1話
ハルト達は魔王軍の船を乗って2日間経ってレガリア大陸からマムンティア大陸のに移動中だった。
船デッキで潮風を感じているハルトとバルトゥール。
「なんも無いね…バルちゃん」
「うん…下も上も青いやお兄ちゃん」
「あと、2日かかるらしいよ…バルちゃん」
「お兄ちゃん、こいつら置いて私達だけでも先に行く?」
バルちゃんの瞬間移動ならすぐ行けるがイリヤとリリヤを置いていく訳にはいかないから我慢するしかない…。
本当に海と空以外は何も見えないな…。
果てしなく広い水平線と青い空の下で退屈そうに海を眺めている僕とバルちゃんの所に魔王テスラさんが来た。
「おっ!ハルト殿と妹様、そこにいたのてすか!」
僕達を探していたような表情だ…それに何か長い棒を持っている。
「テスラ姉さん…暇すぎて脳死しそうだよ」
「脳死?お兄ちゃん!大変だ!!人口呼吸!人口呼吸!」
本当にこの子の頭の中には何で出来てるか開いて見て見たい。
「バルちゃん…顔は大変そうに見えないですけど…」
「はははは!やはり妹様は面白い方ですね!」
「テスラさん…墓穴掘りましたよ?」
「あ?何笑ってるの?身体ごと摩り下ろして魚の餌にするぞ?」
ほらね…。
「すみません…勘弁してください」
バルちゃんの頭をポンと手を乗せて撫で始めた。
「えへへ、お兄ちゃんの撫で撫で好き!」
「テスラ姉さんを困らせないでね…」
僕はバルちゃんの暴走を止めれる唯一の存在…なのでこの子から目が離せない…。
「あっ?それって竿ですか?」
「はい!イリヤ殿とリリヤ殿も今、釣りを楽しむ最中でしてハルト殿もいかがかと…」
「いいですね!やります!やります!」
「お兄ちゃんがやるなら私もやる!」
丁度いい遊びが出来て良かった。
僕とバルちゃんは竿を持って船の後尾に行くと、先に釣りを始めていたイリヤ達が見えた。
釣りを始めてばかり見たいだ…まだ一匹も釣れて無い。
「よう!二人とも、まだ釣れて無い見たいだね…」
イリヤは飲み物を飲みながらウキをじっと眺めていた。
「釣りは魚を釣るのじゃ無い…時間を釣るものよ…」
ほぅ…格好いいセリフ!
イリヤの釣りの姿は渋いおじさんのようだった。
「んじゃ…やるか!」
僕とバルちゃんも釣りを始めた。
バルちゃんは釣りには興味が無く僕に抱きつき一人で喜んでる…可愛いからいいけど…まだちょっと怖いっす。
ウキに変化がない…こっちの魚はどんな味だろ?こっちに来てから刺身食べて無いや…刺身食いたい!
刺身が食べたい僕は大物を釣ると気合を入れた。
一時間ほど経ってようやくイリヤの竿に反応があった。
「イリヤ!竿が!竿が!」
「しっ!まだよ…奴は警戒してる…」
慎重に竿を握り手の感覚に集中するイリヤ。
その後糸が海の下に引っ張られ竿が大きく曲がった。
「よっしゃ!来た!」
魚とイリヤの息がつまるような戦いが始まった…引っ張ったり離して糸が切れないように全神経を使い集中していた…それでイリヤは汗まみれになった。
汗で下着が少し透けて見えた…。
ちょっと角度変えると鮮明に見えるはず…コックリ
しかし!バルちゃんが抱きついているから動けない…。
離してくれないかな…ずっと海と空しか見てないから別の物が見たいんだが…。
数分後一メートルほどの大物を釣り上げた。
「イリヤ!凄いよ!大物だよ!」
「お姉ちゃん!やったね!」
リリヤは自分が釣ったように喜んでイリヤを褒めた。
勿論僕も嬉しい!これで刺身が食べられる♪
「ふぅ…まあまあね……♩」
っと言ってるがイリヤもかなり嬉しいそうだった。
それにバックから何かを取り出し魚を乗せた…魚拓だった。
この世界にもあるんたね。
あと自慢するようにドヤ顔して見せた…いつもだが本当にその挑発する表情はむっと来る!
