第三十四話 クラスマッチ
クラスマッチ初日。今日はサッカーとバスケが行われる。この2つは同時進行で行われるから、皆は体育館とグラウンドを行ったり来たりしている。観戦するも、観戦しないも、個人の自由だが、まあ、普通は観るよな。
俺は龍二と一緒に体育館にいた。グラウンドに行くつもりはさらさらない。だが、俺たちのクラスは3年生とやるから、早々に負ける可能性は大いにあるがな。俺たちは自分のクラスが対戦するコートに移動し、壁にもたれかかり、腰を下ろした。
「どう見る焔?」
「まあ、十中八九負けるだろうな」
「ま、そうだろうな。相手は3年生、それも2組ときちゃあ厳しいよな」
「ああ、あの人たちはガチの布陣で来るからな」
「でも、楽しけりゃそれでいいだろ」
「同感だ」
そろそろ始まる時間が迫ってくると、観客が増え始めた。流石は、優勝候補の3年2組さんだ。ま、多分それだけじゃないんだろうけどな。
「見てみろよ焔。ここに集まった男子全員綾香のこと見に来たんだぜ」
龍二がニヤニヤしながら、あたりを見回した。
「そんなこったろうと思ったよ。人気になっちまったな、綾香は」
「元々容姿は綺麗で、持っているポテンシャルは大きかったんだよ。ただ単に人に接することが極端に苦手だっただけでな」
「だが、今はそれさえ克服して、めでたく人気者……と」
「さみしいか?」
「……全然。だって、あいつは変わってねーからな」
「……そうだな」
試合は11‐2と完敗だった。だが、悔しがっているものは一人もおらず、全員楽しそうにしていた……と思う。いや、確実に一人はそうだった。
サッカーは準決勝まで行ったみたいだが、惜しくも負けたみたいだ。
俺たちは昼頃解散となった。
「龍二」
焔は帰り際、龍二に話しかけた。
「なんだ?」
「明日は勝つぞ」
「……フッ、了解」
その言葉を聞き、焔は安心したように笑うと、その場を後にした。
そのやり取りを少し遠めから、見つめる影が一つ。その優しい瞳には誰も、気づくことはなかった……
焔はいち早く帰ると、早速準備をして、天満山に向かった。山頂に転送してもらうと、そこにはシンが景色を眺めていた。
「どうも、シンさん」
「お! 焔君。調子はどうだい?」
「良いですよ。すこぶる」
「そうか……ほんじゃ、下で待ってるから、頑張ってねー」
そう言って、シンは転送した。完全に転送が完了される間際、焔はシンに一言言った。
「今日決めます」
「……期待してる」
焔は大きく深呼吸をした。それから入念に準備運動を始めた。
今日から雨が止んで3日が経つ。地面は完全に乾いている。ルートも距離も石の位置、どこを踏めば良いのか……全部頭に入ってる。後は、迷わず全力で走り抜け、要所要所でしっかり止まり、方向転換すること。
大丈夫。自惚れてなんかいない。できることとできないことはわかってるつもりだ。集中しろ焔。間違わなければ必ず……
「よし!!」
焔の声に木々がざわめく。そして、自分の行く道をしっかり見据え、強く踏み込んだ。
―――「よお焔、準備は整ってるだろうな?」
「ああ。昨日終わらせてきた」
「……そうか(昨日、何かあったんだな)」
「龍二……勝つぞ。俺たちの力で」
「おお!!」
クラスマッチ2日目。バレー1回戦。そろそろ始まる。