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秘密13

 次の日旅籠で京之助と会った。狗は遂に旅籠には戻らなかった。
「どうだった逃げれたか?」
 旅支度を終えた京之助が入ってきたきた狗に声をかける。
「こちらはあれから追ってきた下忍をもう一人切った」
「私はこの際と思って城に潜り込みました。胡蝶も戻ってきていました。天守閣に住んでいるようでした。あの白髪の老人は何者です?」
「やはりいたか?」
「お棺の中にいたのです」
「やはり」
 京之助は薄い本を出してきて狗に渡した。
「これは柳生の日誌のようなものだ。近畿を歩き回る密偵が書いたものだ。これは三好を探っていた柳生の密偵が書いた。松永弾正の屋敷に白髪の老人がいると書いている。この頃はまだ胡蝶など生まれていない時代だ。三好の番頭時代だ。だがこの頃も白髪の老人がいた」
 日誌には絵までついている。ほとんど今と変わっていない。
「この頃はよく姿を現していた。だから弾正の師匠と思われていたのだ。ところが密偵がある日空を飛ぶこの白髪の老人を見たと書いている。絵も描いている」
 狐が見たと言う鴉のような姿だ。
「ここに面白い記述がある。これは京の有名な僧正にこの話をしたらこれは果心居士だと言うのだ」
「果心居士?」
 初めて聞く名だ。
「昔の話にも空を飛ぶ鴉の話が伝えられている。その時々に人に憑りついて生きているのだと言う。それで言うと150年ほど生きていることになる。狗の話では今は弾正に憑りついていることになる。私はこれから京に行き弾正を調べてくる。果心居士には気を付けることだ」


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