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 次の日も殺人的な暑さが地上に降り注いだ。昼休みにいつものグループ、俺含め男子五人で弁当を食った後、やることがないなー、と思い始めた頃に、一人が言いだした。
「野球拳やらね?」
 この暑さに頭がやられたかのような提案に、誰が呆れるでもない。
「おぉっと?」
「いっちゃう? いっちゃう?」
「よしきた任せろ」
 全員が参加の意を示してしまうのが男子だった。俺も例外ではない。教室にはさすがに女子がいるのでベランダに向かう。
 俺の通っている私立高校は、廊下に面している壁には黒板があり、黒板の両サイドに開き戸が付いているという教室だった。黒板を前とするなら、後ろには窓とベランダがあり、左右の壁には男女のロッカーが鎮座している。ちなみにこのベランダ、隣の教室とも続いていたりする。
 エアコンの効いていた教室からベランダへと踏み出せば、予想以上の熱が襲いかかる。あちーだの何だの口ぐちに言いながら、みんなじゃんけんの準備をした。
「や~きゅう~をす~るなら~」
 言いだしっぺが音頭を取り始め、全員が真剣な顔つきになる。脱ぎたいような、脱ぎたくないような微妙な心境の中、三択を託された右手に力が入った。
「よよいのよい!」
 出された六つの手は五人がパーで、一人だけチョキだった。げ、俺脱がなきゃ……。
 いやいやいや六つの手ってなんだよ。俺達五人だったぞ。
 思った瞬間、隣から声がした。
「おっしゃぁ! 勝った!」
 まぁ、予想はできていたが。
 青い、知らないお方が、ガッツポーズをして喜んでいた。
 どうやら初対面の、野球拳をしようなどという馬鹿の集まりに、自分から入ってきてしまったらしい。ものすごい勇気の持ち主だ。フレンドリーすぎるだろ。
「ほらお前ら脱げぬげぇ!」
 なんて言っても俺以外見えないわけで、テンションが高くなっているところ、申し訳なく、俺達はじゃんけんを続けていた。
「あーいこでしょっ!」
「え、ちょ、なんで無視すんだよ! おいおい」
 そのまま諦めて帰ってくれると思っていたんだが、俺の考えはとてつもなく甘かった。
 なんと近くにいた俺の肩をぐわし、と掴んできたのだ。
 その人は学生時代に運動部にでも入っていたのか、豆や筋肉でとてもごつごつした手で、込められた力に俺の肩は悲鳴をあげ始めた。
「おい、なんとか言えよ!」
 じゃんけんを続行している俺は今かなり褒められるべきだと思うが、ぎりぎりと確実に大きくなる痛みにさすがに耐えられなくなっていた。
「なあ!」
 痛い痛い痛い。やばいってこれ、骨折れる。
 左手でそっとズボンのポケットから笛を取りだして思いっきり吹いた。幸い友達はじゃんけんに夢中で、俺が笛を出したことに気付かなかったらしく、あいこは続いた。
 肩が耐えられる限界の力が加えられ、なおかつ俺がじゃんけんに勝ったと同時に、大きな足音が聞こえたと思ったら。
 俺の右肩を掴んでいたそいつの顔面に足が深くめり込んだ。
「うわーっ、負けたー!」
「ぅおっしゃぁ!」
 負けたことに天を仰ぐやつ、高らかにガッツポーズを決めるやつ。色々いたが、その横で、ドシャァとコンクリートの地面に倒れこむやつに、俺は目が離せなくなってしまっていた。
 駆けつけたソラが跳び蹴りを食らわしたのだ。
「がっっ……!」
 食らった方が痛そうに手で顔を覆っているのに対し、ソラは転げているそいつの胸辺りを革靴で踏みつけると、いつの間にか持っていた黒のハンドガンを顔前に突き付けていた。
「休み時間は終わりだ」
 ソラが呟いた刹那、何の躊躇いもなく引き金を引いた。
 銃弾に脳天を貫かれたそいつは、血が出るわけでもなく、ただ霧になって、散っていった。
「ふぅ」
 ただ呆然と突っ立っていた俺は我に帰り、一仕事を終えた、というすっきりした表情で立ち去ろうとするソラの首根っこを掴んだ。
「わりぃ、俺ちょっとトイレ!」
「すぐ戻ってこいよー!」
 すでに上半身裸の友人に断ってから、屋上に続く階段へと走って行った。

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