バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

生い立ち5

 2階の一番奥の部屋が豪族の頭の部屋だ。獅子の言う通り隣の部屋に眠り煙を流し込む。1人は裏木戸で逃げ道を確保して、2人は1階に残り見張っている。狗と年長の鴉が息をひそめて頭の部屋を覗き込む。布団が敷かれていて未明の眠りの中にいるようだ。
「よし」
 獅子の声が後ろでする。獅子は3番手で入るらしい。鴉が右側に狗が左側に分かれ剣を抜く。だが布団が一人が寝ている割には盛り上がっている。狗は鴉を止めようとしたがもう剣を突き立てようとしている。同時に左右から突き刺すはずだが鴉が忘れている。獅子の声も早かった。
 布団が急に盛り上がった。一瞬何が起こったのかわからない。黒い影が飛び出してきた。全裸の小柄な女、いやくノ一だ。剣が鮮血を浴びている。鴉の体が空気が抜けたように倒れる。くノ一の剣はそのまま狗に向かっている。その横で獅子が剣を突き刺す。いつの間にか起き上がっていた裸の頭が剣を構えているのだ。どうも入口に何か仕掛けがあったのだ。
「きえ!」
 金属音のような声とともにくノ一が走り抜ける。狗の横腹が血を噴いた。強い。獅子も突きを入れたが頭が入れ替わり下から剣を撥ねる。左目から血を噴いた。ここはただの豪族ではなく伊賀の忍者だ。今まで多くの死者を出してきたのは依頼主が相手のことを伝えてなかったからだ。
 くノ一は構え直すとさらに踏み込んでくる。狗は下がるところがない。それがどう思ったのか壁に向かって走る。これにはくノ一も唖然としたようで一瞬見詰めている。直角の壁を走り登る。これは狗の木登りの技だ。足は婆の頃から鍛えられている。くノ一の剣が壁に突き刺さる。狗は反転をしてくノ一の背中に降り立ち同時に背中を剣が突き抜いている。
 その間獅子は防戦一方になっている。狗はくノ一の生温い血を浴びて妙に冷静になっていた。剣を抜くとその勢いで獅子を追い詰めている頭に向かって飛びかかる。それで獅子は串刺しになるところを僅かに躱した。頭は狗の剣を躱した。獅子は左目を失って平衡感覚が薄れている。次に一手は頭に容易に躱されて変わりざまに肩を切られた。
 狗は完全に獅子の影に回った。この瞬間狗は頭の視線から消えたはずだ。獅子はよろめいて構え直している。それでも上段から振り下ろす。狗はその下から猛烈な勢いで頭に飛び込む。頭の腹を完全に突き抜いた。だが頭の剣が狗の肩に。
「逃げましょう!」
 獅子の腕を引っ張ると階段を駆け下りる。すでにお婆の毒煙が充満している。やはり屋敷の下忍が出てきたのだ。床に見張りの2人が倒れている。庭から裏木戸に走る。ここにも串刺しにされた味方が木戸にもたれて死んでいる。
 引き込みのくノ一は生きていたようだ。藪の茂みから合図を送る。そのくノ一が走り出して、獅子と狗は無我夢中で追いかける。





しおり