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第250話 デバッグ★パッション

「おおお、すごいな! 俺、今、死んだらしいぜ!」


 死神ちゃんが頬をピンクに染め上げて喜々としてそう言うと、〈あろけーしょんせんたー〉の所員は苦笑いを浮かべてサッと手を一振りした。すると、今度は「うお、生き返った!」と言って死神ちゃんは大はしゃぎした。近くにいた参加者たちと楽しそうに笑っていた死神ちゃんだったが、数時間後にはその笑顔も浮かばなくなっていた。



   **********



 まだ新年度を迎える前のある日。死神ちゃんは、共用のリビングに貼られたお知らせの紙を見てギョッと目を剥いた。すると、同居人の一人が横合いから紙を覗きこみながら、首を傾げた。


「そんなに、驚くことって書いてあるか?」

「いや、冒険者はもう六階に到達しているっていうのに、今からだなんて遅いんじゃあないかと思って」


 死神ちゃんは紙を見つめながら、呆然とした様子でそう言った。お知らせの紙には、このように書いてあった。


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【お知らせ】

来年度より、ダンジョン七階のバランス調整テストを行います。
つきましては、参加希望者は◯月△日までに上長に参加希望を出してください。
その後、◯月✕日までに最大六名のパーティーを組んでおいてください。
※もちろん、ソロパーティーでも参加は可能です。

なお、万が一テストへの参加を辞退する場合は、✕日までに上長に報告をお願い致します。
それ以降の参加辞退は原則禁止とします。


〈注意事項〉
・パーティー内において、冒険者職や各人の戦闘力に偏りがあっても問題はございません。しかし、できる限りバランス良く組んで頂いたほうが望ましいです。
・探索活動は、各人の自由でいつでも行ってくださって構いません。しかし、毎月一度は必ずパーティーメンバー全員揃って探索活動を行ってください。
(全員揃っての探索活動日は、勤務日として処理します。そのため、戦闘訓練のある課の者は、探索日をなるべく戦闘訓練参加日で設定して頂けると、他のシフトに支障が出ず助かります)
・テスト途中でのパーティー脱退や新規パーティー結成は、自由にして頂いて構いません。
・支給されたテスト専用アイテムと初期装備は、各人責任を持って管理してください。不要品については専用の売買所を設けますので、そちらで処分をお願い致します。


テスト参加者には〈テスト参加手当〉を支給させて頂きます。
また、テスト環境は実際に死亡しないように設定してありますので、どの課の方も奮ってご参加ください。

@@@@@@@@@@


 同居人は苦笑いを浮かべると、「ここは〈難攻不落のダンジョン〉だからね。クリアーさせる気、当分はないから」と言って肩をすくめた。実際、五階が攻略開始されてから六階到達者が現れるまでも、かなりの年数を要したという。死神ちゃんは相槌を打ちながら「じゃあ、テストも長い時間をかけてやるんだろうな」と漠然と思った。――この時はまだ、そう思ったのが本当になるどころか、受難の日々の幕開けとなろうとは、さすがの死神ちゃんも予想はしてはいなかった。

 年度が変わって、初めての〈パーティーメンバー全員参加の探索活動日〉。死神ちゃんは七階とされている場所を見て絶句した。何故ならば、そこは丸々〈ひとつのダンジョン〉となっていたのだ。いくら女神の力を借りた強力な魔法で空間を自在に拡張できるからといっても、これはやり過ぎではないかと死神ちゃんは思った。また、これは攻略までにかなりの時間を要しそうだとも思った。しかし、死神ちゃんと同じようなことを思った者は少ないようで、ほとんどの者が〈眼前に広がる冒険の地〉に胸をときめかせていた。
 死神ちゃんたち参加者がダンジョン入り口に設置されているテントを訪れると、そこにはアイテム管理・開発課と〈あろけーしょんせんたー〉の職員が待機していた。彼らはまず、死神ちゃんたちに〈冒険者の腕輪〉とコンタクトレンズを渡してきた。さっそくそれらを身につけると視界の中に体力ゲージが現れ、テント内にいる職員たちの頭の上に〈GM〉の文字が見えるようになった。死神ちゃんは思わず、目を丸くして驚嘆した。


