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睡眠口座

「何読んでるの?恋人から?」
 今日は珍らしく早く職場を出た。あの自己都合退職の女性からのメールだ。最近は次長にやたらと面倒な仕事ばかり回されている。
「リエのろけっちゃって」
と陰口をたたきながら、3人連れの相手をしている。離れたところに国語の先生が飽きもせず文庫本を読んでいる。
「・・・私だけ逃げたようで・・・。一つこの銀行で不思議なことがあるのを思い出しました。普通は支店ではローテーションで各部門の調査がされているのですが、ここは睡眠口座だけは経理主任だけが毎年調査しています。私はこれが問題だと一度次長に談判したことがあります。それから何かにつけいじめにあっていました」
 睡眠口座か。10年以上動かない預金で1000円未満が多い。これは最終的に銀行の雑益になる。もう5年ほど前に行員がこの金に手を出した事件があった。それで本店検査部に毎年報告書を送るようになっている。ただどんな報告書か記憶にない。
「面白い視点だ!」
「不倫か?」
 いつの間にか石田が隣に座っていて携帯を覗き込む。
「彼女とは何もなかったよ」
「そんなはずがない」
「俺は運河の前まで窓から見てたぜ。ホテルに入った」
「石田君みっともないよ」
 ぽろんのママに背中を叩かれている。
 今日も赤いカーネイションは戸棚の上にいる。

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