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35.チンピラのその後

 チンピラアニキとその取り巻きだった5人は結論から言えば破門になった。
行くあてのない彼らは街を彷徨い、気弱そうな人を見つけては金銭の巻き上げを行っていた。
冒険に行く力もなく、頼れる後ろ盾も失った彼らはこうして日銭を稼ぐしかなかったのだ。

 そんな日が数日続いたある日、チンピラアニキはいつものように取り巻きを連れてカモを探していた。

「ったく、なんで俺らこんな事になっちまったんだ? ちょっと前までは上手くいってたのにな」
「そんなもん決まってんだろぉ。全てアイツのせいだ。アイツさえ居なけりゃ今頃……。はぁ……。それよかよぉ、タケとオサムはどうしたよ?」
「それが昨日から連絡がつかねーんだ。位置検索してもエラーがでてきちまう。スマホ置いてどこかにいるんだろうぜ」
「チッ……。こんな時だからこそ皆が集まる必要があるってのに、何してんだまったくよぉ」

 チンピラ連中は口を開けば愚痴しか出ない。
やることなすこと上手くいかない彼らは苛立ちを募らせていた。
 そのエネルギーを落ちていた空き缶に思いのままぶつけると、それは路地裏の方へと入って行った。
その動きに釣られて路地裏に目をやると、男女のカップルがいた。
 それを見てこれはチャンスだと思った彼らは早速因縁をつけに行った。

「よお! お楽しみのところ悪いけど、ちっと金でも恵んじゃくれねぇか? 」
「見たところアンタ聖職者みてえだな。それがこんな暗がりで……いけないんじゃないのかい? 聖職者だったら俺らに慈悲をくれても罰は当たらんだろ。黙ってて欲しけりゃ――わかるよな?」
「こいつらぁ、気が短いんだ。素直に従った方が身のためだぁ」

 怯えるカップル相手に容赦ない恐喝を行うチンピラ達。
3人は逃がさぬようカップルを取り囲む。

 こうなればもう時間の問題だ。
チンピラ達は金ズルゲットと言わんばかりに、カツアゲ成功の確信の笑みを浮かべていた。
 カップルの男は諦めて、財布を取り出したその時、不意に声を掛けた者がいた。

「そのような輩に渡すことなどありません」

 チンピラ達は一斉に振り返り、その視線の先にはローブのフードを目深に被る謎の女が居た。
ちょっかいを出してきたその女にチンピラ達は憤りをぶつける。

「なんじゃいワレェ! ヒーロー気取ってると痛い目見んぞ!?」
「部外者は引っ込んどれ!」
「……まあ待てお前ら、よく見るとこいつ……女じゃねぇかぁ? おい、ちょっと顔見せてみろよォ」

そう言ってチンピラアニキは女のフードに手を伸ばし、顔を拝もうとした。
だが、それが叶うことはなかった。

 なぜならチンピラアニキの左手がポロリと落ちたからである。
その断面からは鮮血が吹き出し、誰から見ても重症であることは明らかだった。

 チンピラアニキは状況を理解するや否や、全身の血の気が引いた。
顔を歪ませ叫び声をあげるところだがそれも叶わなかった。

 女は人を呼ばせまいとチンピラアニキの首を目にも止まらぬ早業で掻き切ったからである。
チンピラアニキは首から湧き出る血の海に、ゴポゴポと音を立てながら溺れて倒れた。

 その異様な光景にあって、その場に居た者は皆固まった。
頭では逃げるべきだと理解してるが体が動かない。
 皆、凄惨な現場に釘付けになっていたのだ。
それを察した女は語りかける。
 
「そこの御二方、もう行っていいですよ」
「あ……あぁっ……!」

 カップルは何も言うことができなかったが、その女のお許しを得たことによって、恐々としながらもその場から逃げ去った。

 だが悲惨なのは残りの2人だ。
逃げるカップルを後目(しりめ)に見るだけで、自分達は逃げてはいけないとわかっていたから。
逃げたら目の前のチンピラアニキと同じ姿になるのだと。

「おっ、お……俺らが何したってんだ……!こんな目に合う(いわ)れはないぞ……!」
「そ、そうだ……!アンタなんて知らないし、迷惑をかけた覚えもない……!なんでこんな……ああっ、クソっ!!」

 チンピラは目に涙を浮かべながら自身の行動を振り返る。
恨まれる覚えなんて幾らでもあるが、それでもこんなことになるなんて夢にも思わなかった。
 そしてチンピラはふと思い出す。

「まさかっ……! タケとオサムが見つからないのは……」
「っ! そういう……ことか!?」

 2人は悟った。
他のチンピラ仲間、タケとオサムも目の前のアニキみたいな目に、既に合っているのだと。

「貴方達は……許されないことをしました。大いに悔いて来世があることを祈ってください」

 女はどこから出したのか、白い体毛に包まれた手には小型の斧を握っていた。
その斧にはチンピラアニキの血が滴っている。

「っ! ま、待ってくれ! 俺が悪かったよ! 償いはなんでもする! だから命だけ――」

 命乞いは最後まで言えなかった。
その姿に見苦しさを感じた女が斧を投げつけたからだ。
斧は男の顔面に斜めに突き刺さった。
 瞬間、首だけが後ろに倒れ、力尽きたように体も崩れた。

 もう無理だ。
そう悟った残りの男は一目散に走った。
 後ろには死がある。
そうわかっているからか、不思議と全身の感覚が研ぎ澄まされ後ろからビリビリと伝わるものがある。
男は苦し紛れに叫んだ。

「助けてくれ!! 誰かァッ――」

 一縷の望みを賭けた一世一代の叫び。
だが残念なことに、女は斧を両手に持っていた。
1つは手元から離れたといえ、もう1つは未だ手中。
その残りの斧は、逃げた男の背中に吸い込まれるかのように向かって行った。
ドスッという質量感のある音が鈍く響くと、男の叫び声はピタッと消えた。

 女は3人の死体を眺めて溜息を吐いた。

「――夏目様にちょっかい出したこと、それが貴方たちの罪です」

 女は死体を担ぐと夜の路地へ飲み込まれるかの如く消えていった。

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