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「もし、そこのお嬢さん」

 学校の帰り道、私はまっすぐと家へ帰ろうと思っていた。
 その時にふと、男性の声に呼び止められたのだ。
 私はそのまま無視をして通り過ぎようとした。
「そこのあなたですよ。冠瀬(かんぜ) 貴夜(きよ)さん」

 優しそうな声。
 私の足はそこで止まり振り返った。

「なんで・・・私の名前!?」

 私は怪しみの目でその人を見た。
 と、目の前にいるのは結構好みの男・・・。だよね。
 長髪で後ろに結んである髪は腰にまで届いている。
 瞳はブルーで髪は白に近い、いや、銀色に光ってるようにも見える。
 中性的なその雰囲気は神秘的にも見える。

「すみません。ちょっと、あなたの運勢が気になったもので」
 と、言っている彼の服装は占い師だろうか?
 それっぽい服を着ている。
「私、お金なんて持ってないですよ」

 彼の立ってる後ろには、『星の道標』と書かれた看板が掛かっている扉がある。
「お金なんて取りません。少し、占わせていただけませんか?」
 いかにも申し訳なさそうにそう言うので、私は断ることが出来なかった。

「いいけど・・・」

 本当は、良くなんて無かった。
 なぜなら、このあと家に帰って、
 大量に貯まっている課題を片づけなければいけなかったからだ。


 その扉の向こうは暗く、占いの雰囲気が伝わってくる。
 中に進むといすがあり、その前に黒いテーブルが一つ。
 彼は向こう側に座りながら、私にいすに座るように勧めた。
 机の上にはコインと短剣、小さな杖そして水の入ったカップ。
 どれも、中世のヨーロッパ風の細工がしてある。
 もっとも私には本当にその時代の物かなんてわからなかったが、とにかく古そうだった。
 普通なら、水晶とかありそうな物なのに?

「少しこのコインを見つめてて下さいませんか?」
 彼はそう言ってコインを私の前に差し出す。
「触ってもいいですよ」
 彼はにこやかな笑顔を私に向ける。
「でもこれから何があっても、声だけは出さないでください」
 私が何も答えないまま、彼はそう続けて言っていた。

 触ってもいいって言われても・・・。
 なんだか触る気にはなれない。
 私はじっと黙って、そのコインを見つめていた。
 と、彼は短剣で自分の腕を切りつけた。
 私は息をのんで、その光景を見ていることしかできなかった。
 したたり落ちる紅い血が、水の入ったカップへと落ちてゆく。
 さっき、声だけは出さないでくださいと言ったのはこういうことだったの?

 これが占い?

 痛みを感じないのか彼は黙ったままだ。
 杖でその水をかきまぜ水が紅く染まる。
 そして何事もなかったように、彼は私にさっきと変わらぬ笑顔を見せた。

「もういいですか?」
 そう言って、コインを指さす。

「え、あ。はい・・」
 私は慌てて、コインを手渡す。
 彼はカップの上にそのコインを置き、目を閉じる。
 静寂が支配するその空間で私は声をかけることが出来なかった。
 しばらくして、彼は目を開きカップの上のコインを机に置いた。
 水は元通り透明に透き通っている。

「闇に・・・」
 彼は言葉を切った。
 言ってよいのかと迷ったような顔をしている。
「あの・・・?占ってくれたんじゃないんですか?」
「あ、ええ。・・・」
 言いにくそうに彼はゆっくりと息を吐き、不思議な言葉を私に継げた。

「これから、あなたは7つの星に支配されるでしょう。

 風はあなたを誘い、炎はあなたを留め、水はあなたを癒し、

 地はあなたを包み、光はあなたを弄び、闇はあなたを操る」


 ???
「あの・・・。よくわからないんですけど」
 と言うか全然わからない・・・。
「わかりやすく言うとね。誘惑には気をつけなさいって事」
 彼はにっこりと、子供にでも言うかのように私に伝える。
「さっきの言葉と全然違うんじゃないですか?」
「簡単に言っただけだよ。それより、占いはこれでおしまい。時間をとらせて悪かったね」
 彼は立ち上がり、私を扉へと案内する。
「いいえ。別に、そんな事はありませんから」
「課題がまだたくさんあるんだろう?これはちょっとしたお礼」
 と、なにやらノートぐらいの大きさの封筒を私に手渡す。
「ありがとうございます」
 反射的にお礼の言葉を言ってしまった。
 え・・・。私、この人に課題のこと言ったっけ?

「それじゃ、・・・・・・・。気をつけて」


 なんだったんだろう。あれは?
 誘惑なんてそこら辺にごろごろしてる。
 いちいち気をつけてたらきりがないだろうし。
 それより課題・・・。
 って、そう言えばこの封筒何??
 私は手に持っていた封筒を開いてみる。
 これ・・・。今日の課題の解答のような気がする。
 なんで、あの人がこんな物持ってるの???
 ま、いっか。写しちゃえ。


 これが全ての始まりだと言うことに、私はまだ気がついていなかった。

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