「すごいな! まるでVRMMOみたいだな!」

「はい、まさにその通りですよ。そのようにしないと、死神課の方は死ねませんし、他の課の方は死んでしまいますから」


 そう言って、〈あろけーしょんせんたー〉所員は指をパチッとひと鳴らしした。すると、視界の中の体力ゲージが減った。指を鳴らされるごとにゲージは目減りしていき、そのうち視界が血で濡れたように赤く霞んでいった。そしてゲージが完全になくなると、死亡を知らせる一文が眼前を支配した。
 死神ちゃんは周りにいる者たちと一緒になって、死亡したことに驚きつつも喜んだ。そして所員がサッと手を一振りすると、灰色にくすんで見えていた世界に色が戻り、そして体力ゲージが復活した。生き返ったことを死神ちゃんたちが大はしゃぎしていると、所員はにこやかな笑みを浮かべて説明をし始めた。

 簡単に言ってしまえば、このテントは一階にある教会や道具屋などの役割を果たすそうだ。そのため、〈教会を利用したい事態〉が発生したときや不要アイテムの処分を行いたいときは、このテントを訪れれば良いという。そして、教会利用などで支払いを行う場合は、探索中に入手した仮想コインを利用する。装備品やアイテムも全て仮想のものだそうで、それらは冒険者の腕輪で管理できるのだが、所持可能数に限りがあるということだ。


「モンスターもVRですけれど、罠も設置予定のものを仮想表示しております。もちろん、死神罠も時間経過で出現しますよ! 死神課の中でも健康診断時に〈スポーツテスト〉まで行わせて頂いている方々のデータを元に再現しているので、もしかしたら可愛らしい死神幼女が、悪どい顔で、ふてぶてしい感じで追いかけて来るかもしれませんね!」

「おい、今、サラッと人のこと馬鹿にしただろ。ていうか、ということは、死亡時も死神に追われるのか?」

「はい、もちろん。死亡した方は全力で逃げ回ってくださいね。死体役としてステータス妖精さんが出てきてくれますから、死亡したご本人が死神に追われてその場からいなくなってしまっても、妖精さんを相手に安心して蘇生を試みてください。蘇生が成功しましたら、死神に追われてどこかへと行ってしまった死亡者も妖精さんのいる場所に引き戻されるようになっています」


 死神ちゃんたちは説明を聞きながら「何だか、楽しそうだ」と笑いあった。また、不具合らしきものを発見したときは、冒険者の腕輪を通じてGMに連絡をとればすぐさま駆けつけてくれるそうだ。死神ちゃんたちはそれにうなずくと、さっそく腕輪を操作して初期装備を()()した。
 盗賊の姿をした鉄砲玉はニヤリと笑うと、狩人(レンジャー)姿の死神ちゃんに「お前にだけは絶対に負けない」と言った。ダンジョンの攻略度合いや不具合発見などによる〈貢献度〉によって、毎月もらえる参加手当の額が変わるのだ。どうやら彼は、どちらがより一層多い額の手当をもらえるか競おうと言いたいらしい。死神ちゃんはヘッと鼻を鳴らすと、負ける気はないと返してやった。



   **********



「それにしても、うちのパーティーってバランス悪いよな。前衛一人だけかよ」

「いいわよ、アタシも前に出て戦うから」

「それでも二人じゃあないか。組む相手、間違ったかな」


 死神ちゃんがピエロとクリスをじっとりとした目で見つめると、二人は声を揃えて「ひどい!」と言った。
 死神ちゃんのパーティーは、戦士・権左衛門、隠密・マッコイ、司教・サーシャ、魔法使い・ピエロ、錬金術師・クリスという六人構成だ。ケイティーや住職も一緒にパーティーを組みたがっていたが、役職付きの者は万が一のトラブル対策にバラけておこうということで一緒にはなれなかった。なお、住職は〈殴り特化の支援下手僧侶〉のため、回復役を確保したい同僚たちから冷たくあしらわれ続け、結局ソロで探索初日を迎えることとなったらしい。
 ピエロは口を尖らせると、死神ちゃんを指差して不服そうに言った。


