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5話

勇者イネスシャクラ当時17歳…我が国を魔王軍から守っている若き人類最強の剣。

沢山の国が滅び…今も他の国は魔王軍から想像を絶する被害を受けているが…我が国は勇者イネスシャクラのお陰で…全く被害を受けてなかった。

それで他の国から勇者を引き抜こうと接触して来たが国の総力を挙げて阻止していた。

それと彼が何かの罪を犯しても父上…国王陛下以外は彼を裁く事を出来ないようにしている…その理由で近衛兵も彼を捉える事は出来ない…。

…こんな変態に守られていると思うと死にたくなって来た。

しかし…侍女達に彼の事を聞くと凄く評判が良かった。

貴族からセクハラを受けていた侍女の悩みを解決してあげたり…危険な魔物を苦労して倒して得た貴重な薬の材料を病気で苦しんでいる料理長の娘の為に惜しまずにタダであげたり…下の者達には凄く評判が良かった。

私は信じられなくてこっそり彼をつけてみた。

「なぁ…おっさん」

「なんだ?」

彼は父上を王さんと呼んでいた…本当に無礼も程がある…。

「3日前…ダマイナ貿易都市を守ったじゃん?」

「うむ…それで?」

「ちょっと…少し褒美をくれよ」

「先週援助金を渡したばかりではないか…」

本性を現したな…一体何を要求してくるか…国王陛下…お労しい。

「確かにもらったけど…」

「もらったけど?」

「その防衛戦が激し過ぎて痛んだ装備のメンテ費用で全部なくなったよ…もう服もボロボロになってる!新しいのが欲しいの!パンツもデッカイ穴が開いてすーすーするの!…」

…………え?

「……っていくら欲しい?」

「……ちょっと大金だけど…き、き、金貨3枚ほど…いや!2枚でもいいよ!」

「援助金の半分も要求するとは…まあいい3枚をやる…ほら」

父上は小銭袋から金貨3枚を取り出して勇者の前にポイと投げた。

「やっほぅ♪ありがとう!おっさん!」

それを拾って喜んでいる……人類最強の男は世間知らずのバカだった。

それを利用している父上を見て自分の中に流れている血を一滴残さず抜き取りたくなった。

彼は買い物をしに城下町に出て…何故か私は彼をこっそりつけていた。

最初は串焼きによって美味しそうに食べてた。

「おっさんご馳走さん!いくら?」

「まあ…今日はサービスしておくよ…いつも守ってくれてありがとうな」

…民にも慕われているようだった。

「……ならもう一本サービスしてくれよ」

「お…おう」

図々しい奴でもあったが…貴族、平民、スラムの人、奴隷まで誰にも和気藹々で同じに接していた。

これが勇者イネスシャクラ…。

彼が衣服屋に入ってから私も入った。

真剣に服選びをする姿は普通の男の子だった…何故かちょっと可愛く見えた。

二つまで絞り込んでどれにしようか悩んでいた。

「…気になるなら両方買えば?」

「あ?…なんだ痴女か…そんな余裕なんぞないわ」

「誰が痴女よ!私が買ってあげるつもりだったけど…もういいわ!ふんっ!」

父上の不当な扱いとアレを捥いだ事で謝罪したい気持ちもあって…買ってあげるようかと思った。

「……お、お前…天使かよ!」

「お前じゃない!ルーシルよ!」

「ルーシル…ついでにあのパンツも買ってくれる?ちょっと高いけど…丈夫そうだからアレ一枚で一年は持ちそう!」

………それ洗ったらその後はどうするの?目には見えないパンツをはいてるとか言いそう…。

「わ、わかったわよ…二枚買いなさいよ」

「まじかよ!す、すいません!あのパンツ試着したいですが!」

…パンツを試着って…もう売り物にならないじゃないか!

「試着はいいから…ん?」

彼は下半身だけ裸になって既に試着の準備を整えていた。

「試着室で脱ぎなさいよ!この変態勇者!」

「あ?今更何赤くなってるの?俺の玉を思いっ切り握りしめて潰したくせに…」

「ちょ…その話しはやめて!」

もういやだ…この人の思考にはついていけないわ。

「それに女より2~300グラム余分に肉がついているだけだろ?」

……あんたの男として尊厳は定肉店に切りさばいてる安売りのお肉と同等の価値ですか?

もう…お肉はしばらく食べたくない…。

「ルーシル!ありがとう!代わりに何だが…お茶ぐらい奢らせてくれよ!」

いやだった!でも謝罪のつもりで苦手であった彼と一緒にお茶を飲みながら話しをした。

しかし、、彼の今までの旅の話しや冒険談を聞いて私は胸が躍った。

それにそれを話していた彼の顔は今まで見た事無かった…本当に純粋で無垢な笑顔だった。

その以降私の目はいつも彼を追っていた。

魔王軍と戦いから戻って来たら一早く彼を迎えに行く事にまでなってしまった。

私は…バカ見たいに彼に惚れてしまった。

そして…魔王の侵略が激化して私も彼の力になりたくて勇者一行に加えてもらい一緒に魔王軍と戦った。

そして10年後…人類は魔王討伐連盟軍を編成して各国の軍と歴戦の英雄達と共に最終決戦に挑んだ。

無論…勇者と私も参戦した。

私は今まで研究を応用して魔法の中でも禁忌級の超魔法を編み出すことに成功した。

神に祈り…その悪しき存在を滅する魔法…すなわち…神の天誅!

魔王に恋人を失われて…魔王との戦いのみ心の拠り所にしている彼を支えて生きたい。

全てが上手く行って…魔王を討伐したら…彼にこの気持ちを伝える!

しかし…その魔法は失敗…暴発して私は死んだ。

その後…私は前世の記憶を持ったままこの世界に生まれ変わった。

魔法もないこの世界…イネスも居ないこの世界…息する事すら辛かった。

孤独だった…寂しかった。

もう耐えられなくて…死のうとした。

その時…小さい子が現れた…。

その子は私の目に焼き付けられていたイネスの剣術を放った。

彼だと…イネスシャクラだと確信した!

あまりも嬉しくて気持ちを抑え切れずに泣いてしまった。

「遅い遅い遅い遅い遅い!ううわーーん」

「……」

こんな世界で彼と再会出来るとは夢にも思えなかった。

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