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34.組長

 絡んできた男らはチンピラであったが、チンピラにはチンピラなりの上下関係の厳しさがある。
それがわかったのは玲奈の登場だった。

 玲奈が声を掛けた瞬間、男らは一斉に深いお辞儀をして声を張り上げて挨拶をした。
その光景は傍目から見ても、チンピラより玲奈の方が偉い立場だと示していた。
 そして玲奈は怜央にも気付いた。

「夏目じゃないか。思ってたより早くまた会ったな。――てかその面はどうしたんだ? 酷いなこれは……」

 玲奈は怜央の頬に触れて傷を観察した。

「ええ、まあ……色々ありまして」
「たくっ、どこのどいつだ。うちの夏目にこんなことしやがったのは――って、おいお前ら。何処へ行く?」

 玲奈はさり気なくその場を去ろうとしていた男らを引き留めた。

「あ、いやっ、自分らは勧誘に戻ろうかと……へへっ……」

 チンピラアニキは内心焦っていた。
まさか自分がいい気になって絡んでいた相手がお偉いさんの知り合いだったからだ。
 しかし、昨日の出来事を間接的にしか知らない1人のチンピラは玲奈を前に言ってしまった。

「急にどうしたんすかアニキ? さっさとこいつボコって金巻き上げましょうや」
「……あ? おい、どういうことだ? ちょっと説明してみろ」

 玲奈は鋭利な覇気を漂わせ、チンピラアニキに問うた。
チンピラアニキは生唾を飲み、掠れた声で弁明を図る。

「いえっ、そのっ……。こいつが最初絡んできたんです! 俺らは悪くねぇ!」
「そうですよ! 昨日さんざん痛めつけてやったってのに、またちょっかい出してきたんすよ! ね? アニキ」
「バカっ……お前は黙ってろ!」

 チンピラ舎弟は余計なことを言ったようだが、玲奈は聞き漏らさなかった。

「夏目。お前が先にちょっかい出したってのは本当か? 事と次第によっては私でも擁護できんぞ?」
「……ええ、ある意味では彼らの言う通り――そうなるのかもしれません」

 玲奈・怜央の言葉に思ってもいない幸運だと感じたチンピラアニキはそれに便乗した。

「ほら! 俺は間違ってませんよぉ!」

 さっきとは打って変わって俺が正しいと言わんばかりの態度・主張だが、怜央の話はまだ終わってなかった。

「ただ――昨日でケジメは付けた。それをあんたらは破って再び因縁をつけて来たんだ」
「――どうなんだ?」
「う、それはぁ……」

 チンピラアニキは答えられず、その沈黙こそが答えだった。
玲奈は舌打ちをして、後ろに控えてた男に合図を送る。
何らかの意図を汲んだ男は返事をすると、取り巻きにも指示を出し、チンピラ連中をどこかへと連れ去って行った。

「すまなかったな、夏目。ウチの構成員(もん)が迷惑掛けたようで」
「いえ、この程度……。それより玲奈さんて水星会なんですか? あの男らの態度から、相当偉いんですかね」

 怜央が問いかけると玲奈の後ろに控えた大柄の男が言った。

「偉いも何も、この方が水星会の3代目ギルドマスター(組長)水谷玲奈親分ですよ」

「……ええ!?」
「まあ、そういうことだ。こんな事になって言うのもあれだが……あの件は考えてくれたか? 夏目にはどこか光るものを感じる。今ならそこそこのポストも用意してやれるが――どうだ?」
「あー……そのことなんですが……」
「ダメよ。コイツは他所のギルドに入る気なんてないんだから」

 怜央の考えを知ってるアリータは代弁のような形で言った。

「……そうなのか?」
「ええ、彼女が言ってることは本当です。自分で作ろうと思っているので」
「そうか……。あまりしつこいのも無粋だが、気が変わったらいつでも私に言え? 夏目」

怜央は愛想笑いを浮かべて社交辞令を述べた。

「ええ、多分無いとは思いますが、その時はお願いします」
「ああ、待ってる」

 そう言うと玲奈は手袋を外して、右手を怜央に差出した。
指には黒い指輪が嵌められ、それは学園で最高位の存在であることを表していた。
それにも内心驚いた怜央だったが、差し伸べられたその手の意味を汲んで、怜央もそれに応えた。

 その後、子分に急かされた玲奈は別れを告げて去って行った。
何はともあれ、今回の怜央絡まれ事件は表面上の収束を見せた。

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