、いたい?」
「……大丈夫。どこも痛くないよ。心配してくれて、ありがとう」

 澄人は再び、すずかの頭を撫でた。

「すずかは、はるに似て優しいな。はるも、僕のことをいつも心配してくれた」
「ぼく……?」
「あ……また言っちゃったか。はるのことを考えながらだと、つい僕って言っちゃうな」

 時折、澄人は『僕』という一人称を使う時、子供のような――ほころんだ表情を見せる。しかし、それに気づくと、すぐに表情と雰囲気を大人のものへと戻す。すずかは、それが不思議だった。

 それについて聞いてみようと、すずかが思った時。澄人のポケットに入れてあるモバイル端末が振動した。

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