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第十四話 逃げ場なし

 俺の放った飛び蹴りはレッドアイの胸元に直撃した。
 レッドアイは教室の入り口から廊下に飛び出し、ロッカーに激突し、倒れこむ。
 着地のことなど考えてなかった俺は背中から床に衝突したが、すぐに起き上がり更に追い打ちをかけようとレッドアイの方を睨んだ。


 しかし、レッドアイもすでに起き上がっていたが、ダメージがあったようで胸元を抑えていた。
 そしてレッドアイは俺をけん制するかのように、ナイフを向けていた。


 さっきとはまるで別人みたいに頭が働く。
 恐怖もない。
 冷静だ。


 ここで焔はある異変に気付いた。


 なんで後ろの扉から皆逃げないんだ。
 さっきまでは周りが見えていなかったが、ようやく皆の声、扉をたたく音が聞こえてきた。


「なんで開かないんだよおお!!」
「ちゃんと鍵開けてんのかよ!!」
「開けてるよ!!!」
「早く開けてよおおお!!」
「今やってんだろ!!!」


 ドアが開かないだと。
 さっきまでは全然開いていたのに・・・まさか!!
 俺はまたレッドアイを睨みつける。
 仮面で顔は見えないが、目だけで分かった。
 

 完全に笑ってやがる。


「おいお前、ドアに何をした」


「……ちょっとした細工だ。どれだけ束になっても開かないだろうぜ」


 初めて聞いたその声は低くて威圧感のある声だった。
 次にレッドアイは声を張って言った。


「だが、もしもドアを壊して逃げようとするやつがいたなら、その時は……どうなるかわかってるよな?」


 その後、教室から騒音は消えた。
 みんなどうなるかわかったからだ。
 この脅しを聞いてドアを開けようとするやつはもういないだろう。

 
 これで退路が断たれた。
 後ろの扉もダメ。こっちにはレッドアイがいて、とても突破することはできない。
 俺の左側にある非常階段には鍵がかかっていて、開けている間に確実に刺される。
 更に、今この棟には俺たちしかいない。今いる棟は1・2組と他の移動教室用の教室。
 渡り廊下を渡った先に3・4組の教室がある。
 隣の2組は移動教室で別の棟だし、3年の1・2組は体育、1年は武道場で学年集会、おまけに先生の見回りはこの時間はない。
 更に窓を開けて叫んだところで、周りは森だ。
 誰も気づかない。
 こいつ……この機会を狙ったのか?
 
 
 だったら携帯で助けを呼ぶしかない。
 俺は口を開け、『携帯で助けを呼べ!!』と叫ぼうとした瞬間、教室から絶望感に満ちた叫び声が聞こえてきた。


「なんで圏外なんだよ!!!」
「俺のも圏外だ!!!」
「私のも!!」
「終わった……もう終わりだ」


 俺も急いでポケットに閉まっていた携帯を確かめる……圏外だ。
 俺はレッドアイを強く睨みつける。
 ……笑ってやがる。


 くそ!! ここまで用意周到に準備されてんのかよ!!
 どうする。
 助けも呼べない。逃げ場もない。
 どうやってこの状況を打破する。
 ……そうだ! もう一か所だけ逃げれる場所があった!


「誰か窓から飛び降りろ!!」


 俺のこの言葉を聞いて教室がざわめき始めた。


「おいここ2階だろ!!」
「男子行ってよ!!」
「無理無理!! 怖いって」
「なら私たちがどうなってもいいって言うの!!」


 やっぱりこうなるか。
 そりゃ2階から飛び降りるのは怖いに決まっている。
 頼むから誰か……


「俺が飛び降りる」


 この声は……龍二か!


「頼んだぞ龍二!!」


「任せろ焔!!」


 窓に向かって走って行く音が聞こえてくる。
 そして、龍二は窓を開けた。


 だが、俺はここである違和感を感じ取った。
 レッドアイがまったく止めに入らない。
 まだダメージが回復しきっていなくとも、脅したりすることはできるはずだ。
 それをしない理由はたった一つしかない。
 こいつがこの行動パターン読んでいたからだ。
 だとしたら……
 俺はレッドアイの方を向きながら、龍二に叫んだ。


「龍二待つんだ!!」


「どうしたんだ焔!?」


 すぐに返事が返ってきた。
 よかったまだ飛び降りていないな。


「飛び降りる前に地面をよく見てみろ。何か変なものはないか」


「……特に変なものはないぞ」


 変なものはないか。
 だったら考えられることは落とし穴がしかけられているか、飛び降りている途中に発動して、体が動かなくなるような何かが地面に仕掛けられているかだな。


 一つ目の落とし穴が仕掛けられているという考えは除外してもいいな。
 ここは体育に行く際によくショートカットとして通るからな。
 実際に今日も通ったし。
 だったら考えられるのは2つ目の考えだな。
 発動条件は自動か、手動か。
 手動だとしたらレッドアイがなにかボタンみたいなものをもっているはずだが、さっきまでの龍二の行動を見ても一切変化はなかったし、俺からまったく目を離していなかった。


 だとしたら自動か。
 センサーか何かを壁に貼り付けて、そこを通ったら地面から何か体を動けなくするようなもの、例えば無数の針が地面からでてくるとかそんな感じか。


「龍二何でもいいからそこから落としてみろ」


 少し間をおいてから返事が返ってきた。


「わかった。じゃー……リュックを落とすぞ」


「ああ、そうしてくれ」


 少ししてから叫び声が聞こえてきた。


「うわああ!!地面から無数の針が出てきたぞ」
「どうなってんだよ!!」
「じゃー私たち逃げ場ないってこと!?」
「ふざけんなよ!!」


 やっぱりか。
 龍二が飛び降りる前に気づけてよかった。


「ほお、お前良く気付いたな」


 レッドアイが俺に向かって話しかけてきた。


 俺は下手に見られないように強気に返した。


「お褒めに預かり光栄だよ。レッドアイ」


「小僧、これで分かっただろ。お前らに逃げ場はない……どうする?」


 どうする青蓮寺焔。
 もう誰かに助けることはできない。
 あと約50分。
 どう切り抜ける。


 ……俺がやるしかないか。
 綾香を守るにはこれしかない。


 俺は教室を出て、非常階段を背に向けた。
 それと同時にレッドアイも移動し、俺とまた対峙する形になった。


「まさか隙をついて非常階段から逃げようって魂胆か? なら止めておけ。痛い思いをしたくなかったらな」


 俺は笑って応えた。


「違うよ。教室を背にしていたら他のやつらも巻き込むかもしれないからな」


 レッドアイの口調が変わって、威圧感が増した。


「おい小僧、そりゃもしかして俺とやろうってことかよ」


 俺は構えて言った。


「ああ、そういうことだよ。これしか方法はないみたいだからな」


 俺は覚悟を決めた、というかもう決まっていた。
 綾香の笑顔を見た時から。

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