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1話

1話 朽ち果てた勇者

「魔王…いつか必ずお前を…」

その言葉を言い残して僕は倒れた。

「非力な人間風情が哀れな末路だ…あはははははは」

魔王の憎たらしい大笑いも徐々に聞こえなくなった。

最愛の恋人のレシアを殺した憎き魔王。

魔王に殺された勇者…それが俺…イネスシャクラだ

レシアの仇を取れず死んだ俺は冥界に行った。

死後の世界でレシアに会えるんじゃないかと期待した。

可愛くて照れ屋さんで…虫一匹殺せないほど本当に心優しい人…それだけさえ叶えばどうでも良かった。

「大罪人イネスシャクラ!大地獄行き!」

冥界の神に僕は極悪非道の大虐殺犯に認定されて地獄に落ちて長い時を苦しんだ。

勇者が何故極悪非道の大虐殺犯人だって?

俺と魔王とは6回戦った…その戦いに巻き込まれて数々の微生物や動物…虫や植物を死なせたらしい…命の価値は微生物や虫も人と同等な価値らしい…。

くっそ!勇者なんかやるもんじゃなかった。

長く長い時が過ぎて…俺は地獄から解放されて転生する事になった。

全ての記憶を消されて何処で何に生まれるかも分からず輪廻の流れに乗った。

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う…う…何か…聞こえる

子守唄…それに懐かしい声。

そう…まるでレシアの声そっくりだ。

多分人間に生まれたようでホッとした…虫とか微生物とかは勘弁して欲しかった。

しかし…俺は違和感を感じた。

イネスシャクラ…27歳!本職はクッソタレの収入不安定の貧乏勇者!

何故か俺には前世の記憶があった。

まあ…どうにかなるもんじゃなさそうだったしどうでも良かったのでそれを考える事はやめた。

新たな人生を楽しむ…それが一番だ。

2日が立ってやっと目を少し開けれるようになった。

目の前に母らしき存在が見えた。

「まーくん!まーくん!練ちゃんが目を開けたよ!私を見てるよ」

母らしい存在が俺が目を開けた事に感動して泣きそうな表情だった。

母は凄く綺麗だった…本当にレシアそっくり……。

むっ!どう見てもレシアにしか見えなかった!

声も!仕草も!嬉しい時に両手の指先を合わせる癖も!その谷間の袋も!その袋の大きさまで!…そんなバカな!

取り乱したが…すぐ落ち着いた。

レシアな訳ないと…そんな偶然は有り得ないと判断した。

「あははは…練が目を覚ましたのか?」

父らしき存在が現れた。

その中低音な声…俺は嫌いだ。

魔王の声とそっくりだったからだ。

「我が息子よ!余が貴様の父である!あははは」

「もう…まーくん!またその変な喋り方練ちゃんに良くないからやめてよ」

くっそ…イラっとする声だ…奴にやられた左ケツの傷が疼くような感じがするぜ

むっ!そんなバカな!

父らしき存在の姿は…今も忘れられない憎き存在!魔王とそっくりだった。

その長い黒髪!やらしい目付き!俺が死ね前最後の力を振り絞って噛み付いて出来た耳たぶの傷跡まであった!

それに奴が魔王と疑う決定的な証拠…それは奴の鼻だ!

奴は…奴は!自分のチャームポイントとしていつも左の穴に必ず長い鼻毛を一本残していた!

それにその鼻毛の毛先は…奴が好む45度角度にビシッと曲かっていた!

間違いない!奴は魔王の可能性が高い!

「まーくん!また鼻毛出てるよ…もう!」

「あっ!…やめるんだ!これは余のチャームポイント!それに毛先を45度にする為にどれほど金と時間と努力が…あっ!」

「はい!取れました♪」

「無念なり…」

お、お、お前魔王だろ!もう決定だわ!こいつ魔王だ!

それじゃ…母は本当にレシアで?父は魔王?

くっそ!ありえないありえない!

もう……死なせろぉぉぉぉぉぉ!

「うえーーんうえーーん」

「凄い大声で泣いてるよ」

「あはははははは!元気で良い!」

俺は前世の記憶を持って…最愛の恋人の生まれ変わりと憎き仇の魔王の子として生まれた見たいだった。

こんな絶望的状況に陥れた運命ってやらを俺は呪った。


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