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「えっと……。私、みねって言います。美しい音って書いて、美音。私が死んだのは大学生の頃で……。その時にすごい大切な人がいたんです……」
 薄く笑いながら俯いてしまう美音さん。その言葉に天使と悪魔が同時に同じ質問をした。
「恋人?」
「リア充?」
 俺は迷わずソラのケツを蹴った。
「ってぇな! 何なんだお前はさっきから!」
 何なんだはこっちの台詞だ。お前の辞書にデリカシーという項目を付け足しておけ。
「あ、いいですよ別に……。その通りですし……。その頃付き合っていた人が今どうなっているか、気になるので……、調べて欲しいんです……」
 頬が赤くなっている。そうか、ロクさんになびかなかったのは、好きな人がちゃんといたからか。
「私……ほんと、こんな内気な性格だから、好きになっても友達とかに打ち明けられなくて……。でも、彼から告白してくれて……。それから、ずっと……一緒にいようって、大事にしてくれて……」
 その彼を思い出しているのか、心の底から愛しそうな話し方だった。
「ほんと……元気って分かれば、それでいいので……」
 死んだ後もまだ気になるって、本当にその人のことが好きだったんだな。
 俺もいつかそんな相手ができるのだろうか。
「そうか。それならお安い御用だよ」
 もじもじと言葉尻が聞こえなくなってきていた美音さんは、ロクさんの微笑みを受けて安堵の表情を見せた。
 が、
「オレは反対だ」
 平和な雰囲気をソラの一言が台無しにした。
 あからさまに傷ついた顔をした美音さんが視界に映り、俺はソラに反発した。
「なんでだよ、恋人の安否の心配くらいしたっていいだろ」
「馬鹿、お前は何回幽霊に殺されかけてんだよ。こいつにしたって、腹の底じゃ何考えてんのかわかんねーぞ。生きてるやつに関わらせたくない」
 この人は違うんじゃないのか?
「どっから出てくんだ、その根拠」
 幽霊が全員、悪者って決まってるわけじゃないだろ。
「高確率で悪いやつだ。今生きてるやつに逆恨みしてんだよ」
 純粋に今生きてる知り合いを気にしてるやつの立場はどうなる。
「諦めろ。人間の世界じゃ、幽霊なんて架空の存在なんだろ。お前が運悪く見えちまってるだけで」
 幽霊になった以上、どうにかしてやりたいだろ!
「ハイリスクノーリターンじゃねぇか! むしろ恩を仇で返されるかもしれねーだろ!」
「この人間不信!」
「信じた方が馬鹿を見るだけだ!」
 しばらくバチバチと視線の間で火花が散ったが、ロクさんがそれを破った。
「はいそこまで」
 冷静に俺とソラの間の空間をチョップすると、俺の肩にぽんと手を乗せた。
「僕は続くんの意見に賛成かな。確かに、全員が全員悪人と決まっているわけじゃあない」
「ロクさん……」
「勝手にしろ」
 ソラぷい、とそっぽを向いて、何処かへ行ってしまった。
 ロクさんと俺は、おろおろしていた美音さんに振りかえって、了解の意を示し、美音さんはにっこりと笑った。
「あの、できれば、彼の住所とか……教えて頂けると……」
「あぁ、いいよ」
 ロクさんと美音さんの会話は俺の頭にまったく入ってこない。
 俺は去ったソラの背中を思い出す。
 ……ソラのバカ。

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