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第107話

「まだ生きていた……!?」

 ナオのエネルギーカノンが発射される直前、ルシーナに気づかれてしまう。

 もう避けられない状況だったが、ルシーナは慌てることはしなかった。

 一度撃った以上、エネルギーカノンが発射されることは、もうないと思っていたのだろう。だが、

「なに!?」

 エネルギーカノンの銃口から、強力な光が放たれた。

 そう……充填したエネルギーは、まだ残っていた。

 先ほど撃ったものは、防がれることを予想し、発射出力を二〇パーセントに抑えていたのだ。

(……八〇パーセント……あれば……A.E.バリア、でも……防げない……!)

 発射された光線は、一瞬でルシーナに到達し、彼女の左半身を穿ち焼いた。

「――――…………!?」

 ルシーナは右目を見開いたまま、墜落していく。

「ルシーナ!」

 それを二翼のアーティナル・レイスが抱きとめ、ナオを一瞥すると、空の彼方へと飛び去って行った。

(……勝……った…………)

 敵が去っていったことを確認したナオは、辛うじて開けていた目を閉じた。それから、しばらくして……。

「……オ! ナオ!」

 意識を失っていたナオの聴覚ユニットが、声を拾った。

(ダレ……ノ、声……?)

 思い出そうとするが、記憶データにエラーが発生している。ルシーナの攻撃で、メモリが破損したせいだ。

 それでも、何とかデータを読み込み、それが澄人の声だとわかると、ナオは左目をゆっくり開けた。

「ぁ……ぁぁ……スミ、ヒト……」

 澄人の姿と、静かになった空を見て、彼女は安堵の笑みを浮かべた。

「ナオ、よかった……! 今、応急処置をしているから」
「なおす……?」

 穴が空き人工血液が流出しているナオの右目から、何本かのケーブルが出ていて、それは澄人が持つ端末に繋がっていた。

 それを操作している彼の手は、ナオの血が大量に付着していた。

「スミヒト……手……汚れて……」
「ナオ、そのまま喋っていて。意識がなくならないように……!」
「しゃべ……る……」

 ナオは、読み取れる記憶データをメモリから拾う。

(ああ……そう、でした。敵……倒して……私……)

 思い出すことができた。しかし、メモリに攻撃を受けたナオに残された時間は、もう長くはない。 

「澄人……処置を……止め……。私は……もう……」
「嫌だ! 絶対に治す! 治すから!!」

 澄人は必死に手を動かす。けれど……。

「……いいんです。わかって、いますから……。自分の、状態……は……」
「諦めないでよ! 頼むから、諦めないで!!」
「ありがとうございます……でも、あなたも……わかっている……のでしょう?」
「くそっ……! なんで……なんでなんだ! なんで僕は、また……」

 澄人は派を食いしばり、拳を地面に叩きつけた。

「自分を……責めないで、ください。これは……私達が、自分の意志で決めたコト……デス。澄人を守りたいから……死んで、ほしく、ナイカラ……」

 ナオは左耳部のユニットから、マイクロメモリを抜いた。

「この……中には、私……ワタシの、経験データが……入ってイマス。澄人と姉さんの……子供達の……役に立つ……はずです……」
「ナオ……」

 澄人にマイクロメモリを渡すと、ナオの視界にノイズが走り始めた。

「私は……何もデキナイママ……終わりを、ムカエルと……思っていました。デモ……そうなる前に、あなたに……会うことが、デキタ。とても……シアワセ……デシタ」
「僕も……僕もだよ。君と会えたから――君のおかげで、立ち直れた。君と会えて、本当によかった……!」
「泣いちゃ……ダメですよ。涙は……姉さんと、会った時のために……」

 ナオは、澄人の涙に指で触れた。

「スミ……あ……」

 データが消え始め、澄人の名前が思い出せなくなっていく。

「ス、ミ……ヒト。こんなコト、言っ……て……コマ、る……かも。でも、イわせ……クダサイ」
「何? 言って……!」

 澄人は、ナオの右手を握った。

「ワタ、シ……アナ…………アナ、タのこと…………ダイスキ、でした。愛して……イマス」
「ナオ……」
「だッ……から……ダカラ……生きて……。コドモタチを……タイセツに……。かならず……ネエさんを、ミつけ……クダ……サイ……ね……」
「約束する……約束するから…………死なないでナオ! 死んじゃダメだ!」

 澄人は手に力を込めて言う。けれども、ナオの耳はすでに聞こえておらず、目も見えなくなっていた。そして……

「……スミ……ヒト……だい……すき…………」

 その言葉の終わりと共に、ナオの手から力が抜け、彼女の目が閉じた。

「ナオ……? ナオ! 目を開けるんだナオ! ナオ!」

 澄人は、ナオの体を抱え揺さぶるが、彼女が目を開けることはなかった。

「……ナオ…………ナオおおおおおおおおーーーーーーーー…………!!」

 星が見え始めた空の下。ナオは澄人の腕の中で、その機能を停止した……。

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