「ほぉ!また、挑発して来たなイリヤ!大物釣ってギャフンと言わせてやるぞ!」
更に気合が入った僕は大物用のエサに変えて竿を投げた。
「オホホホ!やれるならやって見せなさい!」
「待ってろよ!絶対凄いやつ釣ってやる!」
「釣り舐めんなよ!オホホホ!」
イリヤとのやり取りを楽しそうに見てるリリヤは僕の隣に来てイリヤの昔話しを語った。
「お姉ちゃんは子供のころから釣りが大好きで、父と良く釣りに行ってたんですよ」
「へぇ…釣り好きな女の子ってカッコいいね!」
「すぐ上達して村一の腕と言われたくらいですよ!」
「まじかよ!イリヤ…すごいな!」
懐かしそうに思い出話しをするリリヤ、その話を楽しく聞くハルト……そして、横でリリヤを睨みつけるバルトゥール…それに反応し睨み返すリリヤだった。
二人のその睨みっこの集中力を釣りに向けてもらいませんか?クジラも釣れそうだ。
その時、僕の竿が激しく曲がった!凄い力強いヒットだった。
「お、お兄ちゃん!来たよ!!!」
「うっしゃーー!イリヤに負けないぞ!」
エサに食いついたような感覚を感じた僕は思い切り竿を引っ張った。
「ん?なんだ?こ、これは重過ぎる!」
竿が折れそうな勢いで曲がった。
その瞬間、船の下から何かとてつもない大きい黒い物が見えて水面から飛び上がった。
あーなんですかね…あれは?デカ過ぎるでしょーー!
「う、嘘!デビルヴェール!!全艦!緊急離脱だ!」
テスラさんが驚き緊急にこの海域からの離脱命令を出した…僕はまた何かしらやらかしたそうだ。
デビルヴェール…マムンティア海域の深海に住む魚で、成体で一番大きデビルヴェールは長さ300メートルを上回るという巨大怪魚。
それに群れで動くので運が悪かったら大群に遭遇するらしいが…釣れたこのデビルヴェールは群から逸れたようだ。
ハルトの竿に食いついたのはまだ幼生でも60メートルはある大型クジラ級だった。
「さ、さすが、異世界……やべやべ!竿で…どうかやれるもんじゃないよ!竿が折れる!っていうか船が傾いたぁぁ!」
魔王の大きい母艦がデビルヴェールに引っ張られて傾き始めた。
「うわぁーーーーハルト殿!竿を離してください!海に落ちます!船が沈みます!」
仕方なく竿を離そうとした時…僕は小さな頃母とのキャンプの思い出が頭に浮かんだ。
.
.
「お母ちゃん、お母ちゃん!」
小さくて愛くるしいハルト。
「どうしたの?ハルトちゃん?」
クマさんの着ぐるみを着てる母…何故かクマさんの顔に刀傷が刺繍が入れてあった。
それでも可愛い姿だった。
「あのね…魚さん一杯捕まった!」
「……あら!沢山捕まえたね…凄いね!」
「えへへへ!でもね…あそこのおじさんに小さいから離してあげてと言われた」
幼児ハルトの話しを聞いた母は天使のような笑顔が険悪な顔に変わった。
「ハルトちゃん!いい?小さいだろうと大きだろうと関係ないのよ…自分が手にした物を手放すなど…そんな人…生きる価値あるかしら?まぁ!私達の為にお金を潰てくれるならいいけと?」
「うん?そうなの?」
母が指を鳴らした瞬間、一緒に来た黒づくめの男達が火を起こして調理道具をセットした。
「ハルトちゃん…全て焼いて貪り食らい付きなさい!!私の後を継ぐ男がそんな生温い人になったらだめよ?自分が手にした物を手放す愚かな行為はお母さん、許さないわよ?」
「ひぃ!分かったよ、お母ちゃん…」
「我が家の家訓は?」
「ご、強欲上等…?」
「あら!良く出来ました!ふふふ」
母は天使のような笑顔に戻った。
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そうだな…その後僕は小さい魚を残さず焼いて食べる事になったが…全く美味しくなかった。
それと魚を放生するよう言ったおじさんは母の部下達?にどこかに連れていかれた。
母に叩き込まれた我が家の家訓…それを思い出した僕は竿を強く握り直した。
強欲上等!
