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第九話 昔話

 この町には4つの小学校があった。
 しかし、今は3校しかない。


 俺たちが通っていた小学校は町の中でも特に、子供が少ないところだった。
 俺たちが最後の卒業生だ。
 クラスメイトはたったの6人。
 俺と龍二と綾香はここの卒業生だ。
 他の3人は男子1人と女子2人。
 みんな中学に上がる段階で転校していった。
 当時は、子どもが携帯電話なんて持っていなかったから、今どこで何をしているかわからない。
 

 龍二は昔からまったく性格も体型変わってないが、綾香は今とはぜんぜん違っていた。


 今の綾香はとても明るい性格だ。
 友達も多いし、誰とでも分け隔てなく接する。
 更に可愛さも相まってモテるし、女子からもとても人気がある。


 だが、昔は暗い性格でいつもうじうじしていた。
 そのせいで、女子には嫌われていた。
 休み時間はずっと座って放課後はすぐに家に帰っていた。
 そんな綾香に見かねて俺は一度声をかけた。


 ―――「綾香ちゃんっていつも一人だよね。一人でいるの好きなの?」


 急に話しかけたせいか、少しビクッとしてから小さい声で話し始めた。


「別に……す、好きじゃ……ない。綾香といたら、い、いらいらさせちゃうから」


「だから一人でいるの?」


 綾香は小さくうなずいた。


 それを見た焔はニコッと笑い綾香に言う。


「だったら俺らと遊ぼうよ! 一人でいるより絶対楽しいよ!」


「で、でも……」


「いいから行こうぜ!」


そう言って、綾香の手を取り、多少強引ではあったが、近くの森まで行き、龍二たちと合流して一緒に遊んだ。



 ―――それ以降、俺は綾香と仲良くなった。
 綾香はいつも俺たちの行くところに付いてくるようになり、毎日のように遊んだ。
 森や山を探検したり、秘密基地を作ったり、近くの公園で一日中遊びまわったりしていた。
 綾香の暗い性格は小学校の間に治ることはなかったが、俺たちと遊んでいるときはよく笑顔を見せるようになった。


 遊びの中で最もよくやっていたのは、チャンバラごっこだ。
 森や公園で、自分の好みの木を見つけてその木を剣や槍にみたてて、よく戦っていた。
 龍二は長い木が好きだったな。
 それで遠くから突いてきたり、ぶん回したりしていた。
 せこい性格してるよ。
 

 今は転校してしまった男の子、名前は……確か冬馬(とうま)だったかな。
 冬馬は二刀流だった。
 ずーっと、ひたすら連打してきて、まったく攻撃させてくれなかったな。


 さすがに綾香は参加しなかったが、いつも楽しそうに見ていた。


 俺はちょっとだけ短くて、振りやすい木の棒を使っていた。
 攻めるよりも、俺は守ったり、攻撃を避けたりする方が好きだった。


 だからか、最初は3人で戦っていたが、最終的には毎回2対1になっていた。
 それでも俺は負けることはあまりなかった。
 

 この時から龍二は毎回言っていたな。
 焔にはすごい「武器」があるって。
 その「武器」がなんなのかは教えてくれなかったが。
 

 ただ、今思えば、龍二が言っていたその「武器」というのは、反応速度のことだろう。
 俺はこの反応速度のおかげで二人の攻撃を同時にさばけていた。
 そして、今回のサッカーの試合でもこの反応速度のおかげでシュートを止めることができたのだと思う。ただ、最近はこの「武器」を使うことなんてめったにないがな。

 更に、龍二が俺のことを評価しているのにはまだ理由がある。

 それは小学4年生の頃に起こったある出来事が原因だ。

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