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40.修理

「まさか頼んだバーガーがアンドロイドに化けるとはな……」
「いや博士、冗談はいいから。とりあえず聞きたいのは直せるか直せないのかってことです」

 怜央は博士に一通りの事情を話してアンドロイドを見てもらった。

「ふむ……損傷が酷いがとりあえず見てみよう。別の部屋にメンテナンスマシンがあるからついてきたまえ」

 怜央は博士の後をついて、ある部屋へと向かった。
そこは入るのに電子ロックを解除しなければならない部屋で、何か大事な部屋であることが伺える。
中に入り明かりをつけると、幾つものアンドロイドが立て掛けてあった。

「博士……これは?」
「見た通りだ。私の白衣をただのファッションだとでも思っていたのかね? 私はこう見えてもロボティクス工学の権威なのだよ。まぁ表には出れない裏のだけどね。――さあ、そこの寝台に寝転ばせなさい」

 怜央は言われた通りにアンドロイドを置いた。
アンドロイド専用の寝台だというのに、それはみしみしと嫌な音を立てた。

「む……異常に重いな。3.5トンもある。これはもしかすると……」

 博士はブラックライト片手にアンドロイドの首元に光を当てた。

「識別コードの刻印が無い。こりゃ市販品ではないな。となると、好き者の自作品か裏の流通品か……或いは――」

 博士は次に、ノートパソコンに繋いだ端子をアンドロイドの脊椎に差し込んだ。
すぐに解析が始まり、そのアンドロイドが何者か判明するのに時間はかからなかった。

「これは……」
「これは?」
「すばらしい……。そこら辺のバーガーよりもずっとだ。これは軍が極秘に開発していたと噂の広域殲滅型戦略アンドロイドだ。それも国際法を完全に無視した違法な武装が積んである」
「え……そんなまさか、さっきも言ったけどすぐ近くの高架下にいたんですよ? そんなヤバいのがいる訳ないじゃないですか普通に考えて」
「いいや、さっきも言ったが軍の研究施設もすぐ近くなんだ。それに爆発事故があったとか言うておったがそれも関係しておるのかもしれん」

 怜央は敏感に面倒事の気配を感じ取って押し黙った。

「少なくともひとつ言えるのは、このアンドロイドを軍は血眼で探しているだろうということだ」
「はぁ……」
「そしてもうひとつ、このアンドロイドの部品はどれも特殊だ。市販品のパーツではとても修理しきれん」
「じゃあ手立てはないんですか?」
「そうだな……軍の施設に乗り込んでパーツをかっさらってきてくれるのならどうにかなるのだが」
「……そうですか、それはざんね――」
「はいちょっとまったー!!」
「ぶぇっ……」

いつの間にか着いてきていたテミスが怜央の顔を押し退けた。

「それなら話は簡単ね。私が行って手当り次第持ってきてあげるわ!」
「ちょっとまてぇい! そんな安請けあぶぇっ」
「で、どのパーツを持ってくればいいの!?」

 既にやる気満々のテミスは怜央に口を挟む機会を与えない。

「ちょっとまて、今必要そうな物のリストを作ってやろう」
「だああ!もうテミスこら!勝手に話をおグッ――」

今度は押し退けるに飽き足らず、ヘッドロックで完璧に喋れなくした。

「え?なんて?」

わざとらしく尋ねた後に、似てもいない声真似で怜央のセリフを捏造した。

「やっぱり俺もいくぜ! 1人より2人の方がいいし、最悪弾除けに使ってくれても構わない! 是非俺も連れて行ってくれ!」

テミスのか細い腕のどこにこんな力があるのかというくらい、ギリギリと締め付けられる怜央は徐々に顔が鬱血していく。
腕を叩いてギブアップしても中々離してもらえないでいた。
しかしそれも束の間、博士がプリントアウトしたリストをテミスに差出したことで怜央は解放される。

「ぶあっ! はぁ、はっ、ゲホッゴホッオエッ。――全然……似てねぇし、何が……弾除けだこら……!」

 怜央は寝台に腕を突っ掛けてなんとか体勢を維持した。

「あら、じゃあ来ないっていうの? 目の前のボロボロな彼女を怜央は放っておけるんだ?」
「いやそれは……」

 怜央の手を力なく触れたアンドロイドは目だけを怜央に向けて、何かを訴えるようだった。

「彼女を引き合いに出すのは――反則だろ……」

 ここで半ば、怜央の反抗心は削がれた。

「じゃあ行くってことでいいのね? そうこなくっちゃ!」

 テミスは思い通りに事が進み上機嫌であった。


◆◇◆


「ということで、俺とテミスはもう1回出かけてくる」

 怜央は今までの流れと今後の動きを皆に伝えた、

「それなら私も行きます! 潜入なら私の腕輪(これ)もありますし、お役に立てるかと!」
「そうだな……危険だし本当は連れていきたくないんだけど、確かにその能力(ちから)は欲しい」
「あっ、じゃあ私も行くわ。なんか楽しそうだし」
「いや、アリータとコバートはここに残って欲しい」
「ええ!? なんでよ!」
「コバートは良くなったとはいえ、今は寝てるし、やはり万全の体調ではない。それに、博士との通信役としてアリータも残しておきたい」
「……覚えときなさいよ! 戻ってきたら死ぬ程血を抜いてやるんだから!」

 アリータは子供の見た目だが、頭は割と大人だ。
嫌々ながらも事の重大性を加味して引くとこは引いてくれる。

「ああ。――それじゃ急ごう。事故で混乱してる今は割と入りやすいかもしれないからな」

 怜央・テミス・シエロの3人は、博士邸を後にして軍事施設へと急いだ。

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