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エピローグ 翌日・食堂にて

「なんだ、まだいるのか。どこまで身の程知らずなのやら」

 これ見よがしに溜め息を吐く重春(しげはる)に、大志はにっこりと困ったように笑って返した。
 朝の(にぎ)わいを見せる食堂。大志の(ぜん)の中のものは、ほとんどが無くなった頃合い。
 重春はまたも取り巻きを引き連れて、まるでちょっとした王様のような振る舞いだ。
「躰道部門優勝者だかなんだか知らないけど、その程度で認めてもらえるとでも思っているのかい? 役立たずはなにをしても役立たずに変わりはないよ__うわっ」
 ふっと小馬鹿にしたように笑う重春の顔に、バシャッと水がかけられる。
 苛立(いらだ)たしげに顔を(ぬぐ)って犯人を見ると、大志の前の席に座っている銀臣だった。
 その手にはコップが握られている。空になったそれを平然と机に置いた銀臣に、重春は肩を震わせる。
「し、柴尾銀臣……君、僕にこんなことしていいと思ってるのか!」
「いいと思ったからやったんだろ」
「このシャツは君じゃとても買えない高級なものなんだぞ!」
「ただの水だからそのうち乾くって、うるせぇな。食事の邪魔だから早くどっか行けよ」
「こ、の、クソ、覚えておけ……!」
 睨まれて、重春は怒りをそのままに去って行く。取り巻きもご機嫌を取りながら慌てて後を追った。
 ちょっとしたいざこざにヒヤリとしていた食堂の空気は、徐々に穏やかさを取り戻す。
 周りの賑わいに(まぎ)れて、大志はクスッと笑った。
「やり過ぎですよ」
「俺より容赦無さそうなお前ならやり返すと思ったぜ」
物盗(ものと)りしてた頃なら、ああいうのは良いカモなんですけどね」
 さらっと軍人にはあるまじき発言をした大志に、銀臣も満足そうに口角を上げる。
 それから思い出したようにぷっと吹き出した。
「しっかし、さっきの聞いたか? 『覚えておけ』だって。本当に言うやつ初めて見た」
「ちょ、ふっ、俺があえて言わなかったことを。笑わせないでくださいよ」
 大志も肩を震わせる。なんとか笑いを(こら)えようとしたが、耐えようとするとますますおかしくなってくる。
 銀臣は堪えようともせず、笑いながら大志の味噌汁を指差す。
「ほら、味噌汁飲め、味噌汁。盛大に吹け」
「やめてくださいって、この位置だと柴尾さんに全部掛かりますよ」
「やっべ、それは考えてなかった」
 笑いながら食事を共にする二人を見て、ほのかは目を何度も瞬かせた。

「なに? なにが起きたの? 男の子ってわからんわー……」

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