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 月が沈み、日が昇る。
 産まれるモノがあり、死に行くモノがある。
 植物が茂り人が増える。
 私はタダそれを見ていた。
 延々と続く時間を見つめていた。
 それ以外何が出来るだろう。

 何が・・・。


「ねえ。寒くないの?」
 一人の少女が私に声をかける。

 寒い?

「いつもここにいるね。何してるの?」

 ああ、氷河期の今は寒いんだ。
 ゆっくりと思考が動く。
 そして、幾千年と動くことの無かった唇が開く。

「何も・・・」

 雪が静かに舞っている。
 虚ろながらも目でそれを追った。

「お手テ、冷たいね。暖めてあげる」

 私の手を取り、その子が擦る。
 ふさふさの動物の毛皮の服と靴を着てる少女。
 それに対して私は薄い布の衣服を(まと)っているだけ。

「あのね、向こうにママが居るの。向こうで暖まろうよ」
 そう言って、私の手を引っ張る。
 少女が指さした方には遊牧民達のテントがあった。

「そうだね」

 私はそれだけ言い、ゆっくりと立ち上がった。
 少女は私の手を放さずに軽く引っ張る。

「はやく」

 ルンと弾んだ声でその子は笑いかける。
 私もつられて微笑み返した。


 延々と歩いたと思う。
 近くに見えていたテントは相変わらず近くに見えるが、一向に辿り着けない。
 少女ははずんだ足取りで先を歩く。

「ねえ?何処まで行くの?」
 少女に引かれる手を引っ張り訪ねる。

「もう少し」
 振り返らずに相変わらずの弾んだ声で答えてきた。
 風が耳元を微かにくすぐる。
 炎が辺りを照らし出し、辺りが氷で覆われていることを知らせる。
 氷の中にテントがある。
 ここは氷の洞窟の中!?まやかしだった?

「あれ?もう気づいちゃったの?」
 くすくすと笑い声が辺りに響いた。

「あなた・・・誰?」
 急激に冷たくなった少女の手を振り払う。
氷霊(ひれい)だよ。神に選ばれた力を持つモノ」
「力って・・・もしかして鬼炎の言ってた?」

 目の前に氷がつきだし、それが形を変えてイスのようになる。
 少女はそれにピョンと座る。

「そうだよ。鬼炎はあなたを試したの。自分を殺せるモノかどうか」
「な・・・なによそれ?私を殺そうとしてたんじゃないの?」 

 私はあの時の様子を思い出す。

「ちがうよぉ。鬼炎は死ぬことを望んでたもん。
 かといってキヨは簡単に自分を殺してくれそうにないし、
 だから、あんな風に挑発したんだよ」

 挑発した?サザを殺して?
 氷霊は私をちらりと見やり言葉を続けた。

「まあ、サザのことはちょっとした見当違いだったらしいけどね」

 少女はいともあっさりと言う。
 まるで私の考えに気づいたように。

「見当違い?そんな事であの子を殺したって言うの!!?」
「やだなぁ。そんなに怒らないでよ。キヨだって殺したでしょ?」
 一旦言葉を切り、私に向き直る。

「鬼炎と一緒にたくさん」

 ニッと笑った顔が悪魔のように思えた。
 あの場所にいたのは鬼炎だけじゃない。
 『ラー』の集団が居た。

 私は彼らも殺していたのだった。
 キュッと唇をかみしめる。
 風が小さく呻いて氷霊へと襲いかかった。
 氷壁が氷霊を護るように取り囲む。
 風がかまいたちのような痕を氷に刻み込んだ。

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