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氷雨

 夜中にぽろんから明日の朝6時半に関空に立つと連絡があり、私もまとめていた鞄を持ってタクシーに乗せてもらうことにした。車の中で携帯で東京着の昼の便の予約を入れる。一人もの身軽さは二人の荷物でよく分かる。朝の弱いぽろんは車の中でずっと眠っている。
「どちらに?」
 空港の橋を渡り始めた時ついつい眠っていた私も運転手に声をかけられて目を覚ました。
「新婚旅行ですか?」
「国際線に」
 と言った私にぽろんが笑っている。
「朝は?」
「まだだ」
「最後の食事をしましょう」
 ガラス張りのレストランに上がってビールを注文する。小瓶がないので大瓶で注ぎ合う。
「もう春なのに雪が舞っているわ」
「これ例の恥ずかしい奴。コピーを取るのじろじろ見られて変態みたい」
 ビデオの上に国際郵便の裏が切り取ってある。
「落ち着いたら飲みにおいでよ」
「ハノイの町かいいな」
「お互いどんな人生になるのかしら」
「氷雨に変わったな」
 私はあの夜の氷雨を思い出していた。
 人は偶然に出会い偶然に別れる。

                (完)

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