「ていうか、小花(おはな)っち。前世での職業はマコちんと同じ殺し屋で戦闘職だったんだから、小花っちもマコちんと一緒に前に出ればいいじゃん!」

「俺、スナイプ専門なんで。後衛なのは仕方がないんです。ていうか、人を指差すなよ」

「ていうかていうか、ファンタジィな世界で冒険者職・狩人って、ぶっちゃけ微妙じゃない!? あちし、この前鉄砲玉からダンジョン探索RPG借りてやったけど、使い勝手悪くて狩人全然使わなかったもんね! 狩人使うよりはまだ、吟遊詩人に初期装備の睡眠竪琴鳴らし続けてもらうほうがマシだったよ!」

「お前、分かってないな。俺のスナイプは一発必中だせ? クレー射撃レベルの動作速度だったら、前衛が戦闘している最中に回復弾当てるのも楽勝なんですけど。めちゃめちゃお役立ちなんですけど。ていうか、いい加減指差すのやめろよ。あと、お前、他のパーティーの邪魔になってる」


 ピエロはハッと一瞬身構えると、小さな声で「すみません」と謝りながら勢い良く脇へと飛び退いた。通り過ぎていく一団にヘコヘコと頭を下げるピエロの横では、クリスがしょんぼりとした顔で「錬金術師も、使い勝手悪いじゃん」と呟いていた。マッコイはため息をつくと、足りないところはみんなで補い合えばいいと死神ちゃんを窘めた。死神ちゃんはピエロとクリスの二人と、それからおろおろとして耳と尻尾を垂れさせた権左衛門に謝罪した。

 マッピングを買って出たサーシャがこの周辺についての書き取りが終わったと告げると、一行は再び歩を進めた。その直後、一行はミノタウロスと遭遇した。
 さすがは七階というべきか、一筋縄では倒すことができなかった。時間をかけてようやく倒し終えると、ミノタウロスはパック加工された食肉へと姿を変えた。しかも、仮想の品ではなく何故か本物がドロップした。


「何だこりゃ」

「これは、ハチノスね」

「他の部位も産出されるんじゃろうか」

「ミノタウロスを肉牛と同じように扱うのって、どうかと思うなあ。修復(うちの)課のミノタウロスの美濃さんも、このテストに参加してるんだよね。美濃さん、今頃これを見て怒ってるだろうなあ……」

「ドロップ渋くて、お肉入手していないことを祈ろっか……」


 一同はうなずきあうと、念のためGMにドロップ品について連絡を入れた。すると、このアイテムについては、仮想品ではなくリアル品で現在産出中との回答だった。どうやら、探索中のご飯のおともにでもしてくれということらしい。しかし、アイテムとして保持をしたいのであれば、データに変換をしてくれるという。死神ちゃんたちは苦笑いを浮かべると、せっかくだからお昼にでも食べようかと言い合った。

 少しして、一行は前方にマリオネット人形が()()()()()()()()()()()のを見つけた。それを見るや否や死神ちゃんとクリスがお腹を抱えて大笑いした。何故なら、人形部分がピエロの本体そのものだったからだ。


「ひどいよー! 小花っちやマコちんや軍曹みたいに、格好良く実装されたかったよー!」

「でも、アイテムとしての実装は回避できたってことじゃん。良かったね、これで活躍できるよ!」

「きっと、六階の浄瑠璃人形ばりに冒険者を恐怖のどん底に陥れること間違いなしだな!」


 ピエロはなおもギャアギャアと文句を垂れまくり、死神ちゃんとクリスの二人はおかしそうに笑っていた。三人が騒がしくしたせいで、一行は人形に気づかれた。凄まじい魔力を感じたサーシャが慌てて支援魔法をフルにかけ始めると、死神ちゃんは麻痺弾を打つと伝えて銃を構えた。人形の眉間に弾がクリンヒットすると、人形はプルプルと震えながら涙をダパアと流し始めた。


