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ダンマスとして……


「けどさ~ディアーナ。こういうことはもっと早く教えてくれよ」

 3人はダンジョン30階層に入ると、早々に29階層を抜け28階層へと上がってきていた。ヒカルが言った『こういうこと』というのは、ダンジョンマスターはひとつ上の階層までのモンスターに対し支配力を行使できる、というものだった。つまり30階層のダンマスであるヒカルは30階層から26階層までに出現するモンスターを左手の刻印により支配下に置くことができるのだ。
 
「だってダンマスは守るのが仕事だもん」
「いや、だとしてもだなあ~ほら、こうして宝箱ゲットできたりするだろーが」
「それこそだよ。冒険者のやる気維持のために用意されてる宝箱横取りとか、ダメっしょ」

 ダンジョン内にある宝箱は一度奪われても、一夜明けるとたいてい中身が復活している。だからヒカルは宝箱を見つけると残さず開けて中身を盗っていた。
 
「言いたいことはわかる。だがしかし、明日をも知れない俺たちの身のほうが大事だろ?」
「うーん……いいのかなあ~」
「俺はさ、別にいいんだぜ? だけど……酒、禁止だかんな? ノルマ達成できなかったら」
「よーしエレナ! お宝ゲットするよ!」
「デスね」

 ディアーナもエレナも、お宝探しに参戦した。

 ――フゴォオオオオオ
 道を行けばときどき、モンスターが襲い掛かってくる。

「はいこれ~」

 すると、すかさずヒカルは刻印を見せる。
 
 ――フゴゴゴゴ
 すると、モンスターは背を向けて去っていく。
 
 大体が、この繰り返しだった。
 
「しかし、最初は焦ったけど、この辺にいるモンスターは、ゴブリン、コボルト、オークくらいなもんか……が」

 ――ガッコ――――ンッ

「だーッ ミノタウルス! こいつだけは突然殴りかかってくるから要注意だぜ!」

 日中に出るモンスターは刻印さえ見せれば、基本的にやり過ごせるのだが、ミノタウルスのように野獣に近いモンスターや闇属性が強いモンスターには効きが弱かった。効くには効くのだが、今のように、その前に襲ってくることがあるのだ。

「で? ディアーナ。25階層のダンマスってのはどんなヤツなんだ?」
「知らなーい」
「おい、それでも女神なのか?」
「いや、女神がなんでも知ってるとか偏見じゃないの?」
「ぐぬぬぬぬぅ~。い、一応聞くけど、エレナは? 知らないのか?」
「知ってますデスよ」
「え?」
「だから知っていると言っているのデス」
「な、なんで知ってんのよ」
「ふっ、ココに来る前に調べましたからね。誰かさんと違って!」
「な、なんだってのよ。そ、そんなの私だって……してないや。てへっ」
「別にカワイくないから、その後ぜったいペロっとかすんなよ」
「デスね」
「ちっ、だ、だったら、どこのどいつだってのよ」
「ボーマン……イフリートのボーマン」
「イフリートなの! そ、それはちょっと……」
「ん? イフリートだとなんか問題があんの?」
「ふっ、ただでさえ使えないディアーナさんの能力=炎がまったく通用しないってことデスよ」
「ちっ」

 イフリート、それは炎の魔人である。しかも魔人の中でも上位に列せられる存在であり、火に対する耐性は絶対的なのである。

「じゃ、じゃあどうする? どーなる? 話し合いとか……できるのか?」
「話し合いは……無理デスね」
「だ、だ、だいたいがさあ~イフリートなんて上級モンスターがなんで小ボスなのよ!」
「そこデス。もともとボーマンは30階層のダンマスだったそうデス」
「え?」
「それが……25階層のダンマスに騙されて階層交換させられたらしいのデス」
「なるほど分からん」
「まあ、あれデスよ。つまりは30階層のダンマスに対し異常な敵対心を持ってるってことデス」
「あ、あ~なるほど……って逆恨みじゃねーかよ!」
「だとしてもデス。話し合いは無理ってことデスよ」
「……しょうがねえ……諦めるか……」

 ヒカルは刻印を出したり消したりしてみた。18/30、その数字――つまりは残ライフ数自体はまだ余裕があるように見える。しかしディアーナとエレナ、ふたりの女神を見ると、どうしたってそれほど余裕があるようには感じないのだった。しかし――

「ダメよ! 諦めたらダメ! 人間、一度諦めたらそこで終わり! その後もずっと諦め続ける人生しかないんだかんね!」

 ディアーナが、めずらしく良いことを言った……ワケでなく

「諦めたら酒が飲めないでしょーが!」

 本心を言っただけだった。
 
 
 

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