「竿の弾力性!強度強化!糸の強化!流れ込め!蠢く龍の血脈!ドラゴニアパワー!貴様は僕のもんだぁぁ!うりゃぁぁぁぁ!」
竿でデビルヴェールを水面から上空まで引っ張り上げた。
「お刺身食わせろーー!!」
飛び上がりオゥカスで頭をサクッと切り落とした。
「よっしゃーー取ったどぉぉ!」
初の釣りに超大物を釣ってVサインを決めた。
「お兄ちゃん!凄い!かっこいい!」
相変わらず兄を褒めるバルちゃん。
「おおーーさすがハルト殿!」
相変わらず尊敬の眼差しのテスラ姉さん
「ハルトさん!やりましたね!」
相変わらず僕を見て喜ぶリリヤ。
「……そんな!バカな!」
相変わらず僕に負けるイリヤ。
さて……お返しお返し!
「ねぇ…イリヤ、魚拓…頼んでもいい?」
ニヤッと笑いドヤ顔で最大級の憎たらしい表情でお返しした。
イリヤは僕の前で九の字になった。
「あ、あ、あんなの…魚拓出来る訳ないじゃん!」
また勝った…ふぅ♪圧勝だった。
「テスラ姉さん、あれって食べられる魚ですか?」
「あんなの釣れるのはハルト殿ぐらいですよ…」
その質問に答えに困ってる見たいだった。
「しかし、食べた事ないですがとても美味しい怪魚との記録はありました……」
怪魚か…なんか食欲が失せる…でもせっかく釣ったしな。
「へぇ?なら…食べて見よう!そろそろ夕飯の時間だしね…」
海に浮いているデビルヴェールに乗り込んで身をちょっと切り取り味見をした…懐かしい味!
この味……ホシカレイ!美味しい!この独特な歯ごたえ!よっし!今日の料理は決まりだ!
切り分けて解体したが…捌き切れなくて5割以上残った。
捨てるのは勿体ないから船の後尾に縛り持って行く事にした…。
厨房に向かい色々な自分の調味料を取り出し料理を始めるとバルちゃんとテスラ姉さんが入って来た。
「お兄ちゃん?何してる?」
「今日の夕飯!デビルヴェールの味見してみて食べたい料理があってね」
「そ、そ、そんな!国賓に食事を自炊させる訳にはいけません!国の威信が…」
テスラさんは慌てて止めようとした。
「自分が食べたいだけですから!料理は趣味だし…バルちゃんは僕の手料理食べたい?」
「お、お、お兄ちゃんの愛の料理!食べたい食べたい!」
「し、しかし…」
「おぃ魔王、お兄ちゃんの邪魔すんなよ…しっしっ!アチ行け!」
食い付いて来たバルちゃんは困ったような表情のテスラさんを追い払ってくれた。
「わ、分かりました!」
「ちょっと待って!テスラ姉さん、ちなみにこの船に何人ほど乗ってますか?」
「ええ…この母艦には2000人程ですが……」
多いな……。
「分かりました!」
「ん?では失礼します…」
テスラさんが去ってからニコニコ、ヘラヘラ笑顔で僕の料理する姿を見てるバルちゃん…正直邪魔だった。
2000人前か…一人じゃ厳しそうだった。
ふふふ…働かざるもの食うべからずだ。
「バルちゃん、ちょっと後ろに置いてある皿取ってくれる?」
「うん?これのこと?」
以外と素直に手伝ってくれてる…なら!