「これ、効いているのか?」

「いいえ、効いていないみたいね」

「人形だから、麻痺薬効かないんじゃないの?」

「あ、これはまずそう。周りに魔法陣が大量に出てきた。攻撃範囲、どのくらいだろう? ゴンザさん、魔防アップ、多めにかけておくね!」

「ありがとう。魔防盾構えて、攻撃に備えますね。低魔防の職の人は、あしの後ろに隠れてくれえ」

「あ、駄目! あの魔法陣、あちしのお気に入りの大火力ブッパ! その魔盾じゃあ防ぎきれないよ! ゴンザ、逃げて逃げて!」


 ピエロの忠告に驚いた権左衛門は、地面に突き立てた大盾を放棄して逃げようとした。しかし、それよりも早く魔法が発動した。


 
挿絵




* 戦士は 死亡 したよ! *


「うっそ、一撃かよ! お前、どんだけだよ! 強すぎるだろ!」

「うへへ、それほどでも~」

「あの糸を切ったら、動きも止まるかしら? 回り込んで切りに行くから、戦闘は魔防の高いピエロとサーシャがメインでお願い」

「らっじゃらじゃー!」

「じゃあ俺は、火炎弾を試すかな。さすがに火には弱いだろう」

「私も、爆弾調合する!」

「ああ、近くに死神がおる! あし、逃げます~!」

「ゴンザさん、戦闘が落ち着いたらちゃんと蘇生するからね!」


 一同は死亡者を出して混乱を来したものの、何とか立て直した。しかし、ピエロのレプリカは意外にも手強く、中々倒すことができなかった。
 クリスはいまだ復活できていない権左衛門の穴を埋めるべく、魔法の粘土で何かを作り出した。フウと息を吹きかけて完成したそれは、元気よく決めポーズをキメた。死神ちゃんは自信満々に胸を張るそれを目にして、目を真ん丸く見開いた。


「おお! すごく精巧な俺! さすがは俺の原型師! ――それでもやっぱり鳴き声は〈ヨウジョ〉かよ! どうしてなんだよ! ふざけやがって!」

「知らないよ! 私だって新春ショーで歌パートに入っていきなりアイドル気取り始めた(かおる)のように、可愛らしく『いっくよー!』とか言うと期待してたのに!」


 死神ちゃんとクリスが戦闘そっちのけで言い合いを始めると、幼女は二人に構うことなくピエロ人形に向かって突っ込んでいった。幼女はふよふよと宙に浮かぶ人形よりも高い位置にぴょんと飛び上がると、拳ひとつで人形を地面に叩きつけた。その衝撃で人形の防御魔法が弱まった隙に、マッコイがすかさず糸を切り離し、ピエロとサーシャが人形を焼き払った。
 戦闘を終えた一同はぐったりと肩を落とすと、もう二度とピエロとは戦いたくないと口々に呟いた。あまりにも強すぎて、体力も魔力も消費が激しかったのだ。戦闘の立役者となった幼女はと言うと、ヨウジョヨウジョと鳴きながら褒めてと言わんばかりに飛び跳ねていた。近くにいたマッコイが頭を撫でてやると、幼女は嬉しそうにクルクルと走り回った。
 創作者であるクリスが抱き上げようとかがみ込んで幼女を呼ぶと、幼女は彼のもとではなく死神ちゃんの元へと駆けていった。そして、モデルのご本人がいつも浮かべるような、ヘッという皮肉な笑いを浮かべた。クリスはショックを露わにすると「何で!?」と声をひっくり返した。

 その後すぐ、一行は再びミノタウロスと遭遇した。今度はパック加工されたハツを手に入れた。しばらくして、彼らは祭壇のようなものを発見した。モンスターの気配もなかったため、そこで昼食を取ろうということになった。マッコイとサーシャは手分けをして調理に取り掛かり、早速先ほど手に入れたハチノスとハツを使用した。
 ハチノスはトマトスープに入れて煮込み、ハツは炒め物となった。鮮度も質も素晴らしく良いお肉だったため、死神ちゃんたちはうっとりとした表情を浮かべて舌鼓した。

 午後の探索で、一行は水晶球のはめ込まれた彫像を発見した。何らかのリドルに関係あるのではと調査を行うべく、死神ちゃんたちはその彫像に触れた。すると、彫像に触れた者の眼前にメッセージが現れた。


