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ベトナム

 今日は半ば強引に支店長にクラブに誘われた。さすがに調査のことは尋ねて来ず、途中で用事が出来たと席を外した。やはり隣の女がホテルに誘い出した。支店長から金は貰っていると言う。いよいよ支店長が登場と言うことらしい。だがどこまで調査の内容が伝わっているのかはわからない。ホテルに向かうタクシーから降りて別のタクシーに乗り換える。これで足をすくわれた過去の検査員もいる。
 むしゃくしゃしてぽろろんの店のドアを開ける。カウンターの端に国語の先生が文庫本を読んでいる。
「ママは弁護士のところに行っている。適当に冷蔵庫から出してくれと」
 ポールウインナーと小瓶出して定位置の反対の端に掛ける。
「遂に赤いタオルが投げられたね?そのため締め出しを食った。これだけ忠告しておくよ。恋人になったなんて思ったらだめだ」
「この本は誰の?」
 色とりどりの附箋が付いたベトナムの旅行誌だ。
「それはママのだよ。もう半年前から暇があったら見てるよ」
「旅行に?」
「それは君が聞けばいい」
 2本目を抜いて調査中の疑わしい睡眠口座リストを見つめる。今調べられるのは5年目までだ。後は本部の倉庫に運ばれている。疑わしい解約された睡眠口座がすでに22件、3億弱になる。
「ごめんなさい」
 白い息を吐きながらママが戻ってくる。私の顔を見ても平然としている。あの夜は3度も猛獣のように激しかったが、その後は寝息を立てていた。
「ベトナムに旅行?」
「いえ、向こうに住もうかと」
「伝手はあるのか?」
「私の昔のダチが日本料理店をしている」
「リエの仲間?」
「リエは知らないわ。私の2つ上の暴走族のリーダーよ」





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