「切ってある魚、こっちに入れて、あとこれ焼くの手伝って、皿に移して、盛り付け、出来たものあそこに置いて、ちょっと!つまみ食いはだめだよ!」
「わ、分かったよ!これはここ…あと、焼いて、皿に移して…ん?何で私こんな事やらなきゃいけない?」
……チッ、気付いたか。
「花嫁修業だよ?…嫌ならいいけどお嫁にしてもらう為にはこれぐらい出来ないとね…他の人は分からないが、僕としては論外だな……」
「こ、こんなのちょろい!見ててお兄ちゃん!」
…ちょろいのはバルちゃんだよ
以外と根は悪くないように感じた…でも邪神だ。
.
.
.
一方…イリヤ達は…
「くそ!くそ!シクシク」
イリヤの後ろ山ほど魚が積まれていた。
「お姉ちゃん…あれ以上釣るのは無理だよ…釣っても困るよ」
「私の一番得意の釣りが…また負けたよ…うううう」
ど素人に負けて意地になったイリヤだった。
日が落ち暗くなり夕飯の時間になった。
いつもよりかなり時間がかかってどんな料理かみんな期待してる目だ。
「ああ…疲れた…料理って大変だな」
ハルトの手伝いに疲れたバルトゥールはテーブルにぐったり体を伸ばした。
「あら?やはり年は誤魔化せないですね!オホホホ!」
「これから年相応な振る舞いをするんだな!」
「…毒虫、糞虫…今日は疲れたからやめてくれるか?」
かなり疲れた双子の突っかかりをさらっと流した。
そして、ハルトは出来た料理を持って来だ
「ジャジャンーーデビルヴェールのホシカレイ風味!塩焼きと煮物!あとお刺身でございます!召し上がって!」
船の食堂で自分の料理を披露した。
醤油ベースでほんのりピリ辛の味付けの煮物、表面が少し狐色に焼けた塩焼き、そして綺麗に盛り積まれた刺身。
「お兄ちゃんの愛の料理!頂きます……パック!モクモク!…こ、こ、これが愛の味…なんと破壊的な旨さ!先までの疲労が吹っ飛ぶ!……パックパック」
まだ僕の料理を食べた事がなかったバルちゃんは幸せな表情で食べていた。
「相変わらず憎たらしい味付けね…これじゃアンタの嫁になる人が可愛そう…だょ…」
イリヤは急に顔が赤くなった。
「本当…ハルトさんの料理は美味しいです…食べると本当に元気になりますよ!えへへ」
あの天使のような笑顔……が!怒るとまじ怖いもんな…キャップが激し過ぎる。
「ありがとう!そう言ってもらえると作り甲斐があって嬉しいよ、まだまだ沢山あるから遠慮なく食べてね!」
いい匂いに釣られてテスラさんも来た。
「おお…中々いい匂いですな…ハルト殿のお料理ですか?」
「テスラ姉さんもどうですか?」
同席する前にチラッとバルちゃんを見た。
料理に夢中だったので安心して椅子に腰掛けて食事を始めた。
「ふむ…ハルト殿の手料理か…では頂きます」
テスラさんは匂いを堪能してから料理を口に入れた。
「ん!な、な、なんだ!この味は!!不思議な甘しょっぱい?ピリッとした後味!この絶妙な塩加減がたまらん!」
「お口に合って良かったです」
「この綺麗に盛り付けてあるのは生魚の身ですな…どれどれ、コリコリしてうまい!生臭さもない!!ハルト殿!なんと素晴らしい料理の腕!!」
「あはは…褒めすぎですよ!まだまだ、沢山あるますから、遠慮なくどうぞ…」
厨房から料理をドンドンドンドン出した…ふぅ、あとちょっとだな。
「…ねぇ…ハルト、いつまで出すつもり?」
「…作りすぎですよ…」
「一応…2000人前?テスラ姉さん…船のみなさんにも…」
「よろしいですか?」
「これからお世話になりますので、お礼としてですよ」
テスラさんは部下を使って船の皆んなにも料理が渡った…そして皆んな食べる事で夢中になった。
料理は大好評のようだ…。
ふぅ…美味しかった…あと少しでマムンティア大陸に着く!魔王国か!楽しみだな…♪
夜空を見上げながら新たな旅の目的地にワクワクするハルトであった。
ケモノミミモフモフ♪触り放題!イヤーフ♪