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生い立ち13

「これはどう言うこと?」
 まだ13歳の狐だがもう立派なくノ一だ。男を咥えこむ腕も大したものだ。兄妹で育った狗も寝床では翻弄されている。くノ一の尻の穴から出てきた紙には理解できない言葉が並んでいる。『弾正は怪しのもの。別人が弾正の体に住みついている。天守閣にはもう一つ部屋がある』とこれだけの言葉だ。
「弾正は忍者か?」
「そんな感じではないわ。忍者が怪しと言うのは化け物にたぐいだわ」
「筒井の殿にはこのことを言うべきか」
「いえ、あのくノ一が弾正の忍者だっただけでいいと思う」
と狐があのくノ一が使っていた簪を布に包んで出す。
 狐とは筒井順慶の城下町で別れる。狗はそのまま筒井の小姓に化けて城の中に入る。
「狗か?」
 居間から声がかかる。狗は順慶とすでに何度か交わっている。順慶が本気で小姓になれと言う。確かに入れられていて気持ちがいい。狐を抱くのとはまた違う。だが狐には内緒にしている。下忍には男色が多い。
「松永弾正か?」
 筒井とは最近何度か兵を交えている。宿敵と言う関係になっている。どちらが伊賀の地域を押えるかと言うところに来ている。ただこの地域は通常の支配は出来ない。それぞれの豪族の自治が出来上がっている。とくに服部、百地、藤林が地域をまとめつつある。その彼らを手足のように使うことが支配だ。
「しばらく弾正を見張れ」
 そう言われて明け方に眠っている順慶の床を出る。黒装束に変え堀を超えたところに狐が花売りの籠を頭に乗せて立っている。

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