@@@@@@@@@@

十三の傀儡の心臓に杭を打ち、祭壇に捧げ、試練を受けよ
試練を越えし者にのみ、道が拓かれるであろう

@@@@@@@@@@


 死神ちゃんたちは顔をしかめると、メッセージを反芻するように呟いた。すると、マッコイがだしぬけにポツリと呟いた。


「心臓は、さっき食べたわね。炒め物にして」


 一同はギョッとすると、マッコイに注目した。マッコイは顔を強張らせて、ポツポツと言葉を続けた。


「炒め物に入れた、ハツ。あれは心臓の部分よ。もしかして、アイテムを集めて作業しろ的なやつかしらね、このリドルは」

「もしかしなくても、そうだろう。じゃあ、傀儡と杭も探さなきゃか? ていうか、傀儡って……」


 死神ちゃんがげっそりとした顔でピエロを見つめると、他のみんなもピエロを見つめた。彼女が不思議そうに目を(しばた)かせると、一同は弾けるように話しだした。


「やだ、無理無理無理無理! だって、あれ、何もドロップせずに消えたでしょう? かなりドロップ渋いんだよ、きっと! それなのに、ゴンザさんも消し飛んで、私たちもズタボロになった相手と、十三個集めるまで戦うだなんて!」

「あのときは焼き払ってしまったけれど、糸切っただけの状態にとどめたら、入手できるようになるのかしら?」

「もっと魔防の高い装備を整えんことにゃ、あしはお荷物やき……」

「私が代替品を作るじゃあ、やっぱり駄目だよね? アレを集めないことには、リドル解けないよね? 嫌だなあ、アレと戦うの……。だって、本当に強かったんだもん」


 一同はため息をつくと、マリオネット人形が安定して出没する場所を見つけて嫌々ながら狩りを開始した。しかし、狩れども狩れども、人形を入手することはできなかった。
 マッコイはため息をつくと、パーティーを代表してGMに連絡を入れた。


「すみません。もうかれこれ三時間は、マリオネット人形を狩り続けているんですけれど。コインすらドロップしないんです。これ、不具合ではないのかしら?」

『ちょっと待って下さいね。……あー、不具合ではないです。ドロップ、めちゃ渋設定なんですよ、そのモンスター。何がドロップするかは、教えられませんが。まあ、そういうわけなので、頑張ってください』


 一同は落胆すると、再び人形狩りを再開させた。しかし、やはり何もそれらしいものは入手することができなかった。


「もしかして、他にも人形系モンスターがいて、そっちでリドル品ゲットできるとかかなあ?」

「それにかぁーらんものは、見かけんぜよ」

「合間に戦っているミノタウロスのほうは、色々と落としてくれているのにねえ。でも、ハツはないわね。一頭につきひとつ、ニキロ分だけという希少部位だからかしら?」

「ハツのドロップが渋い理由、リアルに希少部位だからなのかよ。――ていうかさ、いっそ、本物を捧げようか。レプリカ品は十三集めなくちゃあいけないが、本物だったらひとつで許してくれるかもしれないぜ」

「小花っち、それはないよー! あちし、悲しすぎて、杭を打ち込まれる前にもうブロークンハートしたよー!」


 ピエロが嘆いていると、近くを通りかかった他の参加者がピエロを睨みつけて悪態をついた。どうやら、彼らもリドルを目にして人形狩りを始めたものの、ありえないほどの強さに手を焼いているうえに、全くと言っていいほど成果が出ていないらしい。
 そろそろ帰ろうということになり、一同は地図を頼りにもと来た道を戻り始めた。すると、同じく帰路についている最中の死神課の同僚たちが怒り顔で近づいてきて、ピエロ(本体)に手をかけると八つ当たりのごとく揉みしだいては去っていった。辺りにはピエロの奇っ怪な笑い声とともに「あちしは悪くないよー!」という叫びがこだましたのだった。

 なお、ドロップ率について意見を投げたところ、GM達は嬉々とした笑顔で「もっと渋くしたほうがいいですか!?」と言ってきた。それを聞いた参加者の全てが「そういうのは〈難攻不落〉とは違うだろう」と心中で吐き捨てたのだった。




 ――――ドロップお肉で焼肉大会をして、鬱憤を晴らしました。もちろん、美濃さんも参加して「美味しい美味しい」と言いながら食べていたそうDEATH。

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