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第二十一話 訪問者

 ここはどこだ? 自分の部屋ではないことはすぐにわかった。

「焔……」

 聞き覚えのある声がすぐ横から聞こえた。ゆっくり振り返るとお母さんがいた。

「よかった……あんまりお母さんを心配させないでよ」

 お母さんは俺の手を握り、涙ながらにそう言った。

「ごめん……」

 それから、医師から簡単な検査を受けた。幸い、レッドアイから受けた傷は浅いものが一つだけだったため、大して体に異常はなかった。ただ、体はものすごい筋肉痛で全身が痛かったけど。もう別段退院しても良かったが、念のためということであと1日だけ病院にいることになった。

 それから話を聞くうちに俺がどんな状況だったかわかった。何と俺が倒れてから目覚めるまで3日も経ったらしい。これはさすがに驚いた。3日も眠り続けるなんて本当にあるもんなんだなあ。

 その間、お母さんは朝から晩までずっとそばにいたらしい。退院したらしばらくは言うことを聞かないといけないな。クラスの人や先生も来たらしい。その中でも、龍二と綾香は学校が終わってから毎日来ているらしい。今日も来るらしい。

 どんな顔で会えばいいのか一瞬考えたけど、やっぱいつも通りでいいかという結論に至った。それから、お母さんは家に帰った。俺のいつもの姿を見て安心したらしい。そして、病室には俺一人になった。すっかり目がさえた俺はレッドアイとの戦いを振り返っていた。

 我ながらにしてよく切り抜けたと思うよ。本当に。だけど、本当にこれでいいんだろうか。レッドアイが捕まって、この話を終わらせていいんだろうか。ダメだよな。それともう一つ、最後に窓が割れたのは? 屋上にいた人影は一体?


トントントン


 そんなことを考えていると、不意にドアをノックする音が聞こえた。

「どうぞ」

 そう答えると、二人のスーツ姿の男が入ってきた。警察の人だった。俺が目覚めたと聞いて、飛んできたらしい。まず、二人は俺に深々とお辞儀をした。

「青蓮寺君、レッドアイを止めてくれて警察を代表してお礼申し上げます。本当にありがとう」

 ベテラン刑事っぽい人がそう言い、またお辞儀をする。

「目覚めて早速で悪いが、レッドアイと交戦したときの詳しい情報を聞かせてくれないだろうか?」

「ええ、大丈夫ですよ」

 それから約30分程度事情聴取を受けた。終わった後、俺はレッドアイの今の状況について聞いた。

「すまないがレッドアイは未だに意識を戻していないんだ」

 その言葉を聞いて俺は目を見開き、刑事さんの方へ振り向いた。それを見た刑事さんはフッと笑い、すぐに続けた。

「幸い、脳や体には何の以上も見つからなかったよ」

 とりあえず俺は胸をなでおろした。

「未だに目覚めないのはおそらく疲れからだろう。この一か月間やつは色々なところに出没した。更に、そのスパンは段々と短くなっていった。ほとんど睡眠はとっていないはずだ。それが君の一撃で一気に緊張感が取れ、いまだに眠っているんだろう。だが一体なにがやつをここまで駆り立てたのか……」

 少しの沈黙の後、俺は意を決してレッドアイから聞いた話をした。


 ―――「まさかやつにそんな過去があったなんて・・・」

 刑事さんたちは動揺していた。俺も聞いた時は驚いたからな。まだ動揺していた刑事さんに向かって、俺は続けた。

「確かに、レッドアイがやったことは許されたことじゃない。だけど、ここまで狂気的な犯行を考えたのは誰にも娘の言い分を信じてもらえなかったからじゃないかな。もし仮にあんたたち警察がちゃんとレッドアイのことを信じてやれば、こんなことをしなかったんじゃないのか」

 刑事さんたちは何も言い返すことができず、ただ下を向いていた。

「レッドアイはずっと孤独だったんだ。警察からも信用されない。頼れる人もいない。そして娘はひきこもってしまった。こんな状態でまともな考え方ができるはずがない・・・・」

 再び沈黙が襲う。そしてまた、その沈黙を焔が破った。

「刑事さん、一つだけ約束してくれませんか」

 すぐさま俺の方へ顔を向けた。その表情は真剣なものだった。その真剣な表情を確認した後、俺は伝えた。

「絶対に、この事件を解決してください……!!」

「……わかった!!……必ず!!」

 その後、刑事さんたちは立ち上がり、礼をして部屋を後にしようとした。ドアの取っ手に手をかけた時、俺はとっさに呼び止めてしまった。どうしても、レッドアイに言いたいことがあったからだ。その言葉を刑事さんに伝えると、フッと微笑み、病室を出ていった。

 久しぶりに熱くなってしまった。いや……熱くなることは多々ある。だけど、これだけ自分の想いを相手にぶつけるのは本当に久しぶりだった。おかげで変な汗をかいてしまった。ちょっと寝るか。どうせ寝れないけど。


 ―――トントン ガラガラ

「よっ、3日ぶり」

 俺がいつも通りに声をかけた先には龍二と綾香がいた。2人はその場で固まってしまった。

「焔……お前……」

 龍二がそう言いかけた時、綾香が俺の方へダッシュで向かってきて、そして勢いよく俺に飛びついてきた。

「焔~~!! よがっだよおおお!! 本当に心配したんだからぁああああ!!」

 正直、筋肉痛のせいで顔を歪めそうになったが、そこはグッと堪えた。そして、俺の手は自然と綾香の頭の方へ伸びていた。綾香がひとしきり泣き終わるまで俺は優しく頭を撫でた。

 2分ぐらい経ち、ようやく綾香も落ち着いてきた。そこからは3人でいろんな話をした。3人でこんなに長く話したのは何年ぶりだろうか。話している内容は本当に他愛もないものだった。だけど、こんなに笑って話をしたのは本当に久しぶりだ。時間はすぐに過ぎ去ってしまった。そろそろ2人が帰る時間になった。

「じゃー私たちそろそろ帰るね」

「ああ」

「あと、本当にありがとね。助けてくれて」

「約束だからな……」

「……うん!!」

 綾香は満面の笑みを浮かべた。やっぱり、綾香も覚えていたか。別れを告げた後、足早に綾香は帰ってしまった。

 龍二も帰ろうとドアに向かって歩いている最中、急に立ち止まり、俺の方を向かず、そのまま言った。

「やっぱり、焔は昔から何も変わらないな。絶対に友達を見捨てない優しいやつだ……ちょっと不愛想になっちゃたけどな!」

 最後の一言が余計なんだよ。まあ、なんとなく気持ちはわかるけど。龍二が病室を出ようとしたとき、俺も言い返した。

「お前も昔から俺の一番の理解者で、最高の相棒だよ……図体はでかくなっちまったけどな!」

 龍二はフッと笑い、再度別れを告げて、病室を後にした。

 うん。やっぱり恥ずかしいな。本音を言うのは。

 一人になった病室。もう空は暗くなり始めていた。一気に力が抜け、ベッドに後ろから倒れこむ。

 もう寝ようか。どうせ寝れないけど。そんなことを思いながら、俺は目を閉じた。

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