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校外学習と過去の因縁⑭




未来は悠斗から“琉樹”という名を聞き、徐々に焦り始める。 過去の苦い出来事が、再び自分たちの身に襲いかかってくるのを感じ――――
「・・・え、どうして琉樹にぃがここに?」
「それは分からない」
「琉樹にぃというのは本物か」
「おそらく本人だよ」
悠斗がそう確信しているのを見て、未来も疑いはせず信じ始めた。

―――琉樹にぃが、ここにいるっていうことは・・・。
―――あ、もしかして!

突然思い付いたことを、悠斗に向かって言葉を放つ。
「琉樹にぃがここにいるなら、理玖もこの街にいんのか!?」
「理玖は俺たちと同じで高校一年生だ。 高校生が平日である今日、そしてこの時間帯にここにいるはずがない」
「あ・・・。 そう、か・・・」
理玖はこの街にはいないということを聞いて、大袈裟にがっがりとしたアクションを見せた。
―――何だ・・・久々に、理玖に会えると思ったのにな。
そして落ち込んだまま、力なく尋ねる。
「で? 琉樹にぃは今いくつなんだ?」
「俺たちより3つ上だから、今は大学生じゃないかな」
「大学生・・・」
大学生と聞いて“それならここにいてもおかしくはない”と思い、何も返さなかった。 そんな未来に、今度は悠斗が尋ねかける。
「未来も分かっているだろ? 琉樹にぃが、夜月を連れていったっていうことは」
それを聞いた瞬間、落ち込んだ心を一気に引き締め――――真剣な表情で、言葉を返した。

「・・・あぁ。 夜月がまた、いじめられる。 急いで夜月を探そう」





19時前 ホテル ロビー


二日目の班別行動は、19時までとなっていた。 それまでにはホテルへ戻り、先生に確認を取らなければならない。
結人班と伊達班は19時になる10分前にロビーへ到着し、無事に今日一日を終える。
「じゃあユイ、今日はありがとな。 楽しかったぜ」
「おう。 また後でな」
結人は一度、伊達班と別れた。
「じゃあ俺、先生に言ってくるわ」
「ん、頼んだ。 ここで待っているから」
結人班の班長である真宮は、そう言ってここから離れ自分のクラスの担任のもとまで行く。


「先生―、俺たちの班は無事に戻りましたー」
そう言いながら、担任から出席の確認を取った。 その時――――
「先生、夜月くんたちが戻ってきませんー!」
―――・・・ん?
隣の4組の女子が“夜月”という名を口にしたのを聞いて、真宮は自然と隣いる女子の話に耳を傾ける。
「戻らないってどういう意味だ?」

「途中で夜月くんと未来くんがどこかへ行って、悠斗くんだけが残っていたんですけどー・・・。 最終的には、悠斗くんもどこかへ行っちゃいました」

「あぁ、関口なら先生と話していたから分かるけど・・・」
―――夜月たち3人が戻ってこない・・・?
―――・・・まさか、何かトラブルに巻き込まれたんじゃ!
そう思った真宮は、急いで結人のもとへと戻った。


「ユイ!」
「ん?」
ロビーにあるソファーに座り、くつろいでいる結人に走って近寄る。
「ユイ、さっき隣のクラスの女子の話を聞いていたんだけど、夜月たち3人が戻ってきていないって」
「夜月たち3人って・・・。 夜月、未来、悠斗のことか?」
「ソイツら以外に誰がいんだよ! とにかく、その3人がいなくなったってマズいだろ! 夜月なら時間はちゃんと守るはずだし、今ここへ戻ってきていないのはおかしい!」
真宮にそう言われ、結人はポケットから携帯を取り出した。 だが夜月たちからの連絡はきていなく、時間もあと2分で19時となる。
確かに夜月は約束事を守る少年のため、ギリギリになっても戻ってこないのはおかしかった。 だとしたら、真宮の言う通り彼らの身に何かあったのだろうか。
「分かった。 じゃあ俺、夜月たちを探してくるから。 真宮はみんなのことを頼んだぞ」
「あぁ。 何かあったらすぐに連絡しろよ。 気を付けてな」
その言葉に笑顔を返すと、走ってホテルの出口へと急いだ。
「あ、おい! 色折! どこへ行く!」
後ろからは担任が結人を呼び止める声が聞こえてくる。 だがそんな声を無視し、走ってホテルから抜け出した。
「あぁ、先生大丈夫ですよ。 ユイは今忘れ物を取りに行っただけなんで、すぐに戻ると思いまーす」
そして――――更に後ろからは、真宮が担任を説得する声が聞こえてきた。





