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6-2. 中間考査結果

 ヴァネッサに昼食に誘われ、女子三人で食堂に集まっている。
 学園のいたるところにある食堂は、学園の生徒は基本的に無料で、幅広いジャンルの食事が楽しめる。
 今日は、生徒の間で特に評判の良いパスタのお店へ来ていた。

「あら、ユウリ。あまり食べてないじゃないの」

 ずっと食べたいと言っていた、キノコが沢山入った少しスパイシーなパスタを、ユウリは半分以上残している。

「……食欲ない……」
「まぁああ! 大変! ヴァネッサさん、ユウリを早く医務塔へ!」
「ナディアちゃん、この子、病気なわけじゃないわよ」

 何を隠そう、本日午後は中間考査の結果発表なのである。
 すっかりさっぱり振り出しに戻った普通魔法の実技を、約二週間強で猛特訓したにも関わらず、ユウリはその出来に全くと言って良いほど自信が持てなかった。
 折角試験終了のお祝いとしてヴァネッサが用意してくれた楽しい昼食の場も、自分の結果を思うと、食事があまり喉を通らない。

「ううう……あとせめて、二週間あれば……」
「まあ、新入生は試験の傾向や先生の出題の癖なんかわからないから、結構な人数追試になるし」
「追試前提で慰めないでくださいぃぃ」
「ごめんなさいね、ユウリ。私の力が至らないばかりに」
「ナディアも! まだダメって決まったわけじゃない!」

 両隣からよしよしと撫でられて、ユウリは両手で顔を覆って、ぶんぶんと首を振る。

「色々あったにしては、頑張ったでしょう」
「ナディアは、いつもトップって聞いたよ! そんな人の余裕は真似出来ない!」
「こら、ユウリ。ナディアちゃんに八つ当たりしない」

 ヴァネッサにペチンとおでこを叩かれて、言葉に詰まった後、ユウリは消え入る声で、ごめん、とナディアに謝った。

「ヴァネッサさんは、論文もういいんですか?」
「だーれに聞いてるの。完璧!」
「はぁぁぁぁ、二人とも優等生……」

 熟練クラスは、基本的に試験がない。ただし、一年間に提出しなければならない論文の数が定められており、ほぼ全てを一二ヶ月で仕上げてしまうヨルンやユージンを除いて、皆大体夏季休暇前に半分を終わらせるようだ。
 また、ロッシのように、研究によって特許を取った場合、その分論文が免除されるという。
 ある意味、実技が不得手なユウリはそういった評価方法の方が合っていると思うのだが、初級の中間考査でつまずいている彼女が熟練クラスへ進級するのは、夢のまた夢である。

「ユウリ、そろそろ時間よ」
「いーやーだー」
「駄々こねても、もう試験は終わっちゃってるんだから。ほら、行くわよ」

 二人に両脇を抱えられるようにして、ユウリは大講堂へ向かった。

「もう出てるみたいよ」

 中間考査結果は、大講堂の掲示板に、夏季休暇直前まで張り出される。

 二年目以降の生徒たちは大体の結果を予測できるので、余程自信がない者以外は暇なときに見にくるため、掲示板前にごった返すのは新入生がほとんどである。
 幸い、生徒数全員分張り出された結果は各級各レベルごとに分かれているため、自分の名前を探すのはそれほど時間はかからないだろう。
 ユウリとヴァネッサが新入生の輪の中で順番を待っていると、ナディアが早々と自分の結果を確認して合流する。

「どう、ユウリ?」
「ちょっと待ってね、ナディア。私まだ探してる」
「あ」
「ありました!?」

 気不味そうにヴァネサが指差す先は、太枠で囲まれた特別表示。
 一週間後の日付と、数人の名前が連なっている。

 ——斯くして、ユウリの実技追試が決定した。

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