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第五話 ホイッスルが鳴る

 ―――キーンコーンカーンコーン


 2限目が終わった。
 さて、3限目の授業は……あーあれか。


「ほむら、次の授業なんだっけ?」


 龍二があほそうな面で聞いてくる。


「体育だよ、体育」


「あ、そうだったな。で、今日は何をするんだ?」


 俺はため息をつきながら答える。


「サッカーだ」


「げっ、まじかよ!」


「はあ」

 同時にため息がでた。


 それとは裏腹に女子たちはキャッキャ騒いでいる。

 
 まーだいたい察しがつくだろ。


 ―――重い足取りでグラウンドに向かった。


 男子はグラウンドでサッカー。
 女子は体育館でバスケだ。
 体育館はグラウンドの真横にあるから、いつも女子たちに見られる。
 ま、女子が見てるやつはたった一人だけどな。

 体育は2クラス合同で行う。
 グラウンドに入ると、運動神経高い系のやつらがサッカーで遊んでいる。
 当然あいつもいる。


「さ、俺らは並んどこーぜ、ほむら」


「ああ」


―――「今日はクラスでチームを組んで、試合をしてもらう。5分間それぞれのチームでフォーメーションを決めてから、すぐに試合を始める。幸運にもそれぞれのチームにはサッカー部がいるからな。仕切ってやってくれ。じゃ、かいさーん」


 チームで集まると早速、誰かさんがふてぶてしい態度で口を開いた。


「俺と健司(けんじ)巧人(たくと)で攻めるから、後は適当に守ってて」


 おいおい、サッカー部のエースとあろうものが、なんじゃその作戦は?
 言いたい気持ちグッとこらえた。
 俺もどうせろくな作戦しか立てられないからな。


「おい、蓮、ゴールキーパーはどうするよ」


 健司が蓮に聞いた。


「あー……そうだな~」


 下を向いて、口に手を当て、にやけ顔を隠している。
 なんか嫌な感じがするな。
 そんなことを考えていると、蓮が満を持して口を開いた。


 「ゴールキーパーは……ほむらだ」


 予感的中だな。


「は? 何でほむらなんだよ」
「そうだよ! ほむらには悪いがゴールを守るには小っちゃすぎるよ」


 ごもっともな意見だし、俺もそう思う。


「だからいいんだよ! 抜けられたら、絶対ゴールを決められる。この緊張感がいいんだよ! そしたら皆必死にボール追いかけるだろ。それにここにはエースがいるんだ。そう簡単にゴールには行かないねーよ」


 屁理屈ばかり言いやがって。
 けっこうカチンときたな。
 

「ああ、俺がゴールキーパーで良いよ」


「決まりだな」


 ―――5分が経って、おのおの自分の位置につく。


 一応ゴールキーパーには手袋が渡される。
 気持ち悪い感触だ。
 手袋をはめてると、龍二が寄ってきた。
 龍二は背は高いほうだが、少々太っているから、だいぶ後ろのほうを守らされている。


「しかし、本当に蓮には腹が立つな! おい焔、絶対にあいつの思い通りにさせるなよ!」


「了解」


 ―――「あれ? 綾香、ゴールキーパーほむら君じゃない?」


「あ、ほんとだ。焔だ」


「えー。ほむら君絶対守れる気しないんだけど。体育とかで、良いところ見たことないし。あと、小さいし」


 綾香はまっすぐ焔を見つめながら呟いた。


「うーん、案外適任だと思うんだけどなー」


「えっ? 綾香何か言った?」


「ん? 何でもないよ」


―――「よし、じゃーそろそろ始めるからなー」
 

 そう言って、先生は首から下げたホイッスルを鳴らした。

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