#2 ばぶばぶ シュシュー
「シュア~」
「あら、起きたようね。」
お姉さんが持ち上げた白い物体、それは俺が崖から落ちる原因となったあのしろい生き物だった。
「シュア~、シュア?」
白い生き物は周りをキョロキョロ見渡し羽を広げて部屋を物色し始める。
「あらあら、寝起きなのに元気ね。でもなんていう動物なのかしら?見たことないわ。」
お姉さんは一人頭をかしげて考えている。
「ばぶ、ばぶぶ!(こら。まてっ!)」
俺はその飛びまわる生き物をよちよち歩きで追いかける。
飛びまわる白い生き物は俺の存在に気づいたうえで、あえて嘲笑うように部屋を飛びまわる。
そんな周りから見れば微笑ましい(?)少しカオスな状況がしばらく続いたが、やがて俺は疲れ果てて追いかけるのをあきらめた。
「ばぶ…ばぶ…(ハァ…ハァ…)」
俺が息を整えているとその白い生き物は俺の近くのテーブルの上に飛び乗り、俺の方を見下してきた。
《ったく、情けねぇ姿だな》
――!?
突然誰かが俺に話しかけてきた。
《こっちだよ、こっち!》
「(こっちって言われても…。まさか?)」
《やっと気づいたか。…なんか信じられないって顔してんな?これだから常識に縛られてる社畜予備軍は》
テーブルの上の白い生き物は「やれやれ」とでも言うように、羽を広げている。
…というか、社畜予備軍とか言うんじゃねぇよ!俺はまだ希望のある就活生だ。
――今は赤ん坊だけど。
それにしてもお姉さんは白い生き物が話すことに驚きもせず、食事の準備をはじめている。
「(この世界では動物もしゃべるのか?)」
《なんだ、この世界の動物はみんなしゃべるのか?とでも考えてんのか?ちげぇよ、俺が特別なんだよ。それに今はおめえの脳に直接言葉を送ってるだけだしな。》
完全に考えていることを読まれている。
――それにしても口が悪いやつだ。
「(おい、俺がなんでこうなったかお前は知っているのか?てか、いったいここはどこだ?)」
《グチグチうるせぇなー、なんで俺様がおめえにそんなこと教えなきゃいけねぇんだよ。名前すら知らねぇ人間に。》
「(ほんと口が悪いやつだな。俺は冴原…じゃなかった、アーロンか。お前の名前は?)」
《――よりによって「アーロン」かよ…。ハァ…しょうがねぇ、まあそんな恰好になったのは俺様にも関係がないわけではないからな。俺様はラスタ(lasta)だ。》
そういうとラスタは俺の身になにが起こったのかを話し始めた。
ラスタの話をまとめるとこうだ。
ある日、謎の黒い影に追われていたラスタは山に逃げ込んだ。
羽をケガしたから飛べず、フラフラとさまよっていると気づいた時には疲れ果てて眠ってしまっていた。
そこに俺が現れたから敵だと思い驚いて逃げ出すと崖を発見した。
そこで追いかけてくる俺をその崖から落としてやろうと企み俺に飛びついたが、俺が避けてしまい自分が崖から落ちることになってしまった。
必死に痛めた羽を広げ少し飛んだのだが、途中で力尽きてしまい、俺と一緒に落ちてしまった。
「(飛べたのは一瞬だったのか。でも待てよ、その話がほんとだとするとこいつと俺が出会ったのは俺が生活していた世界ってことだよな。でも俺の家の近所に山なんてないのにラスタは山をさまよって俺に出会った?)」
《まぁそういうこった!》
「(ちょ、ちょっと待って。俺がなんでこんな体になったのかおまえは知ってるのか?)」
《あぁ、それはおめぇ…「シュシュちゃん!食事の準備ができたわよ」
お姉さんの呼びかけでラスタは話の途中にも関わらず「シュシュー」と飛んで行った。
ちなみにお姉さんはラスタのことを鳴き声からシュシュと呼ぶようにしたようだ。
「アーロンちゃんはこれから私と一緒に街に出かけましょう。」
(いろいろわからないことがあるけど、街に行けばなにかわかるかもしれない。)
そんな期待を胸に俺はお姉さんと街に出かけることになった。