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6-14. 処置室ー2

 オットーの指揮の元、カウンシルメンバー達は夜通しユウリの治療を続けた。

 明け方近く、報告を受けたラヴレが大量の魔力回復薬とともに医務塔へやってきて、全員口移しでの治癒魔法を実施することになった。ヨルンほどの回数はこなせないが、魔法自体の効果が一番高かったからだ。
 回復薬を飲んで、交代で休憩しながら行っていたのだが、最後まで反対していたヨルンだけは、回復薬を飲むと直ぐにユウリの側へと戻っていき、最終的に消耗しすぎだと判断したユージンの催眠魔法で強制的に退場させられた。
 ロッシも魔法薬の生成を再開し、ユウリの頰に少しだけ赤みが差してくる。

「脈が安定してきたな」
「通常の治癒魔法に切り替えても大丈夫でしょうか」
「あと、一時間ほどでそうしようか」

 オットーとレヴィの話し声が聞こえて、ヨルンは目を覚ました。
 壁の掛け時計を見ると、三時間程眠っていたらしいことがわかる。

「先生」
「ああ、ヨルン君、起きたか」
「回復薬、ください」
「それより、お茶でも淹れましょうか」
「いいから、レヴィ。回復薬」

 目元を片手で覆ったまま、苛立ったように呟くヨルンに、レヴィとオットーは顔を見合わせる。

「今、ユージンさんが……」

 レヴィの言葉に、先程まで横になっていたソファから無言で立ち上がり、ヨルンはオットーの手から回復薬を掴んで処置室へと向かった。
 勢いよく扉を開けると、疲れ切った表情のユージンがこちらを向く。

「ああ、ヨルン、起きたか。代わってもらっていいか?」

 そう言われて、ヨルンは、一瞬でも怒鳴り声を上げそうになった自分を押し留めた。

(何にムカついているんだ、俺は)

 ユージンの判断は間違っていない。
 どれほど優れていると言っても、魔力には限界がある。
 あんな魔法を回復薬だけで何発も打てば、消耗するに決まっている。
 ヨルンまでもが倒れてしまえば、他の皆に負担になるのは一目瞭然だった。
 ユージンが催眠魔法を唱え始めた時、ヨルンはそう納得していた。

 しかし、その思考の裏で、感情が暴れるのを抑えられなかった。

 ——自分以外が触れるのか

 そう考えただけでむかむかする胸中に、どれ程独占欲が強いのだと自分自身で呆れてしまう。
 ただ、あの潤んだ漆黒の瞳がもう開かないのかもしれないと恐れたのは事実だ。
 桜色の唇から困ったような焦ったような声音で、自分の名前が呼ばれることが失われてしまうのではないかと危惧した。

「ごめん、ユージン。代わる」

 多分それは、ここにいる誰もが感じていることだろうと、ヨルンは自身の苛立ちを鎮めた。
 ほんの数ヶ月しか共に過ごしていないにも関わらず、ユウリはカウンシルの仲間といって過言ではない。
 《始まりの魔女》として学園に降り立ち、それでいて様々な葛藤を抱えていて、危機を何度も乗り切り、その存在は大きくなっている。
 だから、誰一人不満も零さず、休みない治療に加わっているのだ。
 何も、ヨルン一人が、()()()()()()()()()事実に、苛立っているわけではない。

 ユージンから場所を譲られ、素早く詠唱すると、ヨルンはユウリへ口付ける。

「……っ、ふ、あ……」
「!」

 離した唇から、小さな呻き声が漏れた。
 今まで、固く閉じられていた瞼が、睫毛を揺らしながら、ゆっくりと開いていく。
 もう一度詠唱し、唇を重ねて、多めの魔力を吹き込んだヨルンが顔を覗き込むと、ユウリは安心したように呟いた。

「ヨ……ル……さ……」

 ユージンもその声に気付いて、駆け寄る。
 微笑みを返して、ヨルンはいつものようにユウリの頭を撫でた。

「もう、平気だね。ユウリ」
「……ああ」

 二人の安堵の表情を、ユウリは不思議そうに眺めていた。

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