#3 元就活生スキル得る
俺は赤ん坊になった。
……とはいえさすがに今の状態はあまりにも恥ずかしい。
俺は今、お姉さんに抱っこされながら山を下りている。
(この年でまさか抱っこされるなんてな…。しかも女の人に。)
「街に行くのは何年ぶりだっけ……。」
街に向かう途中、お姉さんはなにか思い込むような表情でつぶやいた。
「ばぶ?」
「ううん、なんでもないわ。そうね、アーロンちゃんの今後のためだもの。私がしっかりとしないと。」
俺はいろんなことがありすぎて疲れてしまったのか、20分ほど進んだあたりでお姉さんの腕の中で眠ってしまった。
「どうしてですか!!この子にはなにも罪はないじゃないですか!」
俺はお姉さんの怒鳴るような声で目を覚ました。
「し、しかしそういう規則なので」
怒鳴られ困った顔を浮かべているのは、ゲームに出てくるような神父の恰好をした男だ。
部屋も社会で習ったヨーロッパの教会にそっくりだ。
やはりここは日本ではないのだろうか。
「エスティアさんも知ってのとおり、この街では捨て子は育てることはおろか、拾うことすら許されていないのです。あなたのお父上もそのため…。」
「お父さんは…。ならなぜ教会はあるのですか?迷える子羊を救わず規則を守るのがあなた方の役割なのですか?」
「………。」
教会に沈黙が流れる。
「ごめんなさい。無理を言ってしまって。」
先ほどまでとは違いお姉さんはだいぶ冷静になったようだ。
俺のことでこんな気まずい感じになってしまったと思うと申し訳ない。
「……いえ、あなたが仰っていることはなにも間違ってはおりません。こちらこそお力になれず申し訳ない。」
神父は帽子をとって頭をさげた。
「それで今後その赤ん坊はどうするのですか?」
「えっと、その…」
「心配せずとも他の方に話したりはしません。それ以上に私もその子には立派に育ってもらいたいと思っております。」
「――決めました。この子は私が責任をもって育てていきます!」
そういうと俺を抱くお姉さんの力が少し強くなった。
「そうですか………。わかりました。少しついてきていただけますか?」
神父は俺たちを祭壇の前へと案内した。
「神父様、いったい何を?」
「これからその子に神のお力を授けます。」
「えっ!?しかし、いいのですか?本来スキル継承は15歳の成人の儀で行うものなのでは?」
うん?スキル継承?
ゲームかSF小説なんかの話か?
「はい、問題はないでしょう。そもそも神のお力は人が生き抜くのに必要なものであり、それを授けるのに年齢は関係ありませんでした。最近では、冒険をはじめる15歳を対象に行う儀式となりましたが。」
「そうだったのですか。それでこの子が助かるのであればぜひお願いします!」
お姉さんは抱きあげていた俺を台座に置いた。
俺は何が何だか話がつかめない。
いったいなにがはじまるんだ?
まぁ、とりあえずお姉さんを信じよう。
「それでははじめます。――神よ、この者に祝福を与えたまえ――」
神父の言葉が言い終わると光がおれに向かって降り注ぎ、おれは思わず目をつむる。
※ ※ ※ ※ ※ ※
「……?ここはいったい…。」
目を開けると俺は知らない場所にいた。
しかも浮かんでいる!?
俺は赤ん坊の身体を宙で動かしてみるが、うまく動かすことができない。
――それにしても、殺風景な場所だ。
なにもない。
まるで、宇宙に浮かんでいるかのようだ。
【どうやらいい人に出会えたようだね。…フフフ、いずれ、成長した君に会える日を楽しみにしてるよ。】
目の前から声が聞こえる。
しかし、そこにはなにも存在していない。
………いや、なにかいる。
頭では理解できないが、そこに何かがいるということは感じることができた。
【さぁ、物語のはじまりだ!君が創る、君だけの。】
その声が聞こえると同時に俺の身体が吹き飛ばされる。
声が遠ざかる……。
意識が失われていく……。
薄れゆく意識のなか、なぜかそれは悲しそうにおれを見つめる…
「お、おれは…」
おれはそれに向かって手を伸ばした……。
――むにゅっ
うん?
柔らかい…
この柔らかさは確か…
「アトラスちゃん!大丈夫?」
目の前には心配そうにおれを見つめるお姉さんの顔があった。
そしておれの手はそんなお姉さんの胸を触っていた。
って、えっ!?
またやっちまった。
おれは急いでお姉さんの胸から手を放す。
「よかった、無事みたいで。いきなり動かなくなったから心配したのよ。あらっ?大変!顔が真っ赤よ!」
お姉さんは心配そうに俺を見つめてくる。
とりあえず俺は役得だと思うことにした。
「一体さっきのは…?と、とりあえずこれでこの子には神の力が授与されました。とはいえ、どのような力が与えられたかはこの子にしかわかりませんが。では、わたくしはこのへんで。あなた方に祝福がありますように。」
そういうと神父は部屋から出ていき、俺たちも家に帰ることにした。
※ ※ ※ ※ ※ ※
「あっ!!アニキ!あいつら出てきましたぜ。」
「イヒヒ、あいつらだけは絶対許さないからな。」
そういうと頭を腫らした男はニヤリと笑った。
※ ※ ※ ※ ※ ※