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合流 1

 局所的なにわか雨が上がり始める中、赤の国の王獣が地面に降り立った。その背からまず王が飛び降りてから、未だ気絶している少女を抱いた少年に手を差し出す。
 差し出された手を見つめて動かない少年に、王が首を傾げた。
「降りるのに助けがいるかと思ったが、いらないか?」
「あ、いや、」
「ああ、さすがにその子供を抱えたままでは無理か。では、その子はグレンの背に乗せておけばいい。風霊が落ちないように支えてくれる」
 だったら僕のことだって風霊に支えさせれば良いのでは、と思ったし、そもそも王の左腕は酷い状態だ。だらりと下げられたままの腕は、やはり骨が折れているのだろう。
「貴方の腕、酷い怪我ですし……」
「気にすることはないというのに。ほら、血も止まっているだろう?」
「いくら血が止まっていたって、痛いでしょう?」
 何せ、左腕にある傷口は、そのほとんどが焼け爛れている状態なのだ。王が自らやったことではあるものの、傷の状態から察するに、少年が思っている以上の痛みがあるはずである。
「心配してくれるのか。やはりお前は優しいな」
「え、いや、」
 やたらと嬉しそうに微笑んだ王に、少年が困惑する。この状況で王の心配をしない方がどうかしているだろうに。
「だが、大丈夫だ。そこまで柔ではない」
 そう言った王が、差し出していた右腕を伸ばして少年の腰に回す。そのまま、王は片腕で軽々と少年を抱き上げてしまった。
「う、わっ、」
 驚いて思わず王の肩にしがみついた少年に、王が笑う。
「安心しろ。落としはせんよ」
「いや、あの、そういう問題じゃ、」
「左腕は使っていないからな。問題ない」
 だからそういう問題じゃない。そう思った少年だったが、何を言ったところでこの王はあれこれ理由をつけて少年を離しはしないだろう。仕方なく、王の腕の中で大人しくすることにする。
「……そういえば、あの、竜みたいなのとオーナーの人は、どうなったんですか……?」
「ああ。……撃退はしたが、逃がしてしまった。やはり厄介だな、あの空間魔導は」
 つまり、倒しきれなかったということらしい。空間魔導が厄介だという発言から察するに、空間魔導で逃げおおせたのだろうか。魔導については魔法や魔術以上に明るくない少年だったが、あのデイガーという男の能力がとても高いようだということだけは判った。
「だが、あれだけならば、そこまで脅威的というほどでもないさ」
「はあ」
 少年が間の抜けた返事しかできないのは、未だに状況をきちんと把握できていないからだ。
「……というか、貴方、そういえば、……国王陛下、なんですよね……」
 激しい戦闘に巻き込まれたせいですっかり頭から飛んでいたが、そうだった。この目の前の赤い男は、あろうことかグランデル王国の国王陛下なのである。そんな人に多分二度も助けて貰った挙句、あまつさえ王獣の背中に乗るなど。
 考えただけで不敬以外のなにものでもない。これが銀の国や青の国だったら、もしかすると首が飛んでいたかもしれないほどだ。いや、赤の国は温厚な国だと聞いているけれど、本当のところを知らない以上、やっぱり打ち首になる可能性はある。
 さっと青ざめた少年に何を思ったのか、王は彼をそっと地面に降ろしてから、その黒紫の髪に唇を落とした。
「ひゃっ、な、なんですか……?」
「そう心配そうな顔をするものではない。お前のことは私が守る」
「は、はぁ……」
 やっぱり別にそんな心配をしていたわけではないのだけれど。
 しかし、あのときのような息が止まるほどの輝きこそないものの、改めて見ると、グランデル王は本当にきれいな人だと少年は思った。特に、この瞳が良い。炎を内包する金色の瞳は、こうして間近で見ているだけで蕩けてしまいそうだった。
 少しだけ惚けかけた少年が、慌ててそっと視線を落とす。王の口のあたりを見ておけば、取り敢えず思考が疎かになることもないだろう。
 とにかく、この王に自分を処罰する気はないらしい。そう思えたことで安心したのだろうか。忘れていた痛みが急に戻ってきて、少年は思わず自分の腿を見た。そして、自分の肉に深々と刺さるナイフに、また青褪める。王の命令による風の加護はまだ生きているのだろうけれど、それでもじくじくとした痛みと熱が感じられた。
「痛むか?」
「え、あ、……はい。でも、貴方に比べたら、全然」
「だが痛むのだろう」
 そう言った王が、再び少年を抱き上げようとする。だが、少年は今度こそそれを固辞した。自分より大怪我を負っている国王陛下に、そこまでさせるわけにはいかない。いや、もう十分すぎるほど色々とさせてしまっているのだが。
 そんなことをしていると、不意に王が少年に向けていた視線を空へと上げた。少年も釣られて王が向いた方へと目をやると、雷色の毛をした獣が空から滑り降りてくるのが見えた。
 そのまま王と少年の近くに着地した獣の背から、淡い金髪の男と黒紫の髪の青年が飛び降りてこちらへとやって来る。
 とにかく、この王に自分を処罰する気はないらしい。そう思えたことで安心したのだろうか。忘れていた痛みが急に戻ってきて、少年は思わず自分の腿を見た。そして、自分の肉に深々と刺さるナイフに、また青褪める。王の命令による風の加護はまだ生きているのだろうけれど、それでもじくじくとした痛みと熱が感じられた。
「痛むか?」
「え、あ、……はい。でも、貴方に比べたら、全然」
「だが痛むのだろう」
 そう言った王が、再び少年を抱き上げようとする。だが、少年は今度こそそれを固辞した。自分より大怪我を負っている国王陛下に、そこまでさせるわけにはいかない。いや、もう十分すぎるほど色々とさせてしまっているのだが。
 そんなことをしていると、不意に王が少年に向けていた視線を空へと上げた。少年も釣られて王が向いた方へと目をやると、雷色の毛をした獣が空から滑り降りてくるのが見えた。
 そのまま王と少年の近くに着地した獣の背から、淡い金髪の男と黒紫の髪の青年が飛び降りてこちらへとやって来る。
 見知らぬ人物に思わず身体を固くした少年の頭を、王が宥めるように優しく撫でた。そして、向かって来る二人を見て口を開く。
「ご苦労だった、レクシィ、グレイ。お陰で街への危害を最小限に留めることができた」
 そう、騎獣に乗ってやって来たのは、レクシリア宰相とグレイだった。

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