「つか、こんなに広い鎌倉で夜月を見つけ出すって難しいだろ!」
「夜月には連絡もつかないし、本当にもう身動きが取れないな。 19時も、過ぎちゃっているし・・・」
夜月を探し始めて3時間くらいが経過する。 人があまり通らなさそうな場所を主に探すが、夜月らしき人物はどこにも見当たらなかった。
「ユイに連絡でもする?」
「いや、ユイにはあまり迷惑をかけない方がいい。 ・・・琉樹にぃが関わると、ユイも苦しいだろ」
~♪
そんなことを話していると、未来の携帯が突然鳴り出した。 だがポケットから取り出し相手を確認すると、呆れた表情を見せる。
「・・・誰から?」
未来の表情を窺いながら悠斗がそっと尋ねてくると、携帯の画面を前へ突き出しながらこう答えた。
「・・・ユイからだよ」





数分後


そして――――結局、未来たちは結人と合流することになった。 未来の結人に対する折角の気遣いが、無駄になってしまったのだ。
現状が何も分かっていないリーダーに、二人は覚悟を決め事情を伝えようとする。
「えっと、そのー・・・。 ユイは琉樹にぃのこと、憶えているか?」
「琉樹、にぃ・・・?」
その名を聞いた結人は、過去の苦い記憶が次第に蘇ってきた。

―――あぁ・・・琉樹にぃって確か、理玖のお兄さんの・・・。
―――・・・理玖?
―――どうしてここで、理玖たちのことが出てくるんだよ。

「まぁ、ユイは琉樹にぃとあまり関わってはいなかったけど、会って話したことはあるよな。 ・・・あまり、思い出させたくはないけど」
「・・・」
結人もかつて、琉樹にいじめられたことがあった。 その原因は、未だに詳しくは分かっていない。 
ただ当時は“自分が悪いんだ”と思い込み自分を説得させ、そのいじめを素直に受け入れていたのだ。
「琉樹にぃが夜月を連れていく時『お前らは今校外学習中だから、早めに夜月は返す』とは、言われたんだけど・・・。 まだ戻ってきていないし。 
 とにかく琉樹にぃは何故か、この神奈川に戻ってきたんだ」
そして――――

「琉樹にぃが夜月を連れていったっていうことは、夜月は琉樹にぃにいじめられている可能性が高い」
「え?」
「ユイは知らないだろうけど、小学生の時、夜月もユイと同じように琉樹にぃにいじめられていたんだ」
「それは・・・どうしてッ!」
「理由は知らねぇ。 とにかく、早く夜月を見つけ出さないと!」

―――夜月が、琉樹さんにいじめられて・・・?
―――・・・いや、意味が分かんねぇ。

「今あっちで喧嘩している不良を見つけたんだけどー」
「えー、超怖い。 助けでも呼ぶ?」
「放っておこうよ。 ここで関わったら、関係のない私たちもやられちゃうよ?」

偶然結人たちの横を通り過ぎた女性グループの会話が聞こえ、3人は一瞬言動が停止する。 そして結人は覚悟を決め、二人に向かって指示を出した。
「・・・行くぞ」
その言葉に頷いた未来たちはリーダーの後ろに付いて、女性たちが話していた場所へと足を運ぶ。


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