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「だからさ、アイツは福田と付き合っていた頃に二股されていたのを知って、悔しくなって自殺したんだ」
 後日の放課後、みんなが帰りきった教室で、ソラは俺とロクさんに説明してくれた。
 ソラは机に座って、俺は隣の机によっかかって、ロクさんは背筋をまっすぐにして立っている。
「自分が自殺して、福田はどう思っているのか知りたかったんだろ。で、なんとも感じてないことをどこかで知って、復讐しようと思った。怪しいと思ってあいつを調べてたんだが、思いの外時間がかかったから、教えるのを一日待ってくれって頼んだんだ」
「そうだったのか……」
 俺はソラの話を聞いていて、辛くなった。
 美音さんの過去に胸が痛んだんじゃない。そういう同情とかじゃなくて。
 信じたのに、裏切られたことに、俺は予想以上のダメージを食らっていたんだ。
 だって、今まで顔も知らないやつに殺されかけてばかりで、理不尽迷惑もいいところだった。
 そんな時に、人が良さそうで、大人しそうな女の子が助けてくれと言ってきた。できることならなんとかしてあげたいものだろ。
 ……違う。
 本当は、信じたかったんだ。
 幽霊でも、生きている人間に逆恨みとか、無差別的な仕返しとか発想しない人もちゃんといるんだって。
 信じたかった。
 ……でも、駄目だった。
 それが、やたらと俺の周りを黒い渦になって、ぐるぐると回る。
「……何で、俺は見えちゃうんだよ……」
 こんなことなら、見えなきゃよかった。見たくなんか、なかった。
 好きで見えてるわけじゃないのに、なんでこんなに危ない目にあわなきゃいけないんだ……!
「たまに、いるんだよ、そういう人が。前にもいたんだ。ね、ソラ」
 ロクさんが俺の独り言にそっと相槌をして、目を細めて、ソラに同意を求めた。それにソラは、
「うるさい」
 と心底嫌そうに顔をしかめた。
 ソラがしかめっ面になるのはいつものことだけど、ここまで酷いのは初めてだった。ロクさんの言葉には何か裏があるみたいだ。
 というか、
「前にもいたって……」
「うん。ソラが前担当していた学校にも、君みたいに幽霊が見えた女の子がいたんだ。それで、ソラがその子に恋しちゃったんだ」
「え」
 コイって……。
恋!? ソラが!?
「ええええええ!?」
「ロク!!」
 ソラはロクさんの話を切ろうとするが、俺はかなり続きが気になる。
「それで? どうしたんですか? その子とは」
「死んじゃったんだ」
 え?
「ソラが仕留め損ねた幽霊がソラを恨んでね。ソラがその子を好きなことを知って殺されちゃったんだ」
 そんな……。
 俺は思わずソラを振りかえる。ソラは微妙な表情で斜め下を向いていた。
 ロクさんはそんなソラを小さくため息をついた。
「……何より君はその子と似ている」
「え、顔が?」
 思わず聞き返すと、ロクさんは軽く笑いながら首を横に振った。
「違うよ。考え方。その子も幽霊みんながみんな悪人だけじゃないって主張する子だったんだ。だから今、ソラは君のことが放っておけないんだと思うよ」
 ソラにそんな過去があったなんて思いもしなかった。
 美音さんの時に反論してきたのはそういう理由があったからか。
「だから、ソラが君に話しかけたのは、笛を渡して助けられるようにするためなんだよ」
「ソラ…………」
 でも、俺、ソラの銃に殺されかけてる……。
「あぁ、それはマジでただのノーコン」
「おい!」
 お前は俺を守りたいのか殺したいのかどっちなんだよ。
「守りたいに決まってんだろ」
 冗談だったのに、真面目な口調と目で答えられてしまった。
 よっ、と言って机から降りるソラ。
「もう死んじまってるやつはともかく、生きてるやつの命は限りがあるんだ。それをむやみやたらに殺したくなるわけないだろ」
 ソラの真面目な声色に、なんでこんなに安心してしまうんだろう。
「いいか、俺は同じ失敗は絶対繰り返さない」
 そう言って、ソラはロクさんを睨んだ。
 ロクさんは軽く肩をすくめるだけ。
 そんなソラに俺は以前ソラが言っていたことを繰り返す。
「人を助けるのに理由なんていらないんだろ?」
 すると、ソラはにっと白い歯を見せつけてきた。
「絶対に、お前は俺が守るよ」
 心強い言葉。
 ソラがいれば俺はこの先どんな危険なことがあっても乗り越えていける気がした。
「じゃあその前にそのノーコンをどうにかしてくれないか?」
「…………善処する」
 俺の頼みに、目線を逸らしつつ、かなり遅い返事をするソラ。

 もし俺が高校時代で死んでしまったら、死因は幽霊ではなくて、きっとソラの流れ弾だろう。

 

 終わり

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