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今回の珍客もアホ!【3】


「いや、簡単でしょ。カーズもリファナ嬢が好きなんでしょ?」
「!」

 うわ、分かりやすく顔赤くしたな。
 ……いや、おそるべきはリファナ嬢かも。
 アレファルドのみならず、側近候補たちをこうも分かりやすく骨抜きにして……。
『聖なる輝き』を持つ者である彼女は、アレファルドだけを生涯のたった一人に限定する必要もない。
 他の奴ら、カーズ含めスターレット、ニックスを『愛人』にしても誰も咎めないのだ。
 遺伝はしないが、それだけ『竜の愛し子』は自由。
 ならばなおの事、選ぶ権利のない者たちはその中で潰し合う。

「スターレットも、ニックスも」
「……そのようだな」
「それをカーズはどう考えているの」
「ど、どうって、そんな事は……仕方ないんじゃねーのか? 彼女ほどの魅力では! 面白くはないが、俺だってリファナを想う気持ちはアレファルド殿下にも負けていない! リファナが俺だけを見ずとも構わねぇ! 俺はリファナを守る!」

 アホすぎて笑える。
 やば、面白すぎて半笑いになった。
 めっちゃ睨まれてしまった。

「なにを笑ってやがる!」

 ここでようやく立ち上がるカーズ。
 気絶を免れた兵たちは「ヒッ」と声を上げる。
 その声に、俺が『竜の爪』を使う事を思い出したのか頰が引きつっていた。

「心配しなくても使わないよぅ。アレ結構疲れるから」
「ぐっ……!」
「まあ、つまりさ……お前らみんな恋敵じゃん? 思わないの?」
「?」

 目を細める。
 なんだ、その顔。
 分からない、とでも?
 そんなはずがないだろうに。
 それとも、そこまで思考を放棄した単細胞だったのか?

「『他の奴がいなければ、リファナは俺だけを見てくれるのに……』とか」
「……っ!」

 ギリリ、と歪む顔。
 ほら見た事か、やっぱり考えた事があったんじゃないか。
 特にカーズは単細胞だから安直にそんな事考えてそう。
 でも単細胞だからこそ、それをしないのかも。
 リファナ嬢が悲しむ。
 単純な理由だけで、自分を押し留められる男なんだろう。アホだから。

「ば、馬鹿な事を! 確かに他の奴らがいなければ、リファナと過ごす時間は増えるだろうが……俺たちの想いは純粋に彼女の幸せを願うものだ! 彼女がアレファルド殿下を選んだのならば素直に祝福し、二人を守る。それが騎士としての俺の使命だ!」
「ご立派だね。他の二人も同じだとなお、ご立派なんだけど」
「なにぃ?」

 カーズは小賢しく頭を使い、自分では動かないスターレットとは相性が悪くて最悪だ。
 このように自分で動き回る。
 行動理由は分かりやすい。
 スターレットもリファナ嬢と出会ってからは彼女中心。
 あとニックスもね。
 あれはあれで腹の中がどす黒くて関わりたくない。
 ただ純粋に愚直なカーズと、リファナ嬢のために誠心誠意を尽くしていたアレファルドはまだいいんだが……。

「残念だけどスターレットとニックスは恋敵なんて減ればいいと思ってる。アレファルドは難しいから、まず手始めに狙うのは頭が一番弱いお前だろうな」
「だ! 誰の頭が弱いだ!」

 自覚ないの?
 いや、あればここまでこないか。

「じゃあ面倒だけど状況を整理して教えてあげるね」
「っ……!」

 これには兵士たちも顔を上げた。
 自分たちが一体なにに巻き込まれているのか、彼らには知る権利もある。
 ……大変残念な事態に巻き込まれておられて、告げるのが申し訳ないったらないんだけど……。

「まず根底はそこだ。スターレットとニックスは最初に蹴落とす標的にお前を選んでる」
「だ、だから……その根拠……」
「お前がここにいる事がなによりの根拠だよ」

 お馬鹿め。
 しかし、そう言っても信じないのは今までのやりとりで十分分かった。
 なので、面倒くさいが一つ一つ丁寧に教えてやらねばならない。
 まず、事の発端は当たり前だが三月の卒業パーティーだろう。
 こいつらとリファナ嬢との出会いまで遡ってもいいのだが、俺の物悲しい苦労話とセットになるので割愛する。
 アレファルドがリファナ嬢との婚約を行うにあたり最大の障害となるのは婚約者のエラーナ嬢。
 卒業パーティーに婚約破棄を大々的に行い、自身の婚約者をリファナ嬢に変更すると宣言したアレファルド。
 それを側から手助けし、祝福した三馬鹿。
 スターレット、ニックス、カーズ……つまりこいつらである。
 おそらく計画的犯行であったその件は、スターレットとニックスが中心になり諸々の手続きを行ったと思われるが……ここで奴らの視点に切り替えてみるとどうなるかお分かりだろうか?
 そう、冗談ではないのだ。
 相手がアレファルドでは逆らえないが、三馬鹿は三馬鹿なりにリファナ嬢を我が物に、と考えていたに違いない。
 しかしそこはアレファルドの方が一枚上手だろう。
 地位と権力で三人を操作し、ある意味力づくで押さえつけてあの一件を成功させた。
 成功させてしまったからには三馬鹿にはもう他の恋敵を減らす以外に、彼女との時間をより長く確保する術はない。
 特にスターレットの執着はいささか気持ち悪いレベルに達している。
 アレファルドの婚約者となったあとも、リファナ嬢にドレスを贈っている話を……それも国費に手をつけてまでそんな事を行なっていると聞けば分かりやすいだろう。
 まあ、普通にキモいよな。
 で、それだけどっぷり気持ち悪いくらいリファナ嬢にハマってるスターレットの最終目標は、当然リファナ嬢を自分の妻として独占する事だろう。
 相手がアレファルドだとて、ドレスを贈っているのを思うと諦める気がゼロだ。
 カーズのように『騎士として彼女を守る』などという崇高な志も一片も持っていないと言えよう。
 そんな男がやらかす事は簡単だ。
 なので今回の件をスターレットの視点から見てみると、こういう事になる。
 簡単に始末出来るところから始末する、ってね。
 今回の『ダガン村』の件はカーズの始末と自分のプライドを保つ、その両方を同時に行える絶好の機会だったのだ。

「……ど、どうやってそんな事を……」
「多分スターレットも、最初はここまで過激な事は考えてなかったと思うよ。一枚噛んできたのはニックスだろう」

 俺でさえ気づいていたのだ、ニックスはスターレットとカーズの相性の悪さにはとうに気づいていたはず。
 時折あの二人を敵対させるような発言も多かった。
 腹が黒いというか性格が悪いというか。
 可愛い顔していう事やる事がエゲツない。
 なのでスターレットの根性なしに、ニックスは自分の情報網を使ってこう囁いたのだ。

 ——『緑竜セルジジオス』の国境にエラーナ嬢が住んでいる。彼女にすべての罪を背負って貰えばいい。

 スターレットなら、それだけの情報で自分の失態もカーズの始末も……そしてエラーナ嬢とあるいは俺の事も全部同時に片をつけられる浅はかな方法を思いついたのだろう。
 アホのカーズを騙して失態の証であるダガン村の生き残りを、エラーナ嬢に操られている事にして抹消する。
 ついでに裏切り者の俺を始末出来ればアレファルドに褒められる、とか?
 なんにせよ他国民となった俺やエラーナ嬢を害すればカーズは無事では済まない。
 唇が弧を描く。
 ああ、まったく……スターレットも頭はいいんだけど馬鹿というか……。

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