第227話 死神ちゃんと中二病③
「闇の炎を内に宿し者よ、さらなる祝福を得たいか」
「俺の封印されし第三の眼は、まだ解放するわけにはゆかぬのだ!」
「ならば、
そう言って、僧侶は忍者に支援魔法をかけてやった。神の祝福でも、翼でもない。ただの支援魔法だ。しかしそれを受けて、忍者のやる気のボルテージはどんどんと上がっていった。鬨の声を上げ、戦士を引き連れて敵へと突っ込んでいく忍者をぼんやりと眺めながら、死神ちゃんは表情もなく呟いた。
「何でだろう、胃もたれしてきたわ……」
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死神ちゃんが〈
「くうぅ……ッ! 俺のッ! 封印されし禁断の力が暴走しようとしているというのかッ! 体が重たく、そして苦しくなってきたぁ……ッ!」
* 忍者の 信頼度が 3 下がったよ! *
「だからな、物理的にのしかかられてたら、重たいのは当たり前だから」
死神ちゃんを背中にくっつけたまま腰を折って苦しそうに悶える忍者を、仲間たちは呆れ顔で見下ろした。そして戦士は彼の背中から死神ちゃんを引き剥がすと、そのまま抱きかかえ直してにこりと笑いかけた。
「久しぶりだな、死神ちゃん」
「おう、久しぶりだな。ていうか、さっき、中二病忍者だけでなくお前ら全員が、中二なセリフを吐いていた気がするんだが。気のせいか?」
死神ちゃんの質問に彼らはニヤリと笑った。どうやら彼らは、中二病に振る舞うのが大好きな忍者の影響を受け、彼の真似をするようになったらしい。
「仲間と世界観を共有するのって、楽しいなって。あと、ダンジョン探索時に〈なりきり〉をして楽しむ人がいるけれどさ、そういう人の気持がちょっと分かったっていうか。――なんていうか、気合いが入るんだよな」
「そうそう。それに、灰と隣り合わせの危険な毎日が、ちょっとだけ明るく面白くなるっていうか。呪文を中二なセリフにどう置き換えようかと考えるのも楽しいし。彼、一時期魔法使いに転職していたでしょう? だから、そのころから〈こういう呪文はかっこいい〉とか語り合ってて、今では私もバリエーションがとても豊富に……」
休憩するのに良さそうな拓けた場所に移動すると、僧侶や魔法使いが笑みを浮かべ、そのように楽しげに話した。死神ちゃんはお裾分けしてもらったお菓子を頂きながら、苦笑いを浮かべて相槌を打った。懐の広い、いい仲間を持ったなと死神ちゃんが忍者に声をかけると、彼は照れくさそうに俯いた。
本日は何をしに来たのかと尋ねてみると、彼らはギルドが行っているカカオ豆集めイベントのために来たと答えた。しかしながら、その目的は〈お世話になっている人へのプレゼント〉や〈仲間内で交換〉〈想い人のあの人へ〉というような目的ではないという。死神ちゃんが目をパチクリと
「リア充という輩はな、中二には天敵なんだとさ。だから、イベントを中止させるべく俺たちは誠意活動中なんだ」
「は? 中止させるって、どうやってだよ」
「俺らがダンジョン中のカカオ豆を集めきってしまえば、中止せざるを得ないだろう? だから、一生懸命集めているのさ」
「……普通に〈イベントを楽しんでる〉って言うよな、それは」
死神ちゃんが呆れて目を細めると、彼らは苦笑いを浮かべた。とりあえず、彼らは今後の探索活動のために、カカオを集めては魔力チョコへと交換しているそうだ。何でも、中二な冒険の仕方をしていると、何故か魔力の消費が激しいのだとか。
休憩を終えると、彼らは死神祓いのために一階へと戻りながら、カカオ集めも平行して行った。彼らが戦闘を行うたびに、パーティー内のここそこで中二なセリフが飛び交った。最初のうちは死神ちゃんも楽しそうにそれを眺めていたのだが、それが毎回となると、さすがに食傷気味に感じてきた。しかし、彼らが楽しそうだから良いのかなと思いもした。
しばらくして彼らは強敵と遭遇し、中二プレイをしている余裕が無くなった。経験を積み着実に強くなってきているとはいえ、まだまだ自分よりは弱い仲間達が傷つき膝をつくのが耐えられなかったのか、忍者は出し抜けに「力を解き放つ!」と叫ぶと装備を脱ぎ捨てた。
第三の眼の封印でも疼く左手でもなく、裸体を放った彼はやはり強かった。しかし、それでも敵は倒せず、彼は意を決するかのごとく唾を飲み込むと仲間達に伝えた。
「
以前、彼は自爆技を行使してうっかり仲間達を巻き込んでしまった。そのため、今回はそのようなことがないようにと宣言したのだ。敵に向かって走っていこうとする彼を止めると、仲間達は悲しげな表情を浮かべた。
「すまない、俺らがまだ不甲斐ないばかりに!」
「何、問題ない。
「いやでも、待って! 灰を集めるのが大変だから! 自爆技を使うなら、私が使うから! 私だって、もう、立派に中二散りできるんだからね!?」
忍者は目に涙を浮かべて必死に止めようとする仲間たちに頭巾の中から優しい眼差しを向けると、親指を突き立てた。
「お前たちには、先輩の亡骸を越えることで真の力に目覚めるという中二展開が待っているからな。そのためには、俺は散らねばならぬのだ」
そう言って、彼はアレをぶるんと言わせながら勢い良く仲間たちに背を向けた。そして雄叫びを上げながら、モンスターへと突っ込んでいった。
「秘技ッ!
過剰なほどの爆炎を巻き上げて、彼は散っていった。それをぼんやりと見つめながら、仲間たちは叫んだ。
「そのセリフ、間違ってないか!?」
「いや、間違ってないよ。あいつは、お前らとの
先輩が最後に過ちを犯したのではと愕然としていた彼らは、死神ちゃんの一言で感極まった。彼らは「忍者先輩! 大好きだーッ!」と叫び、嬉し涙を流しながら灰を一生懸命に集め始めた。
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死神ちゃんが待機室に戻ってくると、モニターを眺めていたピエロが不服気な表情を浮かべていた。どうしたのかと尋ねてみると、彼女は「中二度が足りない」とこぼした。死神ちゃんが怪訝な顔で首を捻ると、彼女は当然とばかりに言った。
「やっぱりさ、やたら描くのが面倒な魔法陣を描いて魔物を召喚したり、魔法を行使する際にたくさんの精霊に囲まれて加護を受けたりしないとだよ!」
「お前、そういう感じで魔女してたのか」
「あちしは完璧なボディを手に入れるべく、錬金にのめり込んでたからねえ。あまりそういうのは、使いはしなかったけれど。――でも、
無駄にエロティックな言い方でそう言うと、ピエロはさっそく待機室のソファーをどかしにかかった。どうやら、ここに魔法陣を描くつもりらしい。もちろんケイティーがすぐに止めに入り、ピエロは大目玉を食らった。そして、死神ちゃんも一緒になって怒られた。だが、死神ちゃんは新たな出動要請が上がったことを理由に、すぐにその場から逃げた。ピエロの「小花っち、ずるい! 爆発しろーッ!」という絶叫が待機室にこだましたのは、言うまでもない。
――――「五次郎のような、かっこいい怪獣が召喚されてきたら嬉しいな」と、ちょっとそわそわしていたというのは内緒DEATH。