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相席居酒屋


「いやあ~なんか、今日は大変だったらしいぜ?」
「何がだ?」
「なんか25階層の階層ヌシが大暴れしてたらしく、誰も抜けられなかったんだとか」
「へぇ~」

 ダンジョンの閉鎖時間になると、ダンジョンの外には冒険者たちがわらわらと出てきていた。それに混じってダンジョンマスターである睦月ヒカル一行も居た。

「ふぅ~ なんとか今日もやり過ごしたけどさ。進展ねーよなあ」
「そうね。お荷物が一人増えたしね」
「お荷物?」
「そうよ。デカ乳の女神」

 ヒカル、ディアーナ、エレナの少し後ろにフィオリナもついてきていた。

「いやいやいや~フィオリナたんは俺の嫁! つまり正妻って感じだから、どっちかっていうとお荷物なのは……」
「ディアーナさんってことデスよね」
「んー、そうなる……かな。あっはっはっは」
「っておい! 燃やすぞ!」

 4人は昨日にも増して重い足取りで町への道を歩いていた。

「しかしだ……どーすっかだよなあ~マジで」
「そか……もうひとり増えたのに宿屋のベッドはふたつだもんね」
「いや、それじゃなくて……ってそれも問題だが……」
「そもそも宿代がないデス」
「それだ……今日も収入ゼロ、ナッシングアットオール! なんだよなあ~」
「そ、そうか! 酒代も……」
「あるわけない!」
「そ、それは深刻な問題ね」

 その時、ひとりのずんぐりとした男が目の前をフラフラと歩いているのが見えた。
 
「……ったくチキショウメ! 戦いの途中で消えるとかあるか? ワシをなんだと思ってやがる! 炎の化身様だぞっ……てんだ……」

 男はなにやら独り言をブツブツと言っている。

「あのさあ~ディアーナ。ダンマスも外に出されるんだよな? ダンジョン閉鎖されると」
「そね」
「でさあ~。そすっとどーなるの? 姿とか。ほら25階層のダンマス、イフリート? あんな姿じゃ目立つよな」
「人間の姿になるのよ。じゃないと目立つからね。ってもアンタはそのまんまだけどね」
「なるほど……」

 ヒカルは目の前の男に近づいて行った。

「オヤジさん、ダンジョンでなんかあったんですか?」
「ん? オヌシ冒険者か?」
「ええ、そーなんですけど、今日は25階層のボス! イフリートの姿に圧倒されてしまって散々だったんですよー。いやあイフリートさんは強くて偉大で格好が良かったですのでねえ」
「そ、そうか?……そ、それほどでも……ないがなあ~あっはっはっは」
「いやいや、もうイフリートさん最高っすよ」
「そうかそうか。オヌシ見どころがあるなメシでも食うか?」
「ええ……それが俺、今日散々でして……お金のほうがちょっと……」
「気にするな気にするな~今日は怒りに任せて冒険者どもをバッタバッタと……じゃなかったモンスターをたくさん倒したから金なら気にするな! ついてこい!」
「ハイ! よろしくお願いします! ですけど良い店知ってますんで、案内します!」

 こうして男と行動をともにすることになった。

「ちょっとヒカル~何考えてるのよ。見知らぬ男に関わっちゃダメでしょ」
「ふんっ おバカの女神は黙ってろ。それにだ、メシにありつけるぞ。そしてお前らうまくやれば酒にもなあ」
「あ、なる」
「おじさま~私たちもお供してよろしいでしょうか~」

 男は最初ディアーナを見て嫌そうな顔をした。が、

「あ、あのぅ……わ、私も同行して、よ、よろしいのでしょうか?」

 フィオリナがそうつぶやくと、とろんっとだらしない顔になり、OK! のポーズをした。

「うむ、さすがは俺の女神フィオリナたんだぜ。甘え上手!」
「そ、そんな……つもりでは……」

 かくしてヒカルがオヤジを連れてきたのは『盗賊居酒屋』だった。すかさずエマが寄ってきた。

「あ! あんたたちねえ~お金あるの?」
「まあ待てエマよ。今日は金づる……じゃなかった、良客つれてきたからさ。金はアイツが払うから大丈夫だって」

 エマはオヤジの腰袋にずっしりと詰まったゴルドを見るとニヤリと笑った。

「そーいうことならオーケイだよ。ジャンジャン料理持ってくるからね!」
「うむ、頼んだ。酒もじゃんじゃん持ってきてくれ」

 小一時間後、ザルの女神ディアーナに付きまとわれたオヤジはすっかり酔っぱらっていた。

「だからよー。あのクソ坊主、変な合体技とか使ったと思ったら、ひょいっと、消えやがってよー。ワシをイフリートのボーマン様と知って恐れおののいたのか! っつーんだよ」
「え?」

 ディアーナとエレナは顔を見合わせた。

「ふふ。ま、そーいうことだ。ビンゴーだな」
「ええー、マジで? この冴えないオヤジがボーマンなの?」
「シィーッ! 聞こえるだろうが。ここで酔わせて弱点を聞き出すんだよ~。そしたら明日は……な?」
「おおーオヌシも悪よの~」
「デスね」

 それから、さらに飲まされたオヤジ……ボーマンはやがて泣きだしてしまった。
 
「ワシだってよ……女神持ちになりてーってんだよ。それがよ。チキショウ」
「まーまーおやっさん。ちなみにさぁおやっさんの得意なのって炎系なんだよな? そすっとやっぱ弱点的なのって……」
「水だな。水攻撃はやばい。とは言えだ。俺の炎攻撃の前には生半可な水攻撃など効かんがなあーガハハハハ。ま、問題なのは聖水だ。あれはマズイ。完全にマズイ。ワシはよー、こう見えても、もともと妖精の出だからよ。聖水を浴びると邪気ごと炎を払われちまうんだ。そしたら、もう戦えねーのさ」
 
 たぶん、ボーマンは気の優しい男なのだろう。洗いざらいしゃべると、無防備の姿で寝てしまった。

「ふむ~これじゃあ、他の階層のダンマスにも騙されるわけだなあ~」
「デスね。ま、ワタシ達も人のこと言えませんが」
「はい、ここで質問があります。フィオリナたん、確か聖泉の女神様でしたよね?」
「あ、はい……くぴっ」
「くぴ?」
「な、なんでもないですぅ……ヒック」
「あれ? もしかしてフィオリナたんは……酒ダメとか?」
「い、いえ、がんばりますっ」

 フィオリナの頬はピンクに染まり、瞳は潤んで焦点も定まらないようだった。

「……ディアーナ! 酒は女神の栄養源なんじゃなかったのかよ!」
「まーまー、そんなことよりフィオリナっちは聖水的なの出せるってことかな?」
「あ、はい。出せます。というか、それしか出せません」
「なるほど……勝ったな」
「デスね。うひひひひ」

 その晩、フィオリナとエレナが同じベッドで、ディアーナに奪い取られ、ヒカルは床で寝た。
 
「チキショウ、なんで俺が床なんだ! ぜってー儲けてもっといい部屋に住んでやる!」

 そう心に決めたヒカルであった